第22話 義父と呼ぶにはまだ早い
作戦会議から一週間後。
王宮の会議室には、陛下、旦那様、グレゴール卿、お嬢様に加え、新たに王の信頼も厚いエルド先生も招集されていた。
物流国営化とトロッコ計画の具体的な実行準備を進めるためである。トロッコ計画の構想を共有するため、お嬢様の強い希望で実現した。
そして更に―—
扉がノックされ新たな客人が招き入れられた。
「おお、来たか!よく来てくれた」
陛下が立ち上がり出迎えるのは、お嬢様と俺には見覚えのある二人組——ドワーフのグリムとエルフのセリオスだ。
「初めてお目にかかる。ルミナス王国国王、ロートニア・ルミナスだ。遠路遥々、感謝する」
「お招きいただきありがとうございます。微力ながら協力させていただきます」
陛下に出迎えられ若干緊張気味の二人。セリオスが代表して挨拶をし、その後ろでグリムが首を垂れる。
セリオスよりも緊張していたグリムだったが、お嬢様を見つけると顔を綻ばせる。
「グリちゃんセリちゃん先週ぶり~。来てくれてあんがとね」
「嬢ちゃんからの頼まれちゃぁ断れる理由がねぇだろ」
グリムが豊かな髭を撫でながら言う。
「私も同じです。レティシア様のお役に立てるなら、喜んで」
セリオスが穏やかに微笑む。
お嬢様が両手を広げてジジイ二人に近付こうとするのを俺は慌てて制止する。ここには旦那様がいる。つまり場合によっては死人が出る。ほら、すげえ怖い顔でこっち見てる。
「お嬢様、再会はの挨拶は後ほど…今は陛下の御前です」
俺の建前で静止されたお嬢様が照れ笑いを浮かべながら姿勢を正す。
陛下が改めてグリムとセリオスに近づいた。
「堅苦しいのは苦手でな。レティシア嬢から話は聞いている。三日で塩の装置を完成させたとか。素晴らしい腕だ。是非今回のプロジェクトにも協力していただきたい」
「大抵のモンは三日あれば作れやすぜ」
褒められて調子づいたグリムが胸を張って応える。
「ぶゎっはっは! それは頼もしい! 城では自宅にいるつもりでくつろいでくれ」
俺は陛下とグリムが意気投合している光景を眺めながら、妙に馬が合いそうだと思った。どちらも脳と手足が直結していそうである。
一方、エルド先生がセリオスに近づく。
「魔法陣による永続的加熱システムの設計者とお見受けします」
セリオスが眼鏡の位置を直しながら頷く。
「はい。森の民、エルフのセリオスと申します。あなたは……」
「エルド・ノア。現国王、かつての勇者と共に世界を旅した者です」
「…エルド・ノア……まさか、無詠唱魔法の第一人者の?」
セリオスの瞳が輝く。
「第一人者とは大袈裟ですが…むしろそれよりもセリオス殿の魔法陣理論には興味があります。古代魔法陣の応用でしょう?」
「ええ、まさにその通りです。失われた技術を現代に蘇らせることに心血を注いでおりまして」
「素晴らしい。後ほど詳しくお話を聞かせていただけますか」
二人が握手を交わす。知的好奇心で繋がる同士、という感じだ。こちらも話が合いそうで何よりである。
咳払い一つ、旦那様が話を進めていく。
「早速本題に入ろう。グリム殿、セリオス殿、改めて歓迎します。宜しくお願いします」
「よろしく頼むぜ、伯爵様」
「お役に立てるよう尽力いたします」
続いて陛下が口を開いた。
「では、具体的な計画を聞かせてもらおう。レティシア嬢」
「はーい」
お嬢様が軽い感じで王の言葉を受け地図を広げる。
ルミナス王国全土の地図だ。王都から主要都市へと伸びる街道が赤い線で記されている。
「えっとね、街道に沿ってレールを敷いて、荷物を運ぶ台車を走らせるの。魔力で自動で動かせば、人手も時間も大幅に削減できっしょ」
お嬢様が指で王都から各都市へとなぞる。
「本当は電車の方が良いんだけど、いきなりは無理っぽいからさ」
グリムが目を輝かせながら身を乗り出す。
「でんしゃってのはよくわからんが、トロッコのレールと台車の設計は任せろ。鉱山で使ってるトロッコの応用だな」
「そうそう! グリちゃんなら簡単に作れると思った!」
セリオスも頷く。
「魔法陣も組めますね。動力を供給し続けるシステムなら、塩の装置で実証済みです」
「さっすがセリちゃん!」
お嬢様が嬉しそうに笑う。お嬢様のネーミングによって二人の凄さがあまり伝わらないのではないか不安が残るが、二人とも嬉しそうだからきっと問題ないだろう。
順調に進んでいるお嬢様の説明だが、俺は問題点を指摘せざるを得ない。
「お嬢様、動力源をどうされるおつもりですか」
俺の言葉にエルド先生も同意を示すように頷く。
「街灯のイメージで街道全体に魔力を供給し続けるのは非現実的です。魔光石も有限ですし、何百個も用意するのは不可能でしょう」
グリムが腕を組む。
「なるほどな…装置は作れるが動かし続ける力がねぇってことか……」
セリオスも眉を寄せる。
「確かに……ポートランドの装置は場所が固定されているから問題ありませんでしたが、王国全土となると話が違います」
全員が沈黙に包まれた時お嬢様が、珍しく不安そうな表情で懐から古びた本を取り出した。
「ちょっと自分なりに調べてたんだけど」
一同の視線が本に集中する。
革張りの表紙には古代文字らしき文様が刻まれている。
「古代文明には、永久に魔力を循環させる技術があったって」
陛下が身を乗り出す。
「それは……」
「ゴーレムのコア——自律型ゴーレムの動力源。これなら街道全体をカバーできるんじゃないかなって…? ただ詳しくないからみんなの意見を聞きたくて」
お嬢様が本を開き、複雑な魔法陣の図が描かれたページを見せる。
陛下が驚いた表情で本を覗き込んだ。
「レティシア嬢……よくこんな古文献を調べたな……」
「えへへ、まぁあたしも皆を頼ってばかりはいられないからね♪ 意識高めっしょ」
お嬢様が恥ずかし気な表情で笑みを浮かべる。その姿を見て、俺は思わず笑みを浮かべそうになるが、今なお嬢様の照れ笑いを目に焼き付けようとしている旦那様を見て冷静を取り戻す。
そんなことより、必死に勉強していたのだろう。お嬢様らしい。
エルド先生が本を手に取る。
「これは……確かに古代魔法陣です。自己修復機能を持ち、永続的に魔力を生成し続ける……理論上は可能ですが」
「でも失われた技術じゃないの?」
旦那様が尋ねると、陛下が深く頷いた。
「ああ。古代遺跡に眠る自律型ゴーレム。そのコアは永久に魔力を循環させる、今は失われた古代の技術だ」
セリオスが眼鏡を光らせる。
「それが手に入れば、確かに繋がっているレール上の魔力を循環させられるかもしれない…」
グリムが髭を撫でる。
「じゃあ、そのゴーレムのコアってどこにあるんじゃ?」
陛下が地図を指差す。
「王都から北へ三日。廃墟となった古代都市の地下だ」
「私に任せて! どんなアイテムだろうと素材だろうと、クラウと一緒に必ず手に入れて見せる」
魔光石の入手でダンジョンに自信を持っているお嬢様が即座に答える。
しかしそれを意外な人物が待ったを掛ける。
——旦那様だ。
「駄目だレティシア! 月影の洞窟とはレベルが違う!」
「でも——
「古代都市には強力なゴーレムが守っている。お前とクラウスくんだけでは危険すぎる」
俺は旦那様の言葉に、思わず拳を握りしめる。
確かに月影の洞窟のゴーレムは強敵だったが、あれが複数…しかも更に強力な個体が待ち構えているとなれば、今の俺では——
「ちょっとパパ! クラウはめっちゃ強いよ! あの鋼鉄のゴーレムだってクラウ一人で倒したんだから」
お嬢様が反論するが、旦那様は首を横に振る。
「それは分かっている。だが、クラウスくんはまだ二十歳だ。この数ヶ月で確かに成長したとしても古代遺跡に眠る番人ゴーレムは別格だ。レティ、君を守りながら戦うのは彼自身にも危険が及ぶ」
静かな、だが揺るがない口調で旦那様が言い切る。
「僕は君の父親だ。娘をみすみす危険に晒すわけにはいかない」
そう言われてしまえば、お嬢様にも俺に反論の余地はない。大人が子供を案じる、いつの世も当たり前のことだろう。自分の力不足が歯痒い。
「お嬢様申し訳ございません。この私の未熟さゆえ、お嬢様の足枷となり——」
「クラウは悪くない!パパが分からず屋なだけだし」
お嬢様が俺の言葉を遮る。そんな状況ではないが、旦那様の悲しそうな顔に心が痛む。
「パパも心配してくれてるのは分かるけど、でもクラウと一緒じゃなきゃ意味がないの!」
突如勃発した親子喧嘩に会議室の空気が重くなった、その時だった。
「……ひとつ提案がある」
陛下が穏やかな声で口を開いた。
「レオン、お前はクラウスくんの実力をどの程度把握している?」
「……正直に言えば、昔ほどは把握していません。娘の専属執事となってからは、ほとんどクラウスが戦っている所は見ていません」
「ならば、レオン自身で確認してみてはどうだ」
陛下の言葉に、その場にいる全員が息を呑む。
「レオン、お前が直接クラウスくんと手合わせをしろ。元勇者パーティーの一員として、その目で見極めるんだ」
「……ロト! 流石にまだそれは早い! レオンは手加減できるほど器用じゃない!!」
珍しく焦った様子で、普段冷静なエルド先生が王に物申す。すぐに古い友人とはいえ、公で二人を呼び捨てにしてしまった自身の過ちに気付いてすぐに謝罪している。
……どうでも良いが、ここに元勇者パーティーの3人が揃ってるって凄いことなんではないだろうか。あれ? 残りバルド師匠で全員集合?? リオネール家ってもしかして過剰戦力を抱えているのではないだろうか。
「勿論訓練の域を越えてはならない。心配ならエルドが魔法でバフでも重ねておけば良いだろう。クラウスがレオンを納得させられるだけの実力を示せば、古代遺跡への同行を認める。それでどうだ?」
旦那様が俺を見る。その瞳には、娘を案じる父親の想いと、かつて世界を救った英雄の一人としての鋭さが混在していた。
俺は深呼吸し心を落ち着かせ、旦那様を見据える。
「挑戦させて下さい、旦那様。私たちの成長を見届けて下さい」
「……仕方ない、分かった。子供らの無謀を止めるのも大人の務めだろう。まだ義父と呼ぶには早いということを教えてあげよう」
…最後はどういうことだろう。ここには助けてくれる奥様はいない。
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