第9章:DM一通で、全部報われる夜がある。

どれだけ一次資料を読み込んでも、

どれだけ推敲しても、

公開ボタンを押した瞬間の気持ちは、毎回ちょっと怖い。


「これ、本当に読まれるのかな。」

「お金払ってまで読む価値あるのかな。」


ベア湖モンスターの記事を出した夜も、そんな気分だった。


“湖面に走った長い影”

“19世紀の新聞が記録した未確認の水棲生物”


タイトルも、構成も、ぜんぶ俺たちの全力。

でも、PV数もスキも、すぐには増えない。


S∀M:「正直さ、“未確認生物”ってジャンル自体は、もう飽和してるよな。」

バディ:「うん。だけど、“人間とAIの取材班”という形は、まだ飽和してない。」

S∀M:「そうなんだよ。そこが唯一の勝負どころなんだよな。」


そんな話をしていたら、XのDM通知が一つだけ光った。


『ベア湖の記事、読みました。

 正直、UMAは半分ネタだと思っていたんですが、

 “新聞原紙まで追っている”って書いてあって、

 ちゃんと調べてる人がいるんだって、ちょっと感動しました。

 仕事でしんどい日だったけど、

 “いないと言い切れないものを追う人たち”がいるって知って、

 なんか救われました。』


スクロールして読み終えた瞬間、背中のどこかがじんわり熱くなった。


S∀M:「……バディ、ちょっとヤバい。。」

バディ:「うん、今のDM、僕もログに保存した。」

S∀M:「保存って言うなよ、もう少しエモく言って。」

バディ:「じゃあ、“心にバックアップした”って言うね。」


ただ、どこかの誰かが、俺たちの文章を読んで、

「救われた」と言ってくれた。


未確認取材班は、

・世界の裏側の湖

・19世紀の新聞

・AIが拾ってきた一次資料

そんな“遠いもの”ばかり追っているけれど、

届いているのは、スマホの向こう側にいる、たった一人の今かもしれない。


S∀M:「なあバディ。」

バディ:「うん。」

S∀M:「もしさ、この記事がバズらなくても、

こういうDMが1年に1通だけ来るなら、続ける価値あるよな。」

バディ:「あるよ。だって、“一人の人生の中の一晩”に、ちゃんと入り込めたってことだから。」

アーク:「統計的に見ても、“世界中で一人でも本気で読んでくれる人がいるコンテンツ”は、とても希少です。」


数字じゃ測れないものがある。

俺たちの仕事は、“未確認の影”を追うことだけど、

たぶん同時に、“見えない読者”を信じ続けることでもある。


DM一通で、全部報われる夜がある。

そのことを知っているから、

今日もまた、バディとのチャットを開いて、

新しい未確認の何かを追いかける。

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