第11話 不遇な盾持ち探索者、ソロ仲間を見付ける

 帰還することを決めたジュンは、それ以上の探索は一切せず、敵に出会わないようにてそそくさと帰ることにした。

 長年探索者として生き残ってこれたのも、この慎重さの賜物である。


 そうして到達すること三階、帰り道で緊急事態に見舞われた。

 女性がソロで戦っているではないか。しかもどう見ても苦戦している。


「くっ!あいつらが逃げなければ大丈夫だったのに…!」


 その女性は黒い髪を耳に掛かる程度のショートヘアーにしていて、背丈は女性にしては高い方であった。

 剣を二本装備しているが、どう見ても片方は自分用では無く、男性用の少し長めの剣だった。

 荷物持ちでもしていたのであろうか、物が詰まっているのであろうリュックサックを背負い、それを捨てようにも捨てる隙を見出せていないようであった。


(ふむ、ここで死ぬのも可哀想だし助けるか)


そう考えたジュンは一気に駆け寄ってリトルゴブリンを蹴り飛ばしたのであった。


「よし!結構吹き飛ばせたな!さぁ、今のうちにそのリュックを床にでも置くんだ!」


 急な乱入者に呆気に取られた様子を見せていたその女性は、そう声を掛けられたので素直にリュックを置いたのであった。

 そして気を取り直した彼女は衝撃が抜けきっていない様子を見せながらも、聞いてきたのであった。


「あ、あの……あなたは……?」


「助太刀だ!隙をどうにか作ったから、出来るならそのまま自分で戦うといい!」


「え?あの、あなたが倒さなくても良いん、ですか?」


「俺はただの助太刀だ!それをしてしまうと本当の横取りになってしまう!」


 苦戦をしているようであっても、助力をするときは自分では倒さないのが探索者としてのマナーである。

 当然相手に請われれば倒すのは良いが、横取りだなんだと言われても面倒なので、大抵はそのまま退却するのがセオリーである。


「さぁ!蹴飛ばしたリトルゴブリンが復活したぞ!本領発揮してくるといい!」


 そう発破を掛けられた女性はジュンの前に立ち、剣を構えた。何故か二本とも。


「ん!?どうした!その剣が気掛かりなら預かっておくが!」


「大丈夫、です!実は剣をもう一つ欲しいな、と思っていたところなの!」


 先程から敵の目を引き付ける為に叫んでいるジュンに釣られて、彼女も大声で返した。


「まぁ見ていて!これが!あたしの!やってみたかった戦い方!」


 そう叫んだ彼女は、体勢を低くし、足に力を込めて一気に突っ込んだ!

 ジュンですら目を見開く速さにリトルゴブリンは対応出来ず、右手に持っていたロングソードに胴を貫かれた!

 敵を貫いた彼女はすかさず左手に持っていた自分のものであろうショートソードでリトルゴブリンの喉を斬り裂いて、その勢いを利用して突き刺したロングソードを引き抜きこちらの方に瞬時に飛び退いた!

 あまりの早業にリトルゴブリンは何が起きたのかも理解出来ずに、その場に崩れ落ちた!


「……驚いた。なんて瞬発力だ」


 本当に驚いた表情をしながら、息を深く吐いている彼女に声を掛けた。


「ふーっ。ありがとう、ございます。あたし一人だったら大怪我を負っていたかも」


「いや、こちらも良いものを見れた」


 改めて彼女を見ていると、中々可愛い顔をしている事に気付いた。

 防具は必要なところ以外には付けない、超軽装とでも言うべき様相をしており、先程の突撃を見ていなければ苦言を呈していたレベルである。


「ところで、君はなんでこんなところに一人で?ソロでの探索は危険だし、何か訳ありか?」


 自分の事は全力で棚上げしている発言である。

 三階程度なら普通にソロでもおかしくは無く、五階にソロで潜っている男には死んでも言われたくないだろう。当然、彼女はその事実を知らないが。


「いえ、あたしもちゃんとグループで行動していたんです。だけど……」


「ふむ……言い辛いことか……」


「い、いえ、でも話すと長くなりそうで……、もう今日はダンジョンに居たくないから……」


「そうか。じゃあ俺も帰るところだし、一緒に帰還しようか」


「ありがとう、ございます」


「うむ。ところで敬語は苦手なら普通に話しても良いぞ。俺はあまり気にしないし」


「え、でも……、いえ、そうね。ここからは普通に話させてもらうね」


「まぁつもる話もあることだし、上に帰ったら愚痴くらいは聞くぞ」


「え、でもそこまでしてもらうのも……」


「正直この後やることが無くてな。今日はかなり稼げたし、そのくらいは相手に善行を積ませてやるんだとでも思って聞かせて欲しい」


「……ありがとう」


「どういたしまして」


 そう話を切り上げ、二人は帰路についた。

 なおレッサーやもどきを一撃で蹴り殺していた姿を見せたときは少し引いたような様子を見せていた。

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