スレ番42―夜明けの準備―

スレ番42の暁色の胎動

 霊峰富士、古来より人々の信仰の拠り所として崇められ、現代日本においては国のシンボルとして国民に愛される山。


 オレはこの世界の転換点を富士山の麓で迎えた。


 空に浮かぶ、ディスプレイが残り10分を切る頃、転換の序章が幕を開けた。

 そこに映るのは2つの瞳。どんどん引きの映像になって、1人の女性が映し出されつつある。


 客観的に見れば美しい女性であるが、女はオレの求めるあのお方ではない。

 女に神性と公平さは感じるが、救いと慈悲が感じられないのだ。

 

 女がきっと、あのお方が掲示板で時折お伺いを立てていた存在なのだろうというのは分かる。

 しかしオレが望むのは、あのお方だけ。


 オレのような下々の取るに足らない疑問を、希望を、意見を、当たり前のように丁寧に拾い上げてくれた、あのお方にこそオレは尊い慈悲や救いを感じるのだ。

 

 完全に引きの映像になった時、女の背後、そう部屋の奥に1人の男性が映り込んだ。

 ダンジョン作成するためにスレ立てた人物は、あの女か奥の男性しか候補がいない。

 だがあんな人外な波動を放つ女が、スレ立てなどするはずもないのだ。

 と、なるとあのお方は消去法で奥の男性となる……冷静に論理的思考に基づけば、そう結論はつく。

 

 しかし、ディスプレイ越しに初めてあのお方を見て、オレはそんな推論は消し飛び、一足飛びで男性があのお方であると分かった。オレは瞬間で理解した。


 彼があのお方だ……そう知覚した途端、オレは再び歓喜に包まれた。

 

 分かったなんて、生易しいものじゃない、あのお方の出で立ち、少しの衣擦れの音、薄布の隙間から見える全てを包み込む眼差し……

 それらが全て、オレに彼こそが、求めてならないあのお方であると、教えてくれるのだ。


 オレはスマホを取り出し、ディスプレイを撮影し始める。

 こんなことが起こるなら、高性能の撮影用カメラを購入しておけば良かった。

 深い後悔に苛まれるが、嘆いても仕方がない。

 オレは少しでも、あのお方の姿を手に入れたくて、必死にスマホをディスプレイに向け、あのお方の姿を撮り続けた。


 ああ、良かった……これを励みにオレは強くなる。


 女が舞を披露する際は、あの方の姿は見えなかった。

 だが舞を終え手に持った榊と神楽鈴をあの方に預けた時に、あのお方の姿が大きく映し出されたのだ。

 そのたおやかで穏やかな存在は、オレの矮小な心すら浄化する。

 今はスマホの動画しか保存してないが、後でスクショして待受にして、ダンジョンから戻ったら、引き伸ばしてポスターにして……そうだ! アクリルスタンドも作ろう。


 オレはあの方のお姿を自分の端末に残せたことに、至上の喜びを感じた。


 その後、女が何やら語っていたが、あの方はもっと平易な言葉で語っておられたし、あの方は真に慈悲の心をオレたちに向けてくれていた。

 オレから見れば、女の語る言葉は、あの方の言葉の焼き直しに他ならない。

 いってることは立派だが、やはりオレは、奥に控えるあの方の声で直接聞きたい。

  

 女の語りが終わり、おもむろに合掌すると、ディスプレイから光りが放たれた。

 その光は地面を伝うと赤と青の光へと変化し、全方位に放たれ消えてゆく。

 そして赤と青の光が一筋ずつ、富士山へ向かい山を覆い尽くす。

 その光は2カ所にまとまると、一際大きく輝き闇へと溶けていった。


 あれはダンジョンの入口だ。オレは確信した。

 なぜなら大きく光った位置は、オレがダンジョン入口が発生する場所として予想していた幾つかのうちの2つだからだ。

 ああ、こんなところにも、あの方との繋がりを強く感じる。

 時間があれば絆を実感するためにも、ダンジョン入口で記念撮影がしたい。


 しかし、なぜ赤と青の光が入口の場所で大きく光ったのだろう? 何かしら意味はあるのだと思うのだが……

 あの方のことだから、何かしら意味があるのだ。

 気にならなくもないが、今はあの方へ近づくための己の強化ほうにより興味がある。

 それにいつか、あの方のお側に侍る時がきたならば、その時にあの方に伺えばいいだけの話だ。


 オレはエンジンを付けると、車を光の方角へと走らせた。

 向かう先は青木ヶ原樹海。

 オレがダンジョン入口の出現地点として、予想した場所の1つである。



-−−−−−−−−−−−


 

 樹海近辺に到着すると、道の駅があるものの、この時間、さすがに施設は閉まってした。

 道の駅近くには、樹海へと伸びる遊歩道もあり、オレは遊歩道付近の道路脇に車を停車させる。

 カウントダウンによる世界の転換点を見るために、自宅にいる人々が多いのであろう。

 周囲を見回しても人の気配は全くない。あるのは暗闇とまばらに見える信号の光だけだった。


 とりあえず、あのお方から授かったステータス画面が見たい。

 オレがそう念じると、フロントミラーとオレの間にステータス画面が現れる。


 ゲームやアニメなどの創作でよく見るアレだ。


 オレは今、奇跡を実感し、体験している。


 あのお方からの授けられた俺だけのギフト。


 ああ、なんて尊いんだ。


 号泣してしまいそうな自分を叱責しながら、あのお方の側に侍るための第一歩を踏み出した。


 現れたステータス画面は横長の長方形で、画面内が更に分割されている、絵面としてはラノベでお馴染み、スタンダードなあの形だ。

 ステータス画面内の構成は? といえば、大半の面積を占めて配置されてる大窓、画面右側、縦長な位置に配置されてるいつかの小窓、画面の底辺部分に横長に配置されているいくつかの小窓という感じだった。

 大窓と底辺部の小窓に関しては、「NO CHOICE」の文字が刻まれている。

 

 この「NO CHOICE」と書かれた部分に、それぞれ選択したステータス画面のUIが組み込まれるのだろう。

 対する画面右、縦長に配置されている小窓をよく見れば、様々なマークや文字が描かれている。

 上から「お知らせ」「メールマーク」「フレンド機能」「⇄」「≡」となっていた。

 そして「お知らせ」と「メールマーク」については光っている。


 オレは若干手を震わせ、初めてステータス画面のお知らせの項目に触れる。

 そこを触れるとポップアップ画面が現れ、中にはいくつかの連絡項目が書かれていた。

 最初の内容は『新たな世界への門出を祝して』という表題で、あのお方がいっておられた、初心者セットとステータス画面初期化薬の配布を知らせるものだった。


 よく読めば、ステータス画面のUIが決まった段階で、自動的に各々のステータス画面で設定されるだろうアイテム欄に追加されるとのこと。

 実装されたステータス画面は個人個人で形式が違うから、ステータスUI決めてからじゃないと配布できないのか……

 そうだよなぁ、既存ゲームのを使う奴らはそこのアイテム欄に入れりゃいいけど、オリジナル勢なんかは、アイテム欄作らない可能性すらあるからなぁ……その場合、初心者セットって具現化するのか? 

 

 まあいい、その次の連絡項目は『共通UI部分の機能説明』という名のお知らせだった。

 読んで見ると、ステータス画面の右側小窓群は、どんな人間のステータス画面にも存在する機能だとのこと。


 「お知らせ」はその名の通り神側から日本国民全員に向けての通達。

 アプリゲームでいうところの運営よりのお知らせって感じなのだろう。

 オレにとってはあのお方からの有難い言葉を受け取れる神託機能ってところだな。


 「メールマーク」は神人間問わず、人々と連絡を取るためのツール。現実世界のメール機能と大差ないものだろう。

 つまり個人間のやり取りがメインのツールといったところか。


 「フレンド機能」はもっと限定的な連絡ツールで、フレンド登録するとフレンドだけが入室できるプライベートなチャットルームが作れるそう。

 まあ◯INEみたいなものか。


「⇄」はあのお方が実装するといっておられた、アイテムトレードシステムとのこと。

 将来的には使いそうだけど、今はあまり関係ないな。


 最後の「≡」は、というと色々雑多な機能が入っているフォルダということらしい。

 軽く覗くと武器収納庫もここに入っていた。

 あとステータス画面の配置が使いにくい場合等に、窓をこの中に入れることもできるそうだ。

 確かにオリジナル勢やその他ゲーム勢、何かしら元ネタのあるものをステータス画面のUIに流用する奴らは、画面構成どうなるか分からんからなぁ……オレ含めて。

 ある程度こちらで見やすく調整できるのは有難い。やはりあのお方の配慮は行き届いているな……とても誇らしい気持ちになる。


 一旦、「お知らせ」のポップアップを閉じ、「≡」マークの中を見てみると、ヘルプ機能や、アイテム・モンスター辞典があった。

 その他の項目には「???」の項目が何個かと、空白の項目がある。

 多分、何らかの条件達成で解放されたり、選んだステータス画面UIによって空白部分に、項目ができる可能性があるって感じか……

 

 そして再び、「お知らせ」の窓を開き、最後の連絡項目『ステータス画面、初期設定について』を読み始めるのだった。

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