百鬼夜行の陰陽師~全てを失った俺は『悪』を使役し人を護る~

冬眠夏草

八房家追放

第1話 陰陽術師、人生の危機に遭遇

八雲やくも影斗えいと、起きなさい」


 え……俺、呼ばれた?

「はい、先生」


 叶絵かなえ先生は呆れた顔でため息をつく。

「では八雲君、水はどうやって作りますか?」


 水……金生水ごんじょうすいだから

きんを使います」



「水素を酸素を用いて燃やせば出来ます!……金で水ねぇ……どこのブルジョアかしら?」

 化学の授業中……俺は眠っていたようだ。


「はっははっはは」

 クラスの笑い者になった。いや……でも俺、何か間違った事を言ったか?


「もう八雲君、後で重要な話があるから職員室に来なさい!」

 先生にそう言われて、授業は続いた。先生はいつも通りだが、何となく体はダルそうだ。


 叶絵先生の目元には隈が出来ていた。更に軽いアザみたいなモノもある。

 ……大分疲れているな。


 嫌な雰囲気がしたから、教室の外の廊下を見る。生霊が先生を見ていた。

 

 (新月が近いと、どうも幽霊は活発になるなぁ……)


 先生と言う職業は大変だと思う。思春期の生徒を引き受け、上の先生の命令に逆らえずに色々と抱え込む。沢山のストレスを抱えるのに顔色を変えずに過ごさねばならない。


 ストレスから良くない考えを抱いたり、良くないモノを呼び寄せる位に苦労しそうだ……


 それこそ幽霊や生き霊が先生に取り憑いたら、不幸が起こりそれは連鎖していく。



 授業中なので俺は髪の毛を数本抜いて、簡易的に式神を作る。強い霊感がなければ存在に気付きもしないだろう。


(式神よ、生き霊を祓いたまえ)

 生き霊は生きた人間の魂の一部が少し抜けているだけ。だから除霊は簡単だ。


 だがその主がいる限り……事態が解決しない限りは生き霊によるトラブルは続く。



 俺は授業中だが立ち上がった。面倒事になる前に祓わねば……


「ちょっと、八雲君?また授業を抜け出すの?」


「男の子の日なんで、すいません」


 命懸けのボランティアを始めるか……

 俺は教室を出て黒い手袋をはめた。

 使う事は無いが、念の為だ。



(生き霊の主はあいつかな?)

 電柱の影から教室の叶絵先生を見ている怪しい男がいた。


「どしたん?俺の女に何か用事?」

 俺は男を煽る。先生への憧憬が悪感情となり生き霊を産み出している。


「コロスコロスコロス」

 男は様子が明らかにおかしかった。獣の様な、明らかに頭がおかしい人間の素振りをしていた。


(正常な判断が出来ていないな……魂が欠けているからか?)

 簡単に言うと生き霊は自分の魂を分裂させて生まれる存在だ。

 そして生き霊の魂が大きくなるほど、本体は虚ろな存在と化していく。


 でも明らかにこいつは廃人に近くなっていて、どこかおかしかった。

 廃人に近くなる位、強い思念を持った生き霊を産み出すなら、式神を使った程度で生き霊を祓える訳が無いから。



 とりあえずは学校から遠ざけよう。

 近くの路地裏ならば誰にも見られないだろう。



「お前が求める事は、好きな人へ危害を加えることか?違うだろ?」


 言葉も立派な武器だ。まだ人間だとしたら説得に応じてくれよ?


「俺はアイツがホシイ……けどナゼかニクい。コロシタイ」

 男の顔に角が生え始め、明らかに人間では無い存在に変わり始める。


「やっぱり元の本人が妖魔の器になっていたか」


 生き霊は強いマイナスの思念を持たねば生まれない。

 仮にそんな強い思念を持った者の存在を、悪しき霊が放置しておくか?



 答えは否。悪しき思念を持った者の体に、悪しき魂は馴染みやすい。

 妖魔が人間に憑き体を乗っとり降魔ごうまとなる……つまり鬼人が生まれる。


 依り代が人であるから、鬼人は一般人に見えるのが厄介だ。



 俺は一枚の式神札を手に取る。

「木生火……陰陽護法・狐火」

 俺は紙を燃やして、人魂の様な狐火を複数周囲に配置した。


「祓え」

 本当に強くない降魔ならこれで祓える。


「うがぁぁぁぁぁ」

 鬼人の体が燃える。そのまま悪しき魂が祓えれば良いが……

 彼は燃えたまま気にしていない様だった。


 目障りな俺に攻撃しようと鬼人が近くの電柱を引き抜いた。


(え、引き抜いた?常人の力では無いな)

 宿主本来の力……もしくはそれ以上の力を出すにはある程度時間が必要だ……


 そんな力を出せるなら、叶絵先生は無事ではなかったと思う。

(常人ならざる怪力……だが被害もない。コイツは何かありそうだ)


 鬼人はをバットを降るように、電柱で俺に攻撃をしてきた。


「わわわわわ、それは予想外」


 俺は急いで式神札を用意する。

「『木』の式神よ」

 俺は木の蔓を地面から生やした。自然の力を防御に使うのだ。



 陰陽道の教えに五行というモノがある。 火・水・木・金・土の5つの属性は全て相関している考えだ。

 簡単に言えば水は火に強い。故に水剋火。

 物事には有利と不利がある。ある属性はある属性に打ち勝つ。


 すなわち『剋』


 電柱は五行では何属性か?『土』だ。

 では土に勝つ属性は何だ?それは木だ。


『木剋土』

 木は成長の過程で土から養分・すなわちエネルギーを奪う。


 よって電柱のエネルギーを全て俺の『木』の式神が奪い尽くす。

 それにより電柱をあっさりと分解してしまう。


 この周辺の生活に支障が出そうだが、仕方ない……よね?

 俺は悪くないし。


 まぁ一番の問題は、この周辺で停電が起きることだ。日常に変化が起きれば、周囲の人間はすぐに異変に気付く。


 陰陽師は陰から陽を保つ者。つまり日常で正体を明かすことは無い。

 バレてはならない存在なのだ。


「これ以上暴れられても困るし、決着つけますか」


 俺は今電柱からエネルギーを奪った式神に触れる。


「木生火・火生土・土生金……陰陽護法『式神変換』」

 俺は木の式神を大きな火焔に変え、その後火焔を燃やし尽くし、パラパラとした土に変えて、その土を純金に変えた。


「さて問題です。金から何が出来るでしょうか?」


 金というモノは、そこに余分なモノが入り込む余地が無い。

 科学的には他の何かと結合しない。つまり酸化すらしない純粋な存在だ。


 純粋な存在……つまり邪であるモノと対を成す『聖』なる存在。

 そんな聖なる存在が生み出すは……


 俺は金を上空に投げつける。

 金属が温度変化する事で周囲に水滴がつく。金属と結合することなく、純粋な『聖』なる力により生まれた浄化の水……


「金生水……陰陽護法・恵雨けいう

 邪な魂を浄化する雨を降り注がせる。純粋な『金』より生まれた純粋な『水』

 即ち万物を浄化する水。


 人の体を傷付けることなく、悪しき魂だけを浄化する恵みの雨。


「ぎゃぁぁぁぁぁ」

 男の悲鳴が周囲に轟く。そりゃ悪い魂が浄化されるのは苦痛だよな。


 鬼人はもがき苦しみながら、元の人間に戻っていく。

 その時に紫色の宝石の様なモノを落とした。


「なんだこれ?」

 俺はその宝石を拾おうとしたが……


「ん?雲が無いのに雨?」


 あ、ヤバイ。ギャラリーとして近隣の人間が集まってきた。


「さて、人が集まらないうちに退散するとしますかね」

 こうして俺は鬼を浄化して、何事もなかったかの様に学校に戻る。


 先生がこの後話があると言っていたから戻るのだ。普段ならここで報告の為に帰るのだが……


◇◇◇

「八雲君、君ね?現状が分かっている?」

 叶絵先生は本当に心配そうな表情で俺を見る。

 先ほどのアザ、つまり霊障は消えていた。


「はい、先生が元気を取り戻してくれそうで良かったです」

 先生を苦しめる霊……いや鬼は祓った。これで先生もグッスリ寝れると思う。


 はぁ……と先生はため息をついた。

「あのね、私ずっと悩んでいるんだけど……」


 え、まだ先生に悩みなんてあったのか?どんな悪霊が先生を困らせているんだ?

「どうしました?悩みがあれば自分相談に乗りますよ?」

 一応は恩師だ。無料で悩みを解決位はしてあげよう。


「八雲君、このまま授業を抜けているとね……」

 叶絵先生は何かを決意して一息ついた後


「単位足りずに留年しちゃうよ?あと7日休めば留年だよ?」


 あ、先生を困らせている悪いヤツは自分でした。

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