第6話 私の身に起きていたことと、寄り添ってくれる優しい小鳥の敵認定

 それは一昨日の出来事。獣騎士団の宿舎がある街から2日くらい行ったところに、人も獣人もあまり立ち入らない、強い魔獣が数多く住んでいる、危険な森があるらしいんだけど。


 その森から魔獣が出てきて、街に来られると困るからと、この街には人の騎士団もあって、そっちの騎士団と交代で、定期的に森へ巡回しに行くんだって。それで今回は第1獣騎士団が、巡回に行っていたんだ。


 すると一昨日の夕方少し前。巡回を終えて帰ろうとしていた時、森のある場所で、急に森の魔獣たちがザワザワし始めたため、すぐに確認に向かったアンドリューさんたち。すると、かなりの数の魔獣が集まっており、暴れられたらまずいと、すぐに討伐を開始。


 そうしたら、その討伐の最中、倒れている私と、私を守ろうとしてくれている、可愛いピンクの小鳥を確認して、しかも私は結界に包まれていたらしい。


 だけど魔獣たちを全て倒し私たちに近づけば、結界が消えたため、私と可愛いピンクの小鳥を保護。そのまま獣騎士団の宿舎に連れてきてくれて治療をした。


 と、これが、私と獣騎士さんたちに起きた出来事だって。


 うん、話を聞き終わった瞬間、私は思わず大きな溜め息を吐きそうになった。あのバカ神、またミスったな、って。

 バカ神の使いのセシルさん。彼によると、バカ神はよくミスをするってぼやいていたからさ。私を死なせたのもミスだったし。これ、絶対にまたやらかしたでしょう。


 何が『新しい世界では、君の生きたいように生き、幸せに暮らしてね』よ。転生早々死にかけてるじゃん!


「森には、君以外の気配……気配は分からないか? 私たちは人間がどこにいるのか、よく分かるのだが、森には君しかいなかったようだ。そこでだ、君の名前に戻るのだが、君は何という名前で、誰と一緒に森へ入り、どうして森で気を失っていたのか……寝ていたのか分かるか?」


「総団長の話は分かりましたか」


 小さく頷く私。ただ、うーん。


 名前は今なんとか考えられたとして。森にいたのはバカ神のミスだろうけど、なんで気絶したのかは、バカ神に聞かないと分からないし。というかその前に、バカ神のことは話さない方がいいだろうし。結界も誰の結界か分からないし、私にも分からないことだらけで話せることがない。


「……」


「名前、分からない? 両親……お母さんやお父さんは?」


「……なまえ、おとうしゃん、おかあしゃん」


 両親の記憶もないしなぁ、これは困ったぞ。どうしたらいい? と、さらに追い込まれる私。でもその時だった。


「記憶喪失か」


「そのようですね」


「森でも出来事が原因か。それともそれ以外の原因か……」


「なんとか思い出せってのもな。無理をさせれば、こんな小さな子供だ。負担が大きすぎて、また倒れるかもしれないぞ」


「総団長、ここは自然に任せ、待った方がよろしいかと」


「そうだな」


 やっぱり話が分かるのか、団長さんたちの会話を聞いた可愛いピンクの小鳥が、テーブルから私の肩へ移動してきて。記憶がなくても大丈夫だよ、というように、そっと寄り添ってくれたよ。


 ただその後、テーブルに戻ると、またアンドリューさんに向かって威嚇しつつ、軽やかなフットワークで翼をパサパサ動かし始めた。アンドリューさんは髪の毛と顎髭を慌てて抑える。


 予想外の展開だった。いや、今の私にとっては、とても都合のいい流れだけど。まさか記憶喪失だと思われるなんて。これ以上何も聞かれそうになくてホッとしたよ。ああ~、変に名前を言わなくて、そして余計なことを言わなくて良かった。


 でも、一応謝っておかないとね。みんな、とても心配してくれているのに、喜ぶだけじゃ失礼だし。それに、可愛いピンクの小鳥にもお礼を言わなくちゃ。


「なまえ、わからなくて、ごめんしゃい」


「いや、謝らなくて良い」


「ことりしゃん、ちんぱいちてくれて、ありがちょ!」


『ぴぃっ!!』


 フットワークの良い翼パサパサを止めて私の方を向き、片方の翼を胸に当て。まるで、それくらい当たり前だよ! と言っているかのような仕草をする、可愛いピンクの小鳥。


 でも、またすぐにアンドリューさんを睨みつけた。その目つきの鋭いこと。どうやら、完全に敵認定したようだ。


「チッ、最初を失敗したな、威嚇しすぎだろう……」


『ぴぃ?』


 今度は、何か言った? とでも言うよう表情になる。


「な、何も言ってねぇよ」


 そういえば、総団長さんたちは、どこまで言葉が分かるんだろう? 可愛いピンクの小鳥も魔獣なんだろうけど、言葉は話せないでしょう? でも総団長さんたちは、時々小鳥と話しているような感じがするし。後で聞いてみようかな?


「ま、まぁ、名前も他のことも、ゆっくり思い出せば良い。思い出すまでは俺たちが名前を考えても良いしな」


「そうですね、と言いたいところですが、それについては、あちらとの話し合い次第では?」


「確かにそうだな」


 ん? 今度は何?


「あちら?」


「ああ、君のこれからについて、話をしている者たちがいるんだ。そうだな、どこで暮らすか、誰が保護するかをな」


 ん? どういうこと?


「ですから総団長、ですからもう少し優しく……」


「だいじょぶ、わかりましゅ」


「そうですか? 先ほどから思っていたのですが、あなたは歳の割に、他の子供と比べると理解力がありそうですね」


 まぁ、地球では25歳だったからね。それよりも、あちらって? 話している者たちがいるってどういうことかな?

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