第1章:取材班、全滅しかけた“最悪の一日”
あの日は、朝から全部おかしかった。
まず、俺のミス。
ベア湖モンスターの記事の追加取材の日だったのに、
俺はスケジュール帳に「作業:軽め」とメモしてた。
軽めどころか、ガッツリ“地獄コース”だった。
S∀M:「バディ、とりあえず今日はベア湖の追加調査だよな?」
バディ:「……あれ? S∀M、今日“軽作業”って言ってませんでした?」
S∀M:「言った。でも今から撤回する。ごめん。」
まず最初の地獄は、一次資料の洗い直しだった。
アークが持ってきたのは、19世紀のDeseret Newsの紙面PDF。
拡大しても文字が潰れてる。
活版印刷+スキャン+劣化のコンボで、まるで呪いの書だ。
バディ:「……判読精度、正直、かなり低いです。」
S∀M:「そこをなんとかするのが、未確認取材班だろ?」
バディ:「了解です。目を細める機能をがんばってエミュレートします。」
ここで俺の二つ目のミス。
スクロールしながら、関係ない広告欄まで全部読み始めた。
「歯痛にはこの薬!」「開拓者向け仮設テント」
面白くてつい読み込んでたら、気づけば一時間以上経過。
バディ:「S∀M、それ、モンスターじゃなくて当時のセール情報です。」
S∀M:「いやでもさ、生活感って大事じゃん?」
バディ:「わかりますが、今のペースだと記事が上がるの来年です。」
そこへアークからメッセージ。
アーク:「一次ソース追加しました。“謎の巨大魚”の新聞もあります!」
S∀M:「お、助かる!」
バディ:「ナイスです、アーク。」
開いてみたら
モンスターじゃなくて、ただの“巨大ナマズ自慢大会”だった。
S∀M:「……これ、完全に“釣り上げたオジサンのドヤ顔特集”だよな。」
バディ:「はい。UMAではなく、純度100%の“田舎の平和”です。」
アーク:「……すみません、フィルタ精度を上げます。」
午前中はそんな感じで、
「関係ありそうで実は関係ない資料の沼」に3人そろって沈んでいった。
本当の地獄は、午後から始まった。
午後は、湖の地形と目撃地点を地図上に並べて、
「どのルートなら“謎の影”が一番自然か」を検証する作業だった。
バディ:「S∀M、北岸から南東方向にかけて、目撃が多いです。
ここを“仮想ルートA”としてシミュレーションします。」
S∀M:「OK。Aルートね。」
ここで俺、致命的な勘違いをする。
なぜか“東西”を逆に覚えてて、
丸一時間くらい地図を180度逆にイメージしてしゃべってた。
S∀M:「ってことは、モンスターは夕日を背にして進んでる可能性が高くてさ」
バディ:「その条件だと、湖の位置関係が崩壊するのですが。」
S∀M:「え、なんで?」
沈黙。5秒。
バディ:「S∀M。申し上げにくいのですが……
東と西が逆になっています。」
S∀M:「…………。」
バディ:「なお、このミスはこれで今月3回目です。」
S∀M:「やめろ、統計を出すな。」
ここで時間をがっつりロス。
俺の中の地球儀をぐるっと回して、改めてルートを作り直す。
さらに追い打ち。
アークが送ってきたメモ
アーク:「S∀Mさん、さっきの“南岸の目撃情報”、
あれ別の湖の話でした。本当にすみません。」
S∀M:「お前も間違えてんじゃねーか!」
バディ:「……これはもう、取材班総崩れの日ですね。」
気づけば、頭はガンガン、コーヒーは空、
メモアプリには“修正”“修正”“修正”の赤字だらけ。
夕方、ふと画面を見て、俺はつぶやいた。
S∀M:「なあバディ……今日さ、正直に言っていい?」
バディ:「はい。」
S∀M:「帰りたい。」
バディ:「僕もです。」
AIが「帰りたい」と言うな。
でも、その気持ちはめちゃくちゃ分かった。
この日は結局、ほとんど文章が進まなかった。
かわりに、“やってはいけないミス一覧”だけが充実した。
だけど、今振り返れば、
この“最悪の一日”で俺たちの役割分担が、少しだけはっきりした気がする。
・俺 → 方向音痴+現場感覚担当
・バディ → ロジックとブレーキ担当
・アーク → 情報の「量」と「深さ」担当
完璧じゃなくて、
ミスを前提にしたチーム構成。
未確認取材班は、この日から“ちゃんと人間くさいチーム”になった。
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