天使と借金地獄を ~学校一の美少女と二人三脚で200万返すことになりました~
タカハシヨウ
第01話
01.アドを得よ
***
カードゲームとは人生そのものだと俺は思う。
人は日々の経験や鍛錬から自分という名のデッキを構築する。状況に応じて適切な手札を切り、困難を打開していく。限られたリソースをどう分配するか判断し、思考に思考を重ねて勝利への道を切り拓いていく。ほら、やっぱり人生そのものだ。
俺こと金ヶ谷兼二は、カードゲームを愛している。頭の中は常にカードのことでいっぱいだ。その姿勢はコンビニでバイトをしている今も変わらない。レジ内でせっせと備品を整頓しながらも、この労働で得た収入でどのカードを購入するか考えていた。
「あ、金ヶ谷君。ありがとね」
ふと店長がレジ脇の作業スペースから顔を出し、今日も頑張っているねとばかりに口角を上げた。
「そんな仕事頼んでないのによく気づいたね。いやぁ、相変わらず働き者だ」
「……はあ」
俺は曖昧に相槌を打つ。どうもこの人は俺を買いかぶっている。確かに指示はされていないし、こんな作業してもしなくとも給料は変わらない。だが、俺は私を滅して店に尽くしているわけでも気配り上手なわけでもないんだ。
「整理しといた方がアドなんで」
「……アド?」
──アドバンテージ。通常・アド。カードゲームをプレイするにあたって常に意識しておかなければならない概念だ。
相手より多くのカードを手札にできればハンド・アドバンテージ。相手より多くのモンスターを場に展開できればボード・アドバンテージ。対戦相手より多くのアドを得ること、対戦相手にアド差を付けていくことが勝利の鍵となる。
そしてこの戦略は人生に応用できる。ここは時間や労力といったリソースを割いてでも備品を適切に配置しておいた方がいい。後のターンで俺がスムーズに目当ての品を見つけられるならアドだ。
これで理解できただろう。俺は真面目なわけじゃない。貪欲にアドを得ようとしているだけなのだ。
店長は満足げに微笑み、事務作業をするためデスクに戻ろうとした。しかし別の店員が恐る恐る店長を引き止めた。
「あ、店長。フライヤーの掃除ってどうやるんですか?」
先週入ったばかりの大学生バイトさん。そろそろホットスナック系は終了する時間だと気づいたのはご立派である。しかしまだ撤収作業は未体験らしい。
「掃除かぁ、ええっとねぇ……」
店長は困ったように後頭部をかいた。「めんどくさいなぁ」と顔に書いてある。フライヤーの手入れは重労働。店員たちは日々その仕事から上手く逃れるべく立ち回っているのだ。
俺はすかさず割って入る。
「店長。俺がやるんで、見て勉強してもらいましょう」
「金ヶ谷君が? いいのかい?」
「できる人を増やした方がアドなんで」
「アドって何なの……?」
ここは人材育成に励むべきだ。後のターンで新人さんが俺を助けてくれるだろう。恩を売っておけばシフトを代わってほしいときに頼みやすくなるというメリットも決してインクの染み(※カードに書かれている効果のうち、ほとんど意味のないものを揶揄する表現)ではない。
さらに、店長からの評価がさらに高まれば時給が上がるかもしれない。人が嫌がるキツい作業というものは膨大なアドを生み出すのだ。
「本当にいつも助かってるよ。……新人君も金ヶ谷君をお手本にしてね」
店長は誇らしげに鼻を膨らませて新人君に視線を送る。彼は恐縮し、俺に会釈した。二人ともそんなに俺を評価しないでほしい。むしろアド源になってくれて感謝だ。
「金ヶ谷君はね、仕事だけじゃなくて勉強も頑張ってるんだよ。なんと、あの進学校の西大橋高校の生徒なんだ!」
まるで初孫を自慢するかのようだ。無論、俺が偏差値の高い学校に入ったのは勉学を愛しているからではない。
「進学校に行っておいた方が丸いんで」
「……丸い?」
こちらも便利なカードゲーム用語である。汎用的、手堅い、裏目が少ないという意味だ。
そしてこの概念も人が生きる上で有用な指針となる。何事も丸さを意識した選択を取れば様々な状況に対応できるし、可能性だって広がっていく。
俺はカードゲームを愛しているおかげでそれなりに快適に生きている。人類は皆カードゲームをやるべきだ。全ての答えがそこにあると言っても過言ではない。
しかし、世の中にはカードゲームを一切受け付けない人間がいる。理不尽な偏見を持ち、唾棄すべき存在と蔑む奴がいる。まったく、不愉快極まりない。
────この時の俺は知らなかった。まさかその手の輩と、世にも奇妙な形で、不可思議なコンボを生み出すことになろうとは。
===作者より===
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