第8話 謎の潜水艦

 あの日以来、オレは吉田山からの地下道のこと、その先にあった管制室のような地上施設、地下の大空洞、そして潜水艦・・・これらのことばかり考えていた。誰が何のために掘ったんだろう、あの潜水艦は日本のだよな、もしかして他の国の潜水艦がこっそり侵入して、あそこで何かを企んでる!? 日本の占領!?・・・想像は空想になり、やがてとんでもない妄想へと変わる。

「あぁ、精神衛生上よろしくない! やっぱり明日の土曜日、もう一回行ってみよう!」

そう考えながら眠りについた。


 その週末は一緒に住んでいるハナちゃんが帰省していてオレ一人の夜だった。なのに、明け方近くに、健太郎起きて、と声がした。

誰かが腹の上を踏み踏みする。ちくだ。するともう一度、健太郎起きて、と声がした。

間違いなくちくだと思い、オレは飛び起きて、腹の上のちくを見つめた。

「聞こえるんだね、健太郎」

「へ?」

「行くよ」

「え?」

「あの洞窟。地下迷宮だよ。今日は彼らの船が来る!」

「は!?・・・船?・・・ちくが喋っとる!? え、ちく、なんで?」

「詳しいことは後。モバイルバッテリーとか食料とか、必要な物をザックに入れて出発するよ」


 そう言って、ちくは玄関に向かってすたすた歩いて行ってしまった。オレは何がなんだかわからなかったけど、とりあえずちくに言われるがまま、ヘッデンやら電池やら、予備バッテリーをザックに入れ、登山用のヘルメットまで被り、ちくを宇宙飛行士型のケージに入れて、まだ明けきらぬ街を自転車で吉田山に向かった。


 午前4時到着。さすがにあたりはまだ暗い。遠くで鹿の鳴く声がする。ヘッデンを点け吉田山を登る。喫茶店だった廃屋はまだ取り壊し作業中のようで、オレンジと黒の立ち入り禁止を示すフェンスに囲まれていた。宇宙飛行士からちくを出すと、この間と同じように、ついて来い、とでも言うようににゃんと一鳴きして進む。しかも躊躇なく。

マジか・・・ 朝早いからか、業者の人はいないようだったけど、なるべく音をたてないようにフェンスの隙間から、オレも中に入った。

この間の地下へ降りる階段を見つけて降りていく。倉庫と思しき部屋に入ると、そこにはもう一つ扉があった。あの扉だ。


 今日ここを開けたら、もう二度と戻れないかも。でも開けなかったら二度とこの先に進めない気もする。

足元のちくを見下ろす。行くしかないよね! と言うとにゃあと返事。何だよ、言葉喋れなくなっちゃったのか?と思ったら、

「行くよ、開けて」

だと。


 扉を開けると、この前と同じ地下道が暗闇の先へと続いていた。今日はヘッデンがあるので両手がフリーだ。念のため、ところどころ写真を撮りながら、ずんずん進む。

しばらくすると、この間は気づかなかったけど、右側に扉を見つけた。こんなのあったかな、と思いながら叩いてみると、鉄製の頑丈そうな音がした。

「これ、まるでドラクエのダンジョンじゃん! 開けたらミミックってか」 

どうしよう、このまま進むか、それともこの扉を開けてみるか・・・開かないかもしれないけど、素通りってのはないな! そう思って、オレは扉のノブを回した。すると予想に反して、ぎぎぎぃっといかにも錆びついてますって音を立てて、ドアは開いた。ヘッデンで照らすと、これまでの道同様、真っすぐ奥に続いている。ただし、こちらは少し登り気味だ。


「マジかぁ、開いちゃったよ・・・どうしよう」

オレはちくにどちらに進むか任せてみようかと思ったけど、また迷子になられて探す羽目になっても困るので、ケージに入れながらどちらに行くか聞いてみた。が、ちくはウンともスンとも言わなかった。

「ちぇ、肝心な時はだんまりかよ。どうするかなぁ・・・」

謎の扉が出て来て、開けたら道があった・・・。前回と同じじゃないか! 地下室の扉を開けたから地下道を見つけ、潜水艦を見つけた! なら今回も見つけちゃった以上、行くしかないだろ!と覚悟を決めた。


 念のため、内側からも扉が開けられることを確認して、オレは開けた扉の先に進んでみることにした。道は、少し登りだったけど、惚れ惚れするくらい真っすぐだった。10分も歩くと、照らされた道の先に別の扉が現れた。

「また扉・・・こうやってどんどんダンジョンに迷い込んで出られなくなるワナかよ。でも・・・」

ここまで来たんだ開けるしかない! と思い切って開けると、なんとそこは地上だった。日の出はまだだけど、辺りはもうすっかり明るくなっていて、目の前には草が生繁っている。地上なら怖いものはない! 草をかき分け進むと、見たことのある場所に出たことに気づいた。ここは大文字山の「天の原」と呼ばれる場所だ!


 大文字山とは、毎年8月16日の送り火でご存じの京都市にある山だ。銀閣寺脇から登ってくると30分も掛からずに送り火を行う火床に出る。そこからさらに奥に20分ほど進むと三角点のある場所に出るのだが、里山だけあって、そこに至るルートも、そこからのルートも無数と言っていいくらいにある。その中の一つを下っていくと、通称「天の原」と地元で呼ばれている、だだっ広い場所に出るのだ。広さだけで言ったらサッカーでもできそうだ。もちろん山中なので木も立っていれば、微妙に傾斜もしているので実際にはできないが、広さ的にはそれくらいある。大文字山の火床の先の、そのまた奥にこんな広々とした場所があるとは、最初に訪れた時は驚いたものだ。


 そんな天の原の外れに一本の小川が流れていて、その上流はうっそうとした繁みに覆われているのだけれど、扉はその繁みに隠れていたのだ。

「こんなところに扉があったのか! うっそうとした草ばっかりだからこっちには来たことなかったな」

扉を開けて、繁みを抜けて、天の原に出て振り返ると、扉は繁みに隠れて全く見えなかった。

「最初の通路は大空洞に繋がってたけど、この道はどういう役目があるんだろう・・・いや、それを考えるのは後でいいか。まずは潜水艦だ、とりあえず戻ろう!」


 オレは繁みに隠れた扉を開け、今度は若干下りになった道を進み、最初の扉まで戻ってきた。開ければ最初の通路だ。どっちも暗闇の一本道だけど、こっちは一回通ったことがあるからだろうか、なぜか安心する。


 やがてコの字型階段に突き当たった。上に登れば管制室。今日は誰かいるのだろうか。でも今日はまず下だ! ちくは船が来るって言ってたし、あの地底湖と潜水艦の謎を突き止めなくては。


 ちくの入った宇宙飛行士を背負って、ヘッデンで足元の階段を照らしながら慎重に降りる。やがてヘッデンでも照らしきれないくらい大きくて真っ暗な大空洞が姿を現す。今までよりも慎重に、辺りに何もないことを確認して、今日は最後まで下り、地底に降り立った!ドキドキしている。月面に降り立ったアームストロング船長にでもなった気分だ。

オレは辺りを見回して、大きく息を吸い、ふぅーっと感嘆を隠さず、大きな深呼吸をした。


 ちくを宇宙飛行士から出してあげた。けどリードは着けたままだ。改めて辺りを見回すと、この地下大空間は半円球型の巨大ドームのようになっているようだ。どれくらいの大きさだろう・・・ヘッデンの灯りだけではとても全てを照らし出せないけど、東京ドームくらいはあるんじゃないだろうか。下は湖になっている。水は相変わらず透明だ。

証拠、というわけじゃないけどあちこち写真を撮っていたら「あれ」と思わず声が出た。この間とちょっと景色が違う。


 そうだ! 潜水艦がない!

辺りをうろちょろしているちくに向かって、

「ちく! 船が来るって言ってたのに潜水艦いないじゃん!」

と叫んだ時、突然、地底湖の方からポコポコという音が聞こえてきた。ヘッデンで照らしてみると、真ん中あたりから気泡が上がっている。それはだんだんと大きくなり、やがてスキューバとかでできるぼこぼこという気泡ではなくて、湖全体が沸騰しているような感じになった。ちくを見ると、言った通りだろって感じの表情をしていた、気がした。

間違いない、こりゃ絶対潜水艦だと思っているそばから水面が白波立ってきて、棒のようなものがにょっきりと姿を現した。そして、巨大な鉄紺色の物体が、ゆっくりと浮上してきた。

・・・でかい!

津波というには大袈裟だけど、それでも大きな波が、オレの立っている岸まで打っては返しを繰り返した。


 唖然と言うのはこういう時のことを言うのだろう。しばし立ち尽くし、目の前の巨大な物体に、写真を撮るのも忘れて呆気に取られていた。しばらくするとハッチが開いて中から何人か人が出てきた。投光器で辺りを照らし、デッキから縄梯子のようなものを垂らして、ゴムボートが設置された。オレとちくはその様子をずっと眺めていたが、ようやく向こうもこちらに気づいたようで、驚いたような表情を見せてから、無線で、おそらくは船内の誰かと交信を始めた。

やがてデッキに出てきたのはスーツ姿の男性だ。オレとちくの姿を認めると、

「そこの人、日本語はわかりますか?」

とオレたちに向かって叫んできた。オレが頷くと、その男性は、よかったと言わんばかりにうんうんと2回頷いて、ゴムボートに乗ってこちらにやってきた。


 謎の潜水艦から出てきた、謎のスーツ姿の男・・・オレは思い切り身構えたが、その男は、笑顔を浮かべた表情でオレに近づいてきた。

「君はどうしてここに?」

とスーツの男が聞いた時、大空洞が一気に明るくなった。オレが、おぉっと驚くと、

「あぁ、あの梯子の脇に電気設備があってね。今スイッチを入れたんだ」

と、コの字型取っ手付き煙突階段の横を指さした。


 オレは、吉田山の廃屋に猫のちくわが紛れ込んでしまったので、追いかけて探していたら地下道を見つけたこと、そこをずんずん進んできたら、梯子のついた竪穴にぶつかり、その梯子を下ってきたらこの大空洞にたどり着いたことを正直に話した。

ちなみに梯子を上に登ったら管制室のような部屋に出たことも伝えた。


「なるほど、そっちも見たのか」

その人は上を見上げ、いかにも見られちゃったかぁといった感じで呟いた。オレは潜水艦を見つめたまま恐る恐る聞いてみた。

「みなさんは…海上自衛隊の方ですか? ここで何をされているのですか?」

するとそのスーツ男は、

「潜水艦を見られてしまった以上、とぼけても仕方ないが…国防の任務にあたっている、としか言えないんだ。それ以上は勘弁してほしい。私は大泉純一郎。内閣府の参与をしています」

と自己紹介をしてくれた。


「あら。かわいい猫ちゃん!」

そう言って、次のボートで上陸してきた二人組の女性がちくの頭をなでてくれた。

「うわ、そっくり!」

二人組を見たオレは思わず声が出てしまった。

「私の部下でね。千早駆(かける)と巡(めぐる)という。双子なんだよ」

大泉と自己紹介した男が教えてくれた。

「どっから来たの、キミ」

そうオレに言ってしゃがみながらちくの頭をなでたのは、双子の内の気の強そうな方だ。同い年くらいなのにキミ呼ばわりかよ、と思ったので、

「この上の秘密基地からです」

と言ってやった。

「秘密基地ね。あーっ、思い出した! この間、防犯カメラに映ってたのはキミだね! どうでもいいけど、早く帰った方がいいよ、危ないから」

そう言って二人はコの字階段の方へ歩いて行った。


「大泉。ちょっといいか」

次に声を掛けてきたのは、別のボートで上陸してきた同じくスーツ姿の男性だ。

大泉は、

「ちょっと失礼するね」とオレに声を掛け、離れて行った。


「さっき、中野艦長が言ってた灯りの正体はアイツか。民間人か?」

「あぁそのようだ」

「どっから来たんだ、一対。東亜共和国のスパイじゃないだろうな?」

「身分照会はしてないが、吉田山からの連絡通路を見つけて、入ってみたらここに着いたそうだ」

「あの通路か… だからさっさと塞いでしまえと言っていたのに。で、どうする?」

「どうする、とは?」


 二人が離れた場所で話し始めた時、ちくがオレに言った。

「健太郎、この潜水艦に乗りこむよ」

「は、なんで?」

「日本を救うためだよ」

「はぁ?」

「いいから! 見てあのボート、乗組員が離れて今無人だから、それで潜水艦まで行くよ」

「え、いや、操縦どうするの?」

「多分大丈夫。あの二人に見つからないように行くよ!」

ちくとオレはこっそりボートに近づいて行った。


「このまま帰していいのか。舞鶴まで連行して詳しく調べた方がいいんじゃないのか」

「この大空洞にいたというだけで連行はできないだろう。法的根拠がない」

「かと言ってこのまま帰して、あちこちでペラペラ喋られても困るだろう」

「しかし艦に乗せて、あれこれ見られるのも困るのでは。撮影禁止と言ってもこっそり写真を撮られて、SNSに投稿でもされたらマズイぞ」

「もちろん所持品はすべて預からせてもらったうえで、舞鶴までは拘束室だ」

そういってスーツの男がこちらを振り返った。

「あ!? いない! あいつらどこ行ったッ!」

そう叫んだスーツに向かって、大泉がボートに乗り込んだオレたちを指さして言った。

「若井、あれ!」


「ヤバい、ちく、見つかった!」

その時、ちくがうにゃーんと叫ぶとボートのエンジンが掛かった。

「なんで・・・」

オレはあっけにとられるばかりだ。

「健太郎、操縦ならできるよね。そのハンドルみたいなので潜水艦の方に向かって!」

言われるがままに舵を握りしめ、潜水艦の方に進むように操作する。

このままじゃ潜水艦にぶつかると思った時、またちくが一鳴きして、エンジンが止まった。

「健太郎、縄梯子のところに寄せて」

ゴムボートが潜水艦に接すると、ちくはオレより先に、器用に縄梯子を伝って潜水艦に登って行った。

「健太郎、縄梯子引き上げて!」

ったく、人使いの荒い猫だ。


「おい君!待ちなさい!」

そう言いながら、スーツの男が無線で何かを指示しているようだ。

「ちく、ハッチ開かないよ! 中からロックされてるんじゃ?」

「どいて!」 とちくは言い、またうにゃ~んと一鳴き。すると驚いたことにハッチが自動で開きだしたではないか!

「ちく、これどういうこと?」

裏返った声で聞くと、ちくは、

「わからにゃい」

と返事をした。


 さすがに垂直のコの字型梯子はちくには無理そうだったので、オレの肩に乗せて、ハッチを閉めて、艦内に降りた。これで一安心・・・な訳はなく、周りを見れば、オレたちはもうすでに取り囲まれていた。

「手荒な真似はしたくない。おとなしくしてくれ」

屈強な潜水艦乗り10人近くに取り囲まれてそう言われたら「はい・・・」と力なく答えるしかないでしょうよ、とほほ。

その中のスーツ姿の男が無線で連絡した。

「若井さん、民間人確保しました。あと猫一匹」


 やがて若井と大泉、二人のスーツにさっきの双子が艦内に降りてきた。若井は降りて来るなり、

「君は何をしたかわかっているのか? 自衛隊の艦内に民間人が無断で侵入するのは立派な犯罪だ。逮捕させてもらうよ」

そう言って、オレの後ろの誰かに目配せをした。後ろで、多分手錠だろう、じゃらじゃらっと音がする。

するとちくがいきなり、

「健太郎訳して!」

とオレに言うなり、うにゃうにゃうにゃ~んと大きく鳴いた。皆の視線が一斉に足元のちくに集まる。

「この潜水艦は原子力潜水艦ですね。しかも建造目的は対東亜共和国戦」

ちくは続ける。うにゃにゃにゃうにゃん、うにゃうにゃ~ん。オレが訳す。

「東亜共和国が日本のEEZ領海内で行っている海底鉱床調査の護衛をしている軍艦がターゲット。基本は専守防衛だけど、場合によっては先制攻撃もやむなし、と考えてるわけですね?」


 足元のちくに向いていた若井と大泉の視線がオレに向けられる。そして若井が口を開こうとしたとき、オレはこう言った。

「この猫は、柄がちくわみたいなので「ちくわ」という名前ですが、人語を操ります」

途端に皆の眉間にしわが寄り、若井が、

「はぁ?」

と声に出して、露骨に何言ってんだお前、みたいな表情でオレを睨んだ。

「おまけに、特殊な能力を持っています。何と言えばいいか、予知能力・・・というのとはちょっと違うのですが、例えば潜水艦に触れれば建造された背景、人間に触れればその人の考えていること、なんかがわかるようです。あぁ、あとさっき、ボートのエンジンに触れたらエンジンも掛けられました」

というと、

「何をバカな・・・」

と乗組員の誰かが言うのが聞こえた。

「でも見たでしょ? そして聞いたでしょ? 東亜共和国に先制攻撃かけるんでしょ! そんなこと、オレが知ってるわけないじゃないですか!」

それでも信じられないような顔をしているので、

「もっと当てましょうか?」

そう言って、オレはちくに続きを話すよう促した。ちくはうにょにょん、と鳴いた。

「上陸後に頭をなでてくれたそこの二人は、この上の秘密基地みたいなところに上がるんでしょ? 内閣府情報調査室、の方ですよね?」

スーツ二人とオレたちを追い掛けてきた、さっきの双子を指さしながらオレは言った。

「すごい!当たり。何で知ってるの?」

「駆(かける)っ!」と若井が制止する。

「君たち二人は早く上がって起動しろ」


 双子はぶつぶつ言いながら潜水艦から出て行ったが、オレは続けた。

「あの秘密基地って、対東亜共和国戦の情報収集の要ですね」


 オレはちくがオレに言ったことを、さっきからそのまま言葉にしてるだけだ。他の人には猫の鳴き声にしか聞こえないようだが、オレにはちゃんとした日本語で聞こえるのだ。そしてオレはちくが喋ったことをそのままそっくり喋り返してるだけだ。


 しばらく沈黙が続いた時、オレに手錠を掛けようとしたヤツが、じゃらっと手錠を持ち上げて、

「若井さん、どうします?」

と聞いた。若井はオレをじっと睨んだままだったが、大泉さんが割って入って、

「若井、ここはひとまず私に預けてくれないか」

と言った。

「出航までにはまだ時間がある。逮捕するのか、退艦してもらうのか、・・・それとも他に道があるのか。少し彼と、いや彼らと話をしてみたい」 

すると若井は、

「・・・念のため、監視はつけさせてもらうぞ」

と言って、若いスーツ姿の二人に顎で合図を送った。


「君たち、こっちへ来てくれ。私の部屋に案内しよう」

そう言って大泉さんが歩き出すと、ちくは嬉しそうにうにゃにゃっと鳴いて着いて行った。

「え? 今はなんて言ったんだい?」

歩みを止めて大泉さんがオレに聞く。

「いや、今のは普通に鳴いただけです。オレに聞こえたのも猫の鳴き声でした」

「ふーん」

そう言いながら大泉さんはちくの前にしゃがみ込み、

「君はすごいねぇ」

と言うと、ちくはにゃあとだけ答えた。

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