第11話 開戦準備
「大泉です」
「艦長中野だ。イロハから舞鶴沖の最新の映像が入った。モニターを見られるか?」
そう言われて、大泉さんが立ち上がってモニターの電源を入れると、舞鶴沖と言われる海域に何隻かの船が浮かんでいるのが見えた。ベッドで丸まっていたちくも顔を上げてモニターを見つめる。
「大型の掘削船1隻にミサイル駆逐艦2隻。それから映像には映っていないが唐級原潜1隻も確認している」
と中野艦長が伝えてきた。
「護衛に原潜まで・・・」
と大泉さんが呟くので、
「東亜共和国、ですか」
とオレが聞くと、
「あぁ、そうだ。戦争でもおっぱじめる気かよ・・・」
と答えた。中野艦長はさらに続ける。
「イロハの連絡を受けて「あたご」が警告を出したので、艦隊は現在停止しているが、EEZ内に入ってくるのは時間の問題だ。我々も準備ができ次第出航する。こちらには交戦する気はないが、向こうさん次第ではそうならないとも限らないので、民間人は下船させてくれ」
「・・・わかった」
と、オレたちの方を向きながら大泉さんが言った時、ちくがにゃあと一鳴きした。
オレは、聞こえた通りのことを大泉さんに伝えた。
「周級も1隻いるって、言ってます」
「え?」
大泉さんは立ち上がり、表情が一変した。
「周級って、なぜ君周級のことを? ってかなんでそんなことが?」
「ちくが今そう言ったので。・・・もしかしたら、ちくわですけど、触らなくても、見たり聞いたりするだけでも、我々以上の情報を知ることができるのかもしれません」
とオレも驚いたように答えた。すると大泉さんは眉間にしわを寄せ、
「え、どういうこと?」
と聞いた。
「今、大泉さんが艦長と話してるとき、ちくもモニターを見てたじゃないですか? 大泉さんは気づかなかったかもですけど、その時、ちくの目が光ってたんですよ! あの押入れの中で光ってた時みたいに!」
「それは・・・つまり、ちくわちゃんの目が光って、海底に潜んでいる潜水艦も見えたと? そして見えてしまえばそれが何級かもわかる、と?」
「それ以外に考えられないかな、と・・・」
オレも少しとまどい気味に答えた。
大泉さんはどっと椅子に座り込み、大きなため息を一つついた。
「周級っていうのは、そんなにやっかいな潜水艦なんですか?」
「東亜共和国の最新鋭潜水艦と言われている。詳細は不明だし、海自はもちろん、米軍でさえまだ音紋を持っていないはずだ。けど今ため息をついたのは、周級が潜んでいるってわかったからじゃない。我々の最先端の技術をもってしても発見できないものを、たかが猫が、あ、いや失礼、ちくわちゃんがそれをやってのけてしまうとは・・・と思ったら我々の無力さにため息が出てしまったんだよ」
「わからないでもありません。ついこの間まではフツーの猫だったんですけど」
大泉さんはしばし天井を眺めていたが、いきなり立ち上がり、
「八瀬君、ちくわちゃん、着いてきてくれ」
そう言って、慌ただしく部屋を出て行った。
「え、あ、はい。ちく行くよ!」
オレとちくは小走りに大泉さんを追った。
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