第20話 世紀末攻略会議
ギルドハウスのリビングルームには、先ほどの賑やかさとは打って変わって、真剣な空気が流れていた。テーブルの上にはマスターモンカーズの戦闘データと彼らの初戦動画が映し出されたウィンドウが広げられている。
「相手の得意スキルは『ダブルアクセル』っていう機動力アップのバフ。それで一気に距離を詰めてくる」
動画を見ながらメイが冷静に分析する。フィールド狭しと駆け巡る世紀末ファッションのモンクたち。彼らは相手パーティーの後衛に一目散に突撃し、回復役のプリーストとウィザードを瞬殺していた。
「うっわ、速い!」
アリスが声を上げる。
「紙耐久なのに、あれだけ速いと狙いようがないね……」
「前衛のタンクも気づいたら囲まれて、あっという間にHPゼロになってたな」
ルーナが唸る。
(やられる前にやる、が徹底されてる。このスピードについていけない時点で普通のパーティーじゃ勝ち目はない)
「厄介なのは『貫通撃』と上位版の『螺旋貫通撃』。盾や防具の防御力を無視して本体にダメージを与えるスキル。クールタイムも短いから後衛には脅威ね」
フィリアが補足する。
「つまり、防御無視攻撃でこちらの盾防御を無効化してくるってことか! 最悪じゃん! 普通に戦ったら負けるかも……」
ルーナが頭を抱える。
(確かに、普通に戦えば私たちの盾は意味をなさない。相手のスピードについていけない時点で負け確実)
メイは内心、厳しい戦いになると確信していた。だが彼女は諦めない。このゲームはセオリーを無視した発想が通用する。
「ルーナ、アリス、フィリア。相手はモンク特化。つまり『回避チート』集団よ」
「そうだねー。メイちゃんもそのクチだし」アリスが笑う。
「だからこそ、私たちだけの戦法で相手の得意分野を封じる」
メイはそう言うとウィンドウを操作し、先日攻略した『岩窟王の城塞』のボスドロップアイテム**[岩窟王の大盾]**の項目を表示させた。
「「「岩窟王の大盾!?」」」
三人が驚きの声を上げる。大盾は両手武器扱いのためシールダー(ガーディアン)専用装備。通常のウォリアーやナイトはもちろん、ウィザードやプリースト、モンクといった盾装備不可ジョブは、称号なしでは装備することすらできない装備だ。
「これ、みんなで装備するの?」
フィリアが尋ねる。
「え、これ装備したら動けなくなるよ! 私の自慢の機動力が!」
ルーナが慌てる。
「いいの。どうせ相手のスピードにはついていけない。なら最初から動かない戦法で行く」
メイの言葉に三人は目を丸くする。
(リアル武術の応用。相手の動きが速ければ、逆に動かないことで予測を封じる。そして、全員が盾持ち……)
「全員で大盾を背中合わせに構える。ちょうど四枚で城塞みたいになるでしょ? 名付けて『岩窟城塞作戦』よ」
「「「岩窟城塞!」」」
「相手は防御無視攻撃が得意だけど、私たち称号でHPも防御力も通常プレイヤーの数倍あるでしょ?」
「うん、まあ、そうだけど……」
「その異常な耐久力で相手の貫通攻撃を『耐え凌ぐ』の。そして相手が攻撃してきた隙を狙う」
メイの奇策に、三人の顔に再び悪だくみをしたような笑顔が浮かぶ。
「「「それ、面白そう!」」」
「よし、決まりね。明日の試合は全員大盾装備でいくわよ」
セオリーを覆す奇想天外な作戦会議は、ワイワイとした楽しげな空気の中で終了した。
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