第1話 ヨミヨミ・パーティー

1 モヤモヤ

 ねぇ。

 みんなの通学路って、一体どんな感じ?

 私の通学路はね……マジで最悪。


 私んちは、うぐいすみさきニュータウン。

 だから家は、山の上にあるの。


 で、通学路の下には、ズラーーーッとお墓が並んでる。

 とにかく、お墓、お墓、お墓。


 いわゆる『大型霊園れいえん』ってやつ?

 山の斜面に、一体何百あるのかわかんない墓石はかいしたちの群れ。


 何て言うか……それは、それは、すっごい光景だよ。

 おまけにここを通る時、私はいつも一人ぽっちなんだ。

 だって家がこっちの人、私以外にいないんだもん……。

 だからその日も、学校が終わってから、私は一人でその通学路を歩いていた。


 一日の終わり。

 オレンジ色の夕暮れ。

 そこら中で鳴いている、ありえない数のカラスたち。

 どよ~んとした風が、私のホッペをなでていく。


 あの、これ……キュートな中一女子が過ごす風景ですか?

 キラキラとした青春の、カケラもないじゃないですか。


「ったく……パパもママも、どうしてこんなとこに家を建てたかなぁ……」


 そうつぶやいた瞬間――私の視界の隅っこで、ユラッと何かが動く。


「ん?」


 立ち止まり、私は道の下に広がる霊園の方を見下ろした。

 そして――思いっきり息を止める。


 ずっと下まで続く、お墓たちの群れ。

 その通路部分、坂道のなかほどに――何かモヤモヤとした、人影のようなものが見えた。


「な、何? あれ……」


 私は、大きく目をこらす。

 く、黒くない?

 めっちゃ、黒くない?

 って言うか、ちょっと動いてない?


 まるで小学校の頃、理科の実験でやった、磁石にくっつく砂鉄さてつみたい。

 あぁいうのが……人のカタチをしている。


 ひょ、ひょっとして……あれは、アレですか?

 その……決して見てはいけないやつ?


「マ、マジか……」


 私は、あわててそこから立ち去ろうとする。

 もちろん、早足で。

 歩きながら、ふたたび霊園を見下ろした。


 すると、さっきの黒いモヤモヤが――坂道を上がってきているのが見える。

 フワッと、舞い上がるように。


「ちょ!」


 ビビりまくった私は、さらに歩くスピードを早める。

 って言うか、これ、もぉ、完全に走ってます!

 もはや、全力疾走!


 走りながら振り返ると、黒いモヤモヤは、いつの間にか私の通学路に到着。

 ものすごく美しいフォームで、いきなり、は、走りはじめた!

 しかも、こっちに向かって!


「な、なんで追っかけてくるの? って言うか、は、速すぎでしょう!」


 泣きそうになりながら、私は走り続ける。

 霊園のエリアが終わるまで、あともう少し!

 あそこまで走れば、なんとか大丈夫な気がする!


 が、がんばれ、私!

 あと、もうちょっと!


 そう思った瞬間――あろうことか、私はその場に全力で転んでしまった。

 ズザザザーーーッと!


 な、何なの、私?

 フツー、中一女子は、もっと、こぉ、キュートに転ぶべきでしょ!


 いや、でも、今はそんなこと考えてる場合じゃない!

 あの黒いモヤモヤ!

 間違いなく、あれはアレ!

 霊的な、アレ!


 なんとか体を起こし、私はふたたび走ろうとする。

 だけどその瞬間――私は自分の後ろに、何か冷たい気配を感じた。

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