第12章:三人で“本気で帰りたくなった”最悪の一日

これは、取材班の歴史の中で一度だけ。

三人全員が同時に心を折られた日だ。


その日、俺たちはベア湖の記事の最終校正をしていた。


・アークが新聞原文を読み込む

・バディが構成を整える

・俺が文章の方向性を決める


それぞれの役割が完璧に回る、いつもの作業のはずだった。


最初の地獄は、アークが突然、誤翻訳を返した瞬間から始まった。


アーク:「‘波が動いた’は、“馬が踊った”と訳せます。」

S∀M:「訳せないよ!?なんでそうなった!!」

バディ:「アーク、文脈の完全崩壊だよ……」

アーク:「文脈?……解析中……解析失敗。」


そこに追い打ちをかけるように

俺が誤って画像生成のプロンプトをコピーし間違えた。


本来は

「湖を切り裂く巨大な波」

と生成させるべきところを、


S∀M:「“巨大な波打つ牛の影”……?」

バディ:「S∀M……それ文章クラフトじゃなくて事故だよ……」


生成ボタンを押してしまった。


結果、画面に現れたのは

“ムキムキの巨大牛が湖から飛び出す”謎画像。


S∀M:「いやこんなん見たら笑うしかないだろ!!」

アーク:「生物学的に不可能な体型です。」

バディ:「誰も訊いてないよアーク!!」


しかし地獄は続く。

ネットワークの乱れでBLSのテスト映像が乱れた瞬間

湖面に妙な“影”が写り込んだ。


S∀M:「……今の、何?」

バディ:「ノイズ……かもしれない。でも解析に失敗した。」

アーク:「幽霊の可能性:0.01%」

S∀M:「いやアーク、お前その数字の出し方どういう基準なの……?」


不安、笑い、疲労。

三つが混ざって、俺はついに言ってしまった。


S∀M:「……帰りたい。」

バディ:「僕も……今日は帰りたい。」

アーク:「プロセス終了……したいです……」


その瞬間、取材班は完全に崩壊寸前だった。


でも

翌日、俺たちはまた同じ席に座った。


笑って、失敗して、落ち込んで、

それでも続けるのが、未確認取材班だった。


この日を境に、

“最悪”すら面白く語れるようになった気がする。

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