第5話 音に秘められた力
「ミユ。」
腕に手を添えられ、息をつく。
「時間だ・・・。」
ヤトの声に顔を上げ、低い艶やかな声の主を見た。
表情の読めないはずの黒い瞳が、憂いを含みミユを見下ろしている。
「音の嵐だな・・・。」
嵐・・・。ヤトの言葉に鍵盤の上に置かれた手を目の前に掲げ、震えているのに気が付く。どれくらい弾いていたのだろう・・・。
夢中で、音に浸っていた。
「時間です。迎えが来ています。」
何時の間に入って来たのか、リビングの入り口の扉が開き、ルカが立っていて軽く頭を下げている。
迎え・・・。そこでハッと我に返り立ち上がる。
「す、すみませんっ。掃除が・・・。」
「あのロボットを忘れずに持って帰るんだな。それと・・・これもか?」
ヤトの手に昨日ミユがもっていた小型銃が握られているのに気が付き、心臓が飛び跳ねた。
「・・・っ!」
顔色が変わるミユを冷めた目で見て、銃をミユの前へ持ってくる。ミユは恐る恐るそれを手に取り、慎重にジャケットのポケットへ仕舞った。
「あの距離で、それを使って本当に仕留められると思ったのか?」
ヤトは顔をしかめ、ミユを睨んでいる。
「・・・あの時は夢中で・・・。」
「オウヴァーなら、お前は死んでいたぞ。それを出すなら、間違いなく仕留めろ。」
「・・・あの・・・。」
「なんだ。」
胸の前で腕を組み、首を傾げるヤトを観察する。ここまで近くにオウヴァーが居れば、恐ろしくてじっとしていられないと思うが、ヤトがこちらに殺意がないのが分かって冷静になれた。
「オウヴァーですよ・・ね?」
「・・・どういう意味だ。」
「感情が・・・人間みたいというか・・・。」
顔色を伺うようにヤトを見上げ、余計な事を聞いたかと後悔していると、ヤトの眉があがり口元がニヤリと笑みを浮かべ、ミユの好奇心に火がつく。
笑った?
「マスターって人間なんですか⁉」
「人間だ。オウヴァーも、そしてアウトも。そうだろう?」
・・・オウヴァーも、・・・アウトも?確かに元は人間だけど・・・。
「マスターそれ以上引き留めれば、AIの警報がなります。」
ルカの声でヤトもため息をつき軽く頷く。
「だそうだ。又呼ぶ。今日は帰れ。」
×××
又、と言った・・・。
会社の自動操縦の車は時間通りに動く様になっていて、時間を超えてスタッフが戻らない場合、事故があったとみなされ警報で通報される事になっている。スタッフを守る為の保険の様なものだ。
そのおかげで、ミユは解放され、仕事をしていないお掃除ロボと共に車に乗り込んだのだが・・・。さっきの言葉が頭から離れない。
ミユが夢中でピアノを弾いている間、あのマスターは側に居た。ミユのピアノを気に入ってくれたのか・・・。だが、何をどう弾いたのかあまり覚えていない・・・。まだ余韻で震えが残る両手の平をマジマジと見てしまう。
又・・・あのピアノを弾かせてくれるのなら、オウヴァーの巣窟にだっていってやる。
ヤト・・・。
グランドピアノの様な漆黒のイメージの綺麗な男が頭に浮かび、小さくため息をついた。
あの男こそグランドピアノの生き写しではないか・・・。
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