第42話 国選探索者!十階に足を踏み入れる!
「ぐ……、なんだってんだ、あのトカゲは……」
「まさか……私の剣技が通じないとは……」
「この剣でも斬れないとかありかよ……」
三人のトップランカーとそのお供達は憔悴しきっていた。
コボルトに通じた筈の剣は八階のメイルリザードには一切通じず、九階の物量には押し潰されそうになったからだ。
荷物持ちと馬鹿にしていた者達にも剣を使わせ、メイルリザードも数少ない魔法使い達に対処させる事によりなんとか犠牲を出さずに済んだが、六、七階でのコボルトの魔石集め等する余裕はまず無かった。
「だが、遂にここまで来たぜ……!九階の終わり、十階への階段!」
「ふ、ここまで苦戦したとは言え乗り越えて来たのです。最早過去の英雄を超越した私達ならば、十階の攻略も容易いでしょう」
「ハ!英雄越えか!そんだけやれば親父も俺に口答えはしねぇだろ!」
まだまだ初日も初日なので彼等が焦って攻略する必要性は皆無なのだが、その先にある栄光に目が眩み、そのような事を考える余裕が無いようだ。
実のところ、モンスターとの戦闘経験が大して無い彼等はお供や雑魚、足手纏いと馬鹿にしている者達よりも能力が低かったりする。
VR闘技場は彼らにとってとにかく有利になるように設定されており、彼らの実際の実力は正直に言って五階がギリギリなのであった。
だが実の親に甘やかされ、その立場から周囲の者からチヤホヤされ、苦言を呈そうものなら自分達から遠い所に追いやる、そのような者達故にその事実に本の少しも思い至っていなかった。
「よし……!行くぜ、お前ら!」「ええ」「あいよ!」
そうして彼等は英雄より一階層多く踏み入り、この時点で事実上の英雄越えを果たしたと言えるようになった。
十階に入ってすぐの場所は大きな広間になっており、見渡してみても通路と呼べるものは何処にも無かった。
そして奥の方に目をやってみると、扉がある事に気が付いた。
これまでのダンジョンは階段を進む事で次の階層に行くようになっていたのもあり、この時点で今までのものとは違う事が理解出来た。
……現実を見よう。その扉の前には、イレギュラーモンスターと名高い、ゴブリンナイトが一体、そしてその少し後方には槍を装備し、簡素な革鎧で急所を守っているコボルトが二体、後衛と思われる場所には弓を持ったコボルトが二体、一番後ろには魔法使いのような装備をしたゴブリンが一体、他に回復役と思われるものは見当たらないので、この魔法使いのような装備をしたゴブリンが回復役であろう。
全員が全員、まるで探索者のように武具を装備し、探索者グループのように陣形を取っていた。
「へ!ゴブリンやコボルトが探索者の真似事か?」
「槍持ちや弓は脅威と言えますが、それ以外は鈍重な盾持ちに、単体では脅威になりえない回復役が一体、素早く槍持ちを始末して、弓に気を付けておけば余裕で倒せるでしょう」
「と言うより囲んでやっちまおうぜ?荷物持ち君だらけとは言え、こっちの方が数は多いんだから余裕だろ」
そう言って彼等は包囲する為に横に広がり、素早く前進していった。
だが……。
「ぐ!ぎゃあ!」「がああ!」「ぬわああああ!!」
弓コボルトが素早く射ることで包囲を形成させないように邪魔をし、素早く負傷者を量産していった。
「な!なんだあの速度は!雑魚共固まれ!」
「い、いや!それよりもより散開して的を絞らせないようにするべきです!」
「俺も賛成だ!固まっても適当に全員射たれるだけだぜ!お前ら!散らばった後に近付け!」
戦線復帰させようにも、近付いた者を優先的に射るようにして仲間を助けさせないようにされるので、落とされれば落とされる程戦力が目減りしていく。
それでも所詮は二体しか弓持ちは居ないので、疎らになれば多少は落とされる速度も落ちていった。
そして探索者達は近付くことで相手の堅牢さに気が付いた。
「あ、あいつら、柵で側面を守ってやがる!」
「く、モンスターのクセになんと無駄な足掻きを……!」
対処出来ていないので無駄でもなんでもないのだが、ヌルゲーを期待していた彼等からすれば到底許せない事であった。
「クソ!残った奴等で前から突っ込むぞ!」
「スマートではありませんが、仕方ないですね!」
「荷物持ち共!聞こえたな!俺達が確実に倒せるように先を走れ!」
「な!」「俺等を盾にしようってか!」「英雄越えとか言ってるならお前達が前に出ろよ!」
「うるせぇ!」
そう言って抗議してきたものを一人斬り捨てた!
「ぎゃあああ!」
「良いか!行かないってんなら俺達が斬るからな!分かったら前に行け!」
「チクショー!テメェ等の父親諸共全員地獄に堕ちちまえ!七光り共が!」
前に進むも引くも地獄、そして普通に考えれば殺人未遂以外の何物でも無いこの行動も、彼等の親が関与すれば正当な行いにされてしまう。
しかも逃げようにも足並み揃えて全員で逃げねば、九階のメイルリザードとその随伴モンスターの群れに殺されるのがオチと来た。最早彼らには選択肢が残されて居なかった。
この階層に踏み入った当初よりも人数は減ってしまったが、愚直に前から突撃するには寧ろ好都合な人数である。
彼ら全員の命運を賭けた最後の攻撃が開始されるのであった。
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