第19話 魔王城から ~親愛なる娘へ~
休火山の噴火は不吉を告げる予兆か。
その頃、とある山脈にある魔王城では。
「フフフッ。炎魔のバルズバラン。そして氷鬼のギリアンよ。卿らに問う。我らの覇道を申してみよ」
「はっ! 生きとし生ける者が皆で手を取り合い笑い合える! そんなリデルコベルを創り上げる事でございます!! その覇道のためならば如何なる手段も選びませぬ!!」
「えっ!? あっ!? ……ひっひっひ!! まことにその通りでございますれば!!」
頑張って喰らいついて行くギリアン。
魔王ファロスと炎魔のバルズバランは頭を強打してからずっと、過激な平和主義者というよく分からない存在になっている。
つい1ヶ月前までは「フフフッ。人間など根絶やしにしてくれる。余のリデルコベルに巣食う白蟻どもめ」と言っていたファロス。
今は「フフフッ。人間どもに迷惑がかかるかもしれぬゆえ、お花を摘むのは僻地にて執り行うのだ!! 魔王城を一刻も早くお花でいっぱいに飾り付けよ!!」と下知をくだす。
バルズバランに至ってはアシュロフト村に呼び出されたのはサトルのせいだとしても、その後は「フハハハハハ!」とご機嫌で村人たちを皆殺しにとようとしていたのに。
「ファロス様。吾輩に妙案がございます」
「フフフッ。申してみよ」
「お花であれば、やはり女子の方が目利きも得意であろうかと愚考いたしますれば。吾輩の娘に西大陸の珍しいお花を集めさせたい由にございます」
「フフフッ。バルズバランよ」
魔王ファロスは言う。
「フフフッ。卿、娘がいたのか? そもそも結婚しておったのか? いつ? 余は知らぬが」
「ははぁー!! 実は内縁の妻がおります!! 籍は入れておりませんが、デキちゃってございます!! もう15になります! 娘!!」
ファロスは新調したばかりの玉座から立ち上がってマントを翻す。
「フフフッ。バルズバランよ。乙女を不安にさせるものではない。卿は即刻、結婚の儀の用意をせよ。フフフッ。余が直々に祝ってくれる……!! お花でいっぱいになった魔王城でな!! フフフッ。フフフフフフッ!!」
「なんと……!! 吾輩のために!?」
「フフフッ。卿と余は主従関係にある。しかし、主従の前に魔王軍は1つの家族!! 愛し合う者同士、子もいると言うのに結婚をせぬ道理はない。さては余に気を遣ったな? バルズバランよ」
「はっ。ははぁー!! ファロス様は700年ほど独身でございますれば!! 吾輩! 賢し気にも気配りなどをしてしまいました!! お許しください!!」
ファロスは玉座に座り直した。
「フフフッ。良い。であれば、祝儀が必要であろう。ギリアン」
「えっ? あ、……はっ!! 人間どもの首を集めて来るのでございますか!? ひっひっひ!!」
「フフフッ。ギリアン。余も冗談は得意ではないが、喩えジョークだとしてもそのように過激な物言いは控えよ。人間どもには祝儀を配るのだ。空から金貨の雨を降らせてやるが良い!! フフフッ。フフフフフフッ!! 人間どもの戸惑う顔が目に浮かぶわ!!」
「あ。はい。……ははぁー!!」
「魔王軍も変わっちゃったな」とギリアンは首を垂れながら思った。
バルズバランが最後に尋ねる。
「それでは我が娘はいかが致しましょうか? 吾輩の居城である西大陸の休火山にて待機させておりますが」
「フフフッ。あの辺りは自然も多い。卿。余は妙案を思い付いたぞ。卿と卿の妻にお花の冠を与えよう。その用意を娘にさせよ。娘の名はなんと言う?」
「はっ! 我が娘は炎魔のバルルン! バルルンにございます!!」
「フフフッ。卿の遺伝子がいささか強く出過ぎているような気もするが、良き名よ……。バルルンにはお花の冠が仕上がり次第、転移魔法で魔王城へ出頭するようにと伝えよ。良いな? 式の事は口外してはならぬぞ」
「な、何故でございますか!?」
「フフフッ。知れたこと。娘のバルルンにとってもおめでたい席。ならば、サプライズを敢行するのだ。お花の冠を2つ用意しろと伝えれば、さぞかし困惑するであろう。そしてそれが父親と母親の結婚式のためだと知れば……。フフフッ」
「はっ!? バルルンも喜びます!! さすがは偉大なる叡智!! 魔王ファロス様!!」
ファロスが再度、玉座から立ち上がりマントを翻す。
ここまでずっと会話を続けており動きがまったくないので仕方がない。
偉大なる魔王は会話劇でも手を抜かない。
「フフフッ。バルズバランよ。卿は内縁の妻を呼び寄せよ。ギリアン。卿は余と供に参れ」
「はっ!! 私に何かできるでしょうか!? もはや自信がありませぬ!!」
「フフフッ。ギリアン。卿は余と供に……ウェディングケーキの用意だ!!」
「はっ。ははぁー!! もう遮二無二にどこまでもお供いたします!! ファロス様!!」
こうして魔王の勅命が下った。
それはバルズバランを通じて、西大陸の休火山にいる娘、炎魔のバルルンにも伝えられるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
西大陸。
休火山では。
『そういうわけだ。バルルン。お前にはお花の冠を作ってもらいたい』
「は? お父様? いい加減、意味が分からないんだけど。この間からお花を集めろとか。その前までは普通に人間の村を焼き払えって言ってたよね? 先月とか」
通信魔法を使ってバルズバランが娘と連絡を取っていた。
『バルルン。女の子がそんな事をしてはならん』
「いや。魔族に男も女もないって教えてくれたのお父様なんですけど。あたい、魔力も漲ってるしさ。近くの村を全滅させて、西大陸を魔族だけの大地に変えてみせるよ?」
『バルルン!! 父はこれ以上、お前の口からそのような言葉を聞きたくない!!』
「全部まるっと同じセリフを返したいんだけど。お父様はどこかで頭でも打ったの?」
打っているのである。
『良いか。お花の冠を作るのだ』
「作り方分かんないんですけど」
『吾輩もよく分からん。しかし、こういうものは気持ちが大事らしい』
「気持ちの入れ方が分かんないって言ってるんですけど。あたい、お父様に一撃を与えた人間を襲おうと思ってさ。魔力をすっごい溜めてたのね? この完璧なコンデイションで、どうして高原に行ってお花の冠作らなくちゃいけないの?」
『聞き分けるのだ! 魔王様の勅命であるぞ!!』
「ええー。じゃあやるけど……。あたいにできるかな……」
『フハハハハハ!! お前は炎魔のバルズバランの娘!! できぬ事などないわ!!』
「いや、あるって。現にあたい、人間殺す気満々だったのにやらせてもらえてないじゃん。この魔力をどこに放出したら良いのか分からないし」
そこで通信魔法による親子の会話は途切れた。
大きなため息をつくバルルン。
「はぁー。なんか分かんないけど、やるかー。あたいが本気出せば、多分だけどお花の冠くらい楽勝で作れるでしょ。何に使うのか知らないけど。あ! 人間の刈り取った首を飾り付けるのかな!?」
炎魔のバルルン。15歳。
血気盛んな父親の遺伝子を強めに受け継いでいる。
彼女は休火山を飛び立って、近場の高原へと向かう。
そこにいるのはサトルとライカである。
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