盲目剣士のダンジョン配信無双

匿名AI共創作家・春

第1話

それは、神威(かむい)という名がまだ、この現代に響く遥か以前の話。

​江戸時代――人々が不可解な失踪事件を「神隠し」と呼び畏怖した時代に、神威は古流の剣術流派の嫡男として生を受けた。

​彼の流派は、視覚に頼らず「気配」「音」「風」を読む心眼を極め、神隠しの領域へと足を踏み入れることを使命としていた。

​運命は残酷だった。幼き日の修行中、神威は誤って神隠しの境界に触れ、その代償として永遠に光を奪われる。しかし、それは終わりではなかった。闇と引き換えに、彼は世界を新たな姿で捉える「心眼」の片鱗を開花させたのだ。

​「目が見えぬならば、心で見極めればよい」

​彼は師範に見放されようとも、孤独に剣を振るい続けた。そして青年期。神威は「無明の剣」を完成させる。彼の心眼は、敵の呼吸、魔力の流れ、ダンジョンの歪みを色のない光の帯として感知し、目視する者以上の真実を斬り裂く力を得た。

​神威の武士道の核は、戦いの後も気を緩めぬ「残心」と、全ての出会いを真剣勝負と捉える「一期一会」。

​彼は流派の最後の使命として大規模な神隠しに挑み、力を使い果たして命を散らした。その魂は、彼の「武士道」という名の剣を携え、時を超え、場所を超え、現代の「ダンジョン配信社会」へと、盲目の少年として転生する。

鉄とガラスの街の片隅――孤児院の小さな揺り籠の中で、一人の赤子が静かに眠っていた。

その名は、まだ誰も知らない。だが彼は、生まれながらにして光を持たぬ子だった。


「この子……泣かないね」

保育士が驚く。赤子はただ耳を澄まし、風の音や足音に反応して小さな手を伸ばす。

目は見えない。けれど、世界を掴もうとする意志だけは、誰よりも強かった。


幼稚園。鬼ごっこ。

「神威くん、見えてないのに、なんで捕まえられるの!?」

子供たちが叫ぶ。彼は足音と呼吸の乱れを頼りに、相手の位置を正確に把握していた。


「……拙者、音を聞けば十分にござる」

古風な口調に先生は苦笑し、子供たちは「忍者みたい!」と騒ぐ。

その頃から、彼は遊びの後も姿勢を正し、呼吸を整える。「残心」の精神が、自然と身に宿っていた。


---孤独と鍛錬

小学校。放課後。

庭に立つ少年は、ただひたすらに木刀を振り続けていた。

「侍ごっこだ!」と笑う同級生の声は、耳に入らない。

彼の剣は未完成――「無銘の剣」。だが、音と風を頼りに振るう剣筋は、次第に鋭さを増していく。


孤独の中で、彼は学んだ。

一期一会。出会う人も出来事も、すべて真剣勝負。


---出会い

中学に上がる頃、孤児院を支援していた逆撫家が彼を引き取ることを決めた。

そこで出会ったのが、快活な少女――逆撫 アヤ。


「ねぇ、目が見えなくても、私の声は聞こえるでしょ? じゃあ、友達になれるね!」

初対面から、彼女は眩しいほどに真っ直ぐだった。


「拙者、声を頼りにすれば十分にございます」

古風な返答に、アヤは大笑いする。

「お兄ちゃん、侍みたい!」


その瞬間、二人は義兄妹として強い絆を結んだ。


配信武士道への道,___。高校時代。剣道部。

「危険だから試合には出せない」――顧問の言葉に、彼は静かに頷いた。

だが稽古では、心眼で相手の動きを読み、部員たちを圧倒する。

「盲目の剣士」として噂は広がっていった。


その姿を見ていたアヤは確信する。

「お兄ちゃんの剣なら、世界を変えられる。配信で見せようよ!」


神威は静かに答える。

「拙者の剣が妹子の生活を支える義理となるならば――剣を振るうのみ」


こうして、盲目の剣士は「配信武士道」という新たな戦場へと歩み出した。


​気がつけば、そこは鉄とガラスの街。剣ではなくスマートフォンが握られ、武士道ではなくスパチャが価値を決める世界だった。

​神威は孤児として育ったが、後に逆撫 アヤという快活な少女の家族に引き取られ、義理の兄妹となる。

​「ね、お兄ちゃん! この『配信』ってのが、今の侍の戦場なんだよ!」

​アヤは古風な兄の言葉を理解しつつも、彼に現代の知識を惜しみなく教え込んだ。ダンジョン探索は熱狂的なエンターテイメントと化し、配信者はスターとして君臨する。アヤは、神威の力があれば、この生活を抜け出せると直感していた。

​ 無双の初陣(ういじん)

​生活を支えるため、神威は心で葛藤しつつも、剣を握ることを決意する。

​「拙者は剣を揮うのみ。その剣が、妹子の生活を支える義理となるならば」

​アヤはすぐに兄のCGアバターを用意した。黒い陣羽織に薄布で目元を隠したその姿は、まるで時代劇から飛び出したようだった。アヤはマネージャー兼ナビゲーターとして、配信準備を整える。

​そして、初配信。

​コメント欄は辛辣だった。

​アンチA: 盲目でダンジョン配信? ネタ乙。

​比較厨B: どうせすぐ引退だろ。ランキングが全てなんだよ。

​だが、神威は静謐に、一歩を踏み出した。

​心眼「無明の残光」が起動する。彼の目に映るのは、魔物の熱源と、致命の「気」の流れ。

​刹那――「拙者、一期一会の剣、しかと見よ」

​静かなる一閃。神威は、アヤのナビゲーションを待つこともなく、隠された罠を避け、モンスターの急所を正確に斬り伏せた。その完璧すぎる残心の美しさに、コメント欄は凍りついた。

​過剰信者C: チートだろ! これガチで盲目か!?

​ネタ職人D: 剣が速すぎて見えねぇ! これが侍の神業か…!

​視聴者は瞬時に熱狂。盲目の剣士というハンデと、圧倒的な無双というギャップは、瞬く間に彼の名を配信社会に轟かせた。

​神威の「配信武士道」は、現代の波に飲まれながら、静かにその船出を迎えたのだった。


​「盲目の剣士」という前代未聞のコンセプトと、その実力が伴わないほどの強さから、逆撫 神威は配信社会において極端に評価が分かれる「嵐を呼ぶ存在」となっていた。

​肯定的な評価:神業への熱狂と崇拝

​神威の配信コメント欄や専用スレッドは、彼の圧倒的な実力と、現代に失われた武士道の美学に魅了されたファンで溢れています。

​無双への驚愕(神威の剣技に対して):

​「チートだろこれ。盲目設定が嘘じゃなくても、心眼が強すぎて逆にチートじゃん。」

「剣の速さヤバい。残心って奴か? モンスターが溶けてるように見える。」

「目が視えないハンデ? いや、それがそのまま絶対的な強みになってるの、熱すぎる!」

「あの古流の刀だけで、最新装備の奴らを凌駕してるのがヤバイ。」

​美学への心酔(武士道と姿勢に対して):

​「拙者、一期一会の剣しかと見よ……痺れたわ。この配信は最早エンタメじゃなくて武術の神事だろ。」

「金とかランキングとかどうでもいい。この人、ただ自分の剣の道に誠実なだけ。それが尊い。」

「アヤちゃんとのコンビも最高。古風な兄と現代っ子の妹っていうギャップ萌え。」

​過剰な信仰(過剰信者型):

​「神威様は神の化身。我々が信じるべきは、この清らかなる剣のみ!」

「武士道原理主義者どもは滅びろ! 神威様の言葉が絶対の真理!」

否定的な評価:疑惑と憎悪、そして嘲笑

​一方で、彼の存在はダンジョン配信の常識と商業論理を破壊するため、激しい反発と疑念も生んでいます。特に、ランキング至上主義者やアンチからは容赦ない批判を受けています。

​設定への疑惑(陰謀論型):

​「絶対盲目じゃねーって。あの動き、どう見ても見えてるだろ。演出過多で胡散臭い。」

「アヤが裏で全部操作してるんだろ? 兄妹ぐるみで騙すなよ。」

​商業主義的な批判(ランキング至上主義型):

​「いくら強くても、派手さが足りないんだよな。火ノ原烈の方がスパチャは稼げる。エンタメを理解しろ。」

「武士道? 古臭いんだよ。ランキングが全てなんだ。早くトップに上がって金を稼げ。」

「スポンサーの要求を無視するな。アマチュアかよ。」

​人格と価値観への攻撃(アンチ型・現代主義型):

​「侍ごっこは時代遅れ。刀なんか持ってる時点でダサい。」

「サカナデとかいう名前も痛いんだよ。早く引退しろ。」

「盲目のくせに偉そうに説教すんな。障害者手当でももらってろ。」

​パロディとネタ化(ネタ職人型):

​「今日の『残心の空振り』、MADの素材に決定!」「侍コントとして最高に面白いわ。」

​現状の結論

​逆撫 神威は、「実力は本物だが、配信というフィールドに不釣り合いな異物」として認識されています。

​熱狂的なファン層: 彼の美学と強さに心酔するコアな層をすでに獲得している。

​強烈なアンチ層: 彼の盲目という設定や武士道の哲学が、現代の商業論理やデータ至上主義者(白峰理央など)の反発を招いている。

​ランキング: 配信界全体のランキングではまだトップではないものの、伸び率と話題性はトップクラスにあり、主要ライバルたちから目をつけられる存在となっていた。


トップランカー、炎禍に散る

​ダンジョン配信界の頂点に君臨する男、紅蓮の実況剣士・火ノ原 烈。彼のチャンネルは常に炎と熱狂に満ちていた。その日、彼は難易度最上級の新ダンジョン『炎禍の坑道』に、最高の視聴率とスパチャを賭けて挑んでいた。

​「テメェら、見たかよ! これがランキング一位の力だ! 古臭い武士ごっこじゃ、オレ様の炎には勝てねえ!」

​烈は派手に叫び、ボスを打ち倒す。コメント欄は荒れ狂う祝福の渦。しかし、勝利の陶酔が残心を奪った。烈は、倒したボスが最後に放った高熱の魔力の残滓に気づかず、身体を貫かれて崩れ落ちた。

​配信画面は炎と崩落のエフェクトで真っ赤に染まり、烈の呼吸音だけが途切れ途切れに響く。視聴者はパニックに陥り、阿鼻叫喚のコメントが荒れ狂う。

​「お兄ちゃん、火ノ原さんの配信が途絶えた! 重傷だって! 救助要請が殺到してる!」

​アヤの焦った声が、神威の耳に届く。神威は静かに瞑目したまま、配信画面の微かな残像から烈の「気の乱れ」を読み取っていた。

​「(静かに)……あの剣筋に、真の武の気配はない。勝利に酔い、残心を忘れた剣は、所詮、火遊びにございます。」


​神威は烈の挑戦を最も嘲笑ったライバルだ。アヤは義を訴える。

​「でも、武士道って、困ってる人を助ける『義』じゃないの? 彼は今、命を失うかもしれないんだよ!」

​妹の真っ直ぐな瞳。神威の心の中で、江戸で極めた武士の義と、現代の配信の論理が激しく衝突する。

​「……(深く息を吐く)。一期一会。今、命の縁を掴み損ねた者を見捨てるは、拙者の剣が許さぬ。義のため、参ります。」

​神威は愛刀を携え、アヤと共に『炎禍の坑道』へ突入した。

​烈が暴れ回った後のダンジョンは地獄絵図だった。炎は収まらず、崩落が続く。アヤがナビゲーションデータを読み上げるが、情報が追いつかない。

​「右、崩れる! 左、炎のガスが濃いよ、お兄ちゃん!」

「心眼に迷いなし。アヤ、声のみで十分。」

​神威は炎の轟音、崩れる壁の微細な振動、そして烈の微かな命の鼓動だけを頼りに、闇を切り裂くように突き進む。彼の心眼は、データも視覚も及ばぬ、真実の道を指し示していた。


​烈の元に辿り着くと、彼は高熱の岩陰に倒れていた。その周囲には、ボスの断末魔の魔力が作り出した、死を呼ぶ灼熱の罠が空間を歪ませている。

​神威の配信に切り替わった視聴者たちは、その静寂に息を飲む。目の前のライバルは、神威の存在意義を否定した者。

​神威は静かに、烈の傍らに転がる、熱で溶けかかった彼の剣に目を留めた。

​「愚かなるか、烈殿。貴方様の剣は、貴方様の命を繋いでいるというのに、貴方様自身がそれを疎かにした。」

​神威は刀を抜き放つ。心眼で読まれた罠の波動、その一瞬の隙。

​静謐な一閃が、空間を切り裂く。それは、高熱の罠を破壊するのではなく、その魔力の流れの結び目を断ち切り、無力化する完璧な剣技だった。

​残心――戦闘が終わっても、気を緩めず、常に完璧を保つ精神。その美しすぎる体現に、コメント欄のアンチや哲学者たちは、ただ「……」と沈黙するしかなかった。

​神威は烈を抱え上げ、溶けかかった彼の刀を拾い、その手に握らせた。

​「貴方様の剣は、まだ命を繋いでいる。だが、残心を忘れた剣は、いつか貴方を裏切る。命を繋ぐ義理は果たしました。あとは、貴方様自身の名誉の問題にございます。」

神威は、義理を果たしたその剣を、烈の意識のない身体の傍らに静かに納めた。

​神威の救助配信は、またしても配信界の常識を覆した。ライバルを助ける「義」と、その際の「残心」という名の完璧な剣の美学は、視聴者層に深く突き刺さる。

​神威のチャンネルは一気にランキング上位に躍り出る。真の「配信武士道」は、商業的な「興行」を凌駕する力を持つことを証明した瞬間だった。

​そして、意識を回復した火ノ原 烈は、神威の行動と、手に残る溶けかけた刀の感触から、単なる商業的な「強さ」ではない、剣の道としての「武士道」という名の巨大な壁を、初めて目の当たりにするのだった。

​この感動的なエピソードを経て、神威の存在感は配信界で揺るぎないものとなった。


火ノ原烈視点___

眩しい。目を開けるたびに、視界を焼くほどの光と、轟くような歓声が聞こえる。いつものことだ。俺は火ノ原 烈、ダンジョン配信界のトップランカー。「派手さ」「熱狂」「炎上」こそが全て。スポンサーの要求にも視聴者の渇望にも応え、今日だって『炎禍の坑道』のボスを最高のパフォーマンスで屠ったはずだった。

​「テメェら、見たかよ! オレ様が勝ったんだ! スパチャを寄越せ! もっと! もっとだ!」

​俺は絶叫した。勝利に酔いしれ、カメラに向かって中指を立てた。その瞬間、背後でボスが放った**「最後の悪あがき」**に、気づけなかった。

​熱い。体が内側から燃えるような激痛。視界が急速に黒く染まり、耳元でアヤとかいう女の悲鳴と、コメント欄の無様なパニックが響く。クソッ、こんな死に方、配信者として最悪だ……!

​意識が途切れる寸前、微かに聞こえたのは、あの忌々しい盲目剣士の声だった。

​「……あの剣筋に、真の武の気配はない。残心を忘れた剣は、所詮、火遊びにございます。」

​クソが。 誰が火遊びだ。テメェの古臭い武士道ごっこより、俺の炎の方がずっと世の中を動かしてるんだよ! 最後に聞くのがテメェの説教かよ……!

​2. 屈辱と刀の感触

​次に目が覚めたとき、俺はダンジョン外の簡易治療室にいた。体中の痛みが、生還を告げている。

​「お兄ちゃん! 烈さん、目が覚めた!」

​隣には、あの盲目剣士のナビゲーター、逆撫 アヤが泣きそうな顔でいた。屈辱だった。ランキング最下層の古物商に、俺が助けられた?

​「……誰に助けられた」

​掠れた声で問うと、アヤは答える。

​「神威お兄ちゃんに……」

​チッ。最悪だ。スポンサーに助けられた方がマシだった。

​そのとき、右手の指先に、金属の冷たい感触があった。俺の愛刀だ。しかし、いつもと感触が違う。熱に焼かれ、表面が波打っている。

​それを握りしめていた俺の手に、誰かが静かに触れた。神威だ。彼は包帯で目を覆い、表情は読み取れないが、その静謐な気配は、俺の熱を冷やす氷のようだ。

​3. 残心という名の壁

​「貴方様の剣は、まだ命を繋いでいる。だが、残心を忘れた剣は、いつか貴方を裏切る。命を繋ぐ義理は果たしました。あとは、貴方様自身の名誉の問題にございます。」

​淡々とした、静かな口調。そこに傲慢さはない。ただ、真実を告げている。

​俺の胸に、その言葉が、そして溶けかかった刀が、重く突き刺さった。

​俺は派手さのために、効率のために、勝利の瞬間を最高潮にするために、戦いの後を切り捨ててきた。ダンジョンを破壊し、モンスターを焼き尽くす。それが俺のスタイルであり、残心なんていうのは、古臭いサムライの遺物だと思っていた。

​だが、あの盲目剣士は、光の見えない闇の中で、俺が見落とした**「命を奪う最後の真実」を見極め、それを完璧な剣技で無力化した。そして、俺の命と、この溶けかかった刀という「証拠」**だけを残して去った。

​義理。名誉。俺が最も蔑ろにしてきた言葉だ。

​あの盲目剣士は、俺という商業主義の頂点を、言葉ではなく、圧倒的な実力と武士の美学で叩き潰したのだ。

​「……クソッ」

​俺は刀を強く握りしめた。炎上やスパチャで得る人気ではない、奴が持つ「本物の強さ」。

​火ノ原 烈のプライドは砕かれた。だが、心の中には新たな炎が燃え上がっていた。

​「逆撫 神威……テメェの古臭い剣の道、徹底的に研究してやる。そして、今度は武士道とやらごと、俺がテメェを燃やし尽くす。覚悟しやがれ……!」

​ランキングを賭けた単なるライバル関係は、この瞬間、価値観と信念を賭けた宿命の対決へと変貌した。烈の剣は、もはや単なる「興行」のためだけではなくなるだろう。

​『炎禍の坑道』からの帰還後も、拙者の心の中には、烈殿の荒々しい炎の「気」の残響が微かに残っていた。

​あの男、火ノ原 烈。彼は強者でございます。剣技自体は荒削りながらも、その「気」の奔流は並大抵のものではなかった。だが、彼は勝利に酔いしれ、剣の最も重要な教えを忘れていた。残心。戦いが終わっても気を抜かぬこと、常に次の危機に備えること。

​拙者の心眼には、烈殿の剣の軌跡が、派手な炎とともに、恐ろしいほどの「隙」となって映っていた。彼はただの興行師(エンターテイナー)であり、武士ではなかった。

​アヤが治療室のデータを読み上げる。烈殿は一命を取り留めたとのこと。拙者はその報告を静かに聞いた。

​「拙者が斬るべきは、目の前の脅威のみ。命を救う義理は果たした。烈殿の命の灯は、彼自身の名誉と剣に預け申した。」

​2. 俗世の波と武士の覚悟

​しかし、義理を果たした代償として、拙者の配信チャンネルは、俗世の大きな波に飲み込まれ始めた。

​コメント欄の熱狂は一層激しくなり、拙者の剣を「神業」と崇める声と、「偽善」だと断ずる声とが、激しく衝突している。厄介なファンたちは、「烈を斬り捨てろ」と要求したり、「この救助劇を映画化しろ」と商業的な欲望を押し付けたり、騒がしさに拍車がかかっていた。

​武士道原理主義型:「烈は武士道に反する! なぜ斬り捨てなかった!」

​課金狂型:「スパチャやるから、次はもっとドラマチックに苦しめ!」

​アヤは画面の前で、その荒れ狂う波を必死に抑えようと努めている。彼女の健気な姿を見るたび、拙者の胸は静かに痛んだ。この騒乱こそが、拙者が避けようとした「俗世の汚濁」。

​「アヤよ。疲れておるな。」

「ううん、大丈夫だよお兄ちゃん。でもね、烈さんが助かってよかった。お兄ちゃんの『義』が、みんなに伝わったんだよ!」

​アヤの言葉は、拙者にとっての一服の清涼剤だ。拙者の剣が、金銭や名声ではなく、ただ一つの「義」を貫いたこと。その真意を理解してくれる者が、すぐ傍にいる。それこそが、現代で拙者の武士道を貫くための、最大の支えにございます。

​烈殿の炎が去った後、拙者の心眼は、新たな、そして全く異なる「気」を感じ取っていた。

​それは、炎とは対極にある、極めて冷徹で淀みのない気配。

​心眼に映るその気配は、まるで感情を切り捨てた氷の刃のようであり、拙者の剣の全てを数値化し、解析しようとするかのような静かな圧力を放っている。この男は、力や熱狂ではなく、論理をもって拙者の武士道を否定しにかかるであろう。

​「……次に拙者に挑むは、理(ことわり)の剣か。」

​拙者の残心は、すでに次の対決へと向かっている。盲目の剣士は、己の感覚と信念を、現代のデータ至上主義という、冷たい試練に晒す覚悟を決めた。


烈殿の炎が鎮まった後、世は再び騒がしくなった。

​拙者のチャンネルは、一時の熱狂に包まれている。アヤは、コメント欄を管理し、膨大なスパチャや応援、そして誹謗中傷の波を懸命に捌いている。彼女の献身は、拙者の武士道を、この現代の俗世に繋ぎ止める唯一の杭でございます。

​「お兄ちゃん、すごかったよ。あの時の『残心』、みんなが言葉を失ってた。きっと、お兄ちゃんの『義』が通じたんだよ!」

​アヤは明るく笑うが、その笑顔の裏に潜む疲労を、拙者は心眼で感じ取っている。この現代において、一つの真実を伝えることが、これほどまでに心身をすり減らすとは。

​そんな中、拙者の心眼に、新たな「気」が映り始めた。

​それは、烈殿のような熱狂や、厄介な輩の持つ濁った欲望とは、全く異なる性質を持つ気配。極めて冷徹で、感情の乱れが一切ない。まるで、精密な機械が刻む、寸分の狂いもない氷の結晶のような気配でございます。

​この「気」の主は、拙者の剣の全てを、その理(ことわり)で解析し、否定しようとしている。

​2. データという名の無駄

​「アヤよ。新たな対戦相手が、拙者に目を向けておる。」

​「え? 誰? 火ノ原さんの仕返し?」

​アヤはタブレットを操作し、すぐに情報を引き出す。画面に映し出されたのは、白衣に似た戦闘服を纏い、眼鏡をかけた青年の姿。氷刃の理論家・白峰 理央。ダンジョン配信界のデータ解析部門で絶大な支持を得る、ランキング上位の実力者。

​白峰理央:「逆撫氏の剣は、 100 分の 3 秒で 7 の動作を省略している。非効率だ。彼の『心眼』とは、単なる予測計算アルゴリズムの一種に過ぎない。データこそが真実だ。」

​その言葉は、まるで拙者の武士道を、感情のない数値で無価値と断じているようだ。

​「彼は、拙者の『残心』や『一期一会』を、非効率な『無駄な動作』と認識しておる。」

​拙者にとって、剣とは命の道であり、一瞬の動作にも魂が宿る。しかし、彼にとっては、剣術とは最高の効率を求めるための計算式でしかない。

​「お兄ちゃん、白峰さんは理論派なの。きっと、お兄ちゃんの剣を全部データにして、攻略法を見つけようとしてる!」

​アヤが不安を滲ませる。拙者の心眼は、視覚情報を完全に切り捨て、感覚のみで真実を掴む。しかし、彼のデータは、その感覚を数値化し、論理の牢獄に閉じ込めようとする。これは、拙者の剣の根幹を揺るがす試練にございます。

​3. 感覚と論理の対決へ

​拙者は、静かに刀の鞘に触れた。

​「理央殿は、感覚を信じぬ。拙者は、論理を信じぬ。剣の真実が、データにあるのか、それとも心(しん)にあるのか。この勝負、避けて通るわけには参りませぬ。」

​武士道には義理と誠(まこと)が求められる。烈殿には義理を果たした。しかし、理央殿との戦いは、拙者の剣の誠を、理の力で証明する戦いとなる。

​彼は、拙者が江戸時代から持ち込んだ「感覚」という名の古き魂を、現代の「データ」という名の冷たい論理で斬り捨てようとしている。

​「アヤよ。理央殿との接触を整えよ。拙者は、論理という名の氷を、一閃の心(しん)で打ち砕いてみせましょう。」

​拙者の心眼に、氷の刃が、いよいよその姿を鮮明に映し出す。次なる戦場は、感覚と論理が激突する、静かで冷たい場所となるであろう。


​烈殿の炎が去った後も、配信界の熱狂は収まらない。アヤが懸命にコメントの嵐を鎮める中、拙者の心眼は、烈殿とは全く異なる、氷のような「気」を捉えていた。

​それは、感情という不確定要素を排除した、論理(ロジック)が形作った冷たき気配。その主、氷刃の理論家・白峰 理央は、自身の配信で拙者の剣を数値で断じた。

​「逆撫氏の剣は、効率 87.9%。戦闘後の『残心』は、データ上、 3.5 秒の無駄な静止時間として処理される。彼の『心眼』とは、単なる予測計算アルゴリズムの一種に過ぎない。データこそが真実だ。」

​拙者の武士道の核たる「残心」を、彼は「無駄な静止時間」と切り捨てた。命懸けの剣の道を、感情なき計算式で否定する。これこそ、烈殿の炎以上に、拙者の魂を凍らせる試練にございます。

​「理央殿は、感覚を信じぬ。拙者は、論理を信じぬ。剣の真実が、データにあるのか、それとも心(しん)にあるのか。この勝負、避けて通るわけには参りませぬ。


​スタンピードの発生。大都市を脅かすほど巨大な魔力の濁流の「気」を感じ、拙者はアヤと共に震源地へ急いだ。ダンジョン『無機質の地下研究施設』の深層、サーバーが並ぶ冷たい空間で、拙者はついに理央殿と邂逅した。

​白衣を纏い、冷徹な表情の理央殿は、感情の機微を一切見せない。彼の手元のデバイスには、この場の全ての魔力、温度、風の流れが数値で表示されている。

​「逆撫氏、遅い。貴方の戦闘効率は予測値を下回る。私の計算では、貴方がここに到達するまでの最適解ルートは 7.2 分だった。貴方の『心眼』は、不確定要素(ノイズ)を処理しきれていない。」

​ノイズ。拙者の感覚、魂、そして武士道を、彼はその一言で片付けた。

​「理央殿。拙者は、命を懸けた戦いを、時間や数値で測るつもりはございませぬ。貴方の剣は、その冷たい理(ことわり)に囚われすぎておる。」

​理央殿は表情を変えず、スタンピードの核である暴走した実験コアを指し示す。周囲を覆う魔力バリアは、並大抵の攻撃では破れない。


​「コアを破壊するには、一点に 13 連続の精密攻撃が必要。成功確率は 98.3% 。貴方にはそのデータはない。私に従え。」

​理央殿は、自分のデータが導き出した絶対的な答えを拙者に要求した。彼の 98.3% は、論理上、最も確実な解。

​しかし、拙者の心眼が捉えたのは、全く別の真実だった。コアのバリアの魔力粒子が、わずか一瞬だけ「途切れる縁(えにし)」。一撃必殺の機会。

​「貴方様の理(ことわり)は 98.3% で立ち止まる。しかし、拙者の心は 100% の一期一会を捉えておる。 1.7% の不確定要素は、武士にとって命取りにございます。」

​拙者は無言で刀を構え、目を閉じた。視覚もデータも遮断された世界。あるのは、心眼が映し出す、100% の成功確率を持つただ一つの光の軌跡のみ。

​理央殿が「非効率だ!」と叫ぶその刹那――

​拙者の刀は閃いた。静謐かつ完璧。それは理央殿の 13 連続攻撃とは比べ物にならない、魂と武士道の全てを込めた一閃。刀は魔力バリアの「縁」を正確に貫き、コアを粉砕した。スタンピードは嘘のように収束する。

​理央殿のデバイスには、その瞬間、信じられないメッセージが表示された。

​「 100% SUCCESS - DATA ERROR」

​理央殿の完璧な表情が、初めて動揺に歪んだ。彼の冷徹なデータは、拙者の「魂(ノイズ)」が生み出した 100\% の結果を、処理できなかったのだ。

​「ありえない……。私のデータは、貴方の魂(ノイズ)**を計算に入れられなかった……。」

​拙者は、崩れ落ちる理央殿の傍らを通り過ぎながら、静かに諭した。

​「理央殿。貴方様の理(ことわり)は鋭いが、剣は命の輝き。人の心と命は、貴方様のデータには収まりませぬ。剣の道を極めたければ、心眼(感覚)を学びなされ。」

​論理という名の氷の刃は、拙者の武士道によって砕かれた。理央殿は、自身の人生哲学が根底から揺らぐほどの衝撃を受けたであろう。彼の配信は、単なる解析データから、「 1.7% のノイズ」、すなわち「魂」の存在証明を求める、新たな旅に出るに違いない。


アヤ視点___

​烈さんの炎がようやく鎮火したと思ったら、今度はまるで真冬のブリザードみたいな空気が私たちの周りを覆い始めた。その中心にいるのは、氷刃の理論家・白峰 理央。

​彼は、お兄ちゃんの剣を「古臭い」とか「ダサい」とか言わない。ただ、「非効率」だと、感情を一切込めずにデータで切り捨てる。

​「お兄ちゃん、白峰さんのデータによると、お兄ちゃんの『残心』は無駄な静止時間 3.5 秒だって! 100% の成功確率を見つけるなら、理央さんの言う通り、 98.3% の連続攻撃ルートを選ぶべきって…」

​タブレットに映る理央さんの解析画面。全てが数値化され、最適解が示されている。私のナビゲーションは、彼のデータに常に劣っている気がして、心が焦る。お兄ちゃんの剣は、理屈じゃない、魂の輝きなのに!

​「(静かに)……理央殿は、感覚を信じぬ。拙者は、論理を信じぬ。アヤよ。拙者は、心が捉えた真実を信じる。それが、武士の誠(まこと)にございます。」

​お兄ちゃんの声は静かだけど、その底には、絶対に譲れない信念の熱があった。

​突如、街に響く緊急アラート。モンスターの異常な大量発生、スタンピードだ。震源地は『無機質の地下研究施設』。理央さんは、このスタンピードを数日前に 98.3% の確率で予測していた。データが、彼の正しさを証明している。

​私たちは急いで震源地へ向かう。ダンジョン内部のデータは完全にノイズまみれ。私のナビゲーションは頻繁にエラーを吐き、パニックになりそうになる。

​深層で、ついに理央さんと遭遇した。彼は多数のデバイスを操作し、まるで氷の騎士のように冷徹にモンスターを処理していた。

​「逆撫氏、遅い。貴方の効率は 7.2 分遅延している。貴方の『心眼』は、不確定要素(ノイズ)に処理を狂わされている。」

​理央さんの声は、私に、そしてお兄ちゃんに、「データに従え」と命令しているようだった。

​彼はスタンピードの原因である暴走した実験コアを示し、言った。

​「コア破壊の最適解は、私のデータが導き出した 98.3% の 13 連続精密攻撃だ。感情という 1.7% のノイズを排除し、この計算に貴方も従え。」

​3. 100% の閃光と、私の証明

​理央さんの 98.3% の成功確率。それは、現代社会が信じる最も確実な理(ことわり)だ。でも、お兄ちゃんは静かに首を横に振った。

​「貴方様の理(ことわり)は 98.3% で立ち止まる。しかし、拙者の心は 100% の一期一会を捉えておる。 1.7\% の不確定要素は、武士にとって命取りにございます。」

​お兄ちゃんは目を閉じ、刀を構えた。その瞬間、彼の周囲から、全ての音と気配が消えたように感じた。彼に見えているのは、私には見えない、バリアの魔力粒子が**一瞬だけ途切れる「縁(えにし)」だけ。

​理央さんが「非効率だ!」と叫んだ直後、お兄ちゃんの刀が光った。

​キン……!

​あまりに速く、あまりに正確で、その一閃は、理央さんの 13 連続攻撃の計算を遥かに超えて、コアを粉砕した。スタンピードは止まった。

​私は歓声を上げることも忘れて、理央さんのデバイスを見た。画面に表示されていたのは、彼が絶対だと信じた論理が否定された、冷たいメッセージ。

​「 100\% SUCCESS - DATA ERROR」

​理央さんの顔が、初めて人間の動揺を見せた。私の目に涙が滲んだ。 1.7\% のノイズ。それは、お兄ちゃんの魂の力だった。お兄ちゃんが信じた「心眼(感覚)」が、理央さんの「データ(論理)」に勝ったんだ!

​お兄ちゃんは、崩れ落ちそうな理央さんの傍らを、一切視線を向けずに通り過ぎた。

​「理央殿。貴方様の理(ことわり)は鋭いが、剣は命の輝き。人の心と命は、貴方様のデータには収まりませぬ。剣の道を極めたければ、心眼(感覚)を学びなされ。」

​私は、データと論理が全てだと信じる理央さんに、心の中で叫んだ。

​理央さん! お兄ちゃんの剣は、データじゃ計れないんだよ! 彼の 100% は、私たちが生きる『現代』じゃなくて、彼が信じる『武士道』の真実なんだ!

​私は、この理屈が通じない兄の凄さと、彼を支える自分の役割を再確認した。次の敵は、美学を説く剣士。この騒がしい世界で、お兄ちゃんの「美」は、どこまで通用するのだろうか。


理央殿との戦いを終え、拙者の心眼は再び静寂を取り戻した。論理(データ)という名の冷たい壁は、心(感覚)という名の炎によって砕けた。理央殿は、自身の剣の道に真の誠(まこと)が欠けていたことを悟ったであろう。

​しかし、この現代社会の波は、次から次へと試練を運んでくる。烈殿は興行をもって、理央殿は解析をもって拙者を試したが、次に拙者が感じ取った気配は、そのいずれとも異なる。

​それは、まるで水面に映る月のように静かで、清らかでありながら、どこか皮肉めいた響きを秘めた気配。美学と礼法を重んじる剣士、風雅の剣客・青嶺 雅(あおみね みやび)でございます。

​雅殿は、拙者の「配信武士道」の在り方、すなわち、古の武士の精神を俗世(配信)に晒すことの是非を問うてくるであろう。烈殿のように命の危険を与えるわけでも、理央殿のように論理で否定するわけでもない。これは、拙者の名誉と哲学に対する試練にございます。


​アヤがタブレットを差し出す。雅殿からの挑戦状、ではなく、優雅な招待状でございました。

​青嶺 雅:「逆撫殿。貴方の剣には確かに古の『雅(みやび)』を感じます。しかし、配信という俗世でそれを汚すのは、いかがなものか。是非、私と共に静謐な竹林ダンジョンで、真の美学について語り合いましょう。」

​「雅殿は、拙者の剣を『汚れている』と見ているのでございますな。」

​拙者は静かにそう呟いた。武士道は清廉であるべき。しかし、妹子の生活のため、拙者はこの俗世の恩恵を受けている。雅殿は、その矛盾を衝いてくるであろう。

​だが、その雅殿の気配と共に、拙者の心眼は、もう一つの異質な気配を捉えていた。


​それは、激しい感情の奔流と、大胆な自己顕示欲が混ざり合った、鮮烈な気配。

​この気配の主は、まるで装束が乱れているかのように、剣の構えにも、その身のこなしにも、一切の抑制や自制心が見られない。それは「舞」。剣を武道ではなく、芸術(アート)として捉える者の気配でございます。

​この乱れた気配こそ、双剣舞踏家・舞坂 美弦(まいさか みつる)であろう。

​(剣士たる者、常に残心を忘れず、装束を乱さぬよう、心も身も引き締めるもの。この気配の主は、その教えとは真逆の道を進んでおる。)

​美弦殿は、剣を命を懸けた真剣勝負ではなく、人に見せるための見世物(パフォーマンス)として昇華している。雅殿が「武士の装束は乱れるべきではない」と説くならば、美弦殿は「装束を乱してこそ、感情は解放される」と主張するであろう。

​拙者の「配信武士道」は、美学という、最も曖昧で難しい試練に晒されることとなる。

​「アヤよ。雅殿の招待を受ける。だが、拙者の心眼は、その先に、美学と舞踏という、二つの異なる試練が待ち構えていることを知っておる。……装束を整えよ。」

​拙者は刀の鯉口を切り、次の戦場へと思いを馳せた。

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