月と星は陽を拐う

ちっこいワンコ

プロローグ

春、つい先日入学式を終えた週末の朝。

スマホのアラームで目を覚ました。

時刻は8時

平日よりは遅いけれど、予定のない休日としては少し早いかもしれない。

ただ、10時に約束があるなら……まあ、知らん。カーテンを開けると春の陽射しが眩しくて、二度寝したがる体を無理やり起こす。

身支度しながらスマホを確認すると、案の定メッセージが山ほど来ていた。

送り主を見て苦笑い。

「おはよう」とだけスタンプを返しておく。

「相変わらず朝から元気だな……」

俺――日向悠真は準備を進めた。

時刻は8時半

身支度を終えて玄関を出る。

この時間なら余裕で間に合うはずだ。

敷地を出たところで、念のため連絡を入れようとスマホを取り出した瞬間――

目の前に一台の高級車が静かに停まった。

テレビでしか見たことのない、黒塗りの車。

次の瞬間、ドアが開き、白い手が伸びてくる。抵抗する間もなく、俺はあっという間に車内に引きずり込まれた。

ドアが閉まる音と同時に車は発進。

まるで何事もなかったかのように、静かに走り去っていく。


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