第36話


「すまねえ、ド◯ペで酔う体質なんだわ」

「いやどんな体質ですか、それ」


清水先輩がしょぼしょぼした目をこすり、時計をみる。


「…うわぁ、ごめん。もう19時半じゃん。つい楽しくて飲んじゃったけど、まさかここまで酔いが回るとは」

「お酒みたいに言わないでくださいよ」

「なはは。…さて、タクシーでも呼ぼっか。お金あたし出すから」

「あ、いえ大丈夫ですよ」

「いやいや、もうお外暗いし心配だし」

「…では、お言葉に甘えて」

「うんうん、甘えて甘えて!」


…なんていうか、甘々だな。甘やかしモードの雰囲気を感じる。美夜お姉ちゃんのような雰囲気だ。

お姉ちゃん気質というか…もしかして、弟か妹いたりして?


そうしてタクシーを呼んでもらい乗り込み車の中。家まで15〜20程度。

私はぼんやり車窓の外を見つめていた。


(…なんか…なんだろう…)


清水先輩の手を振る姿がやけにちらつく。あの顔は…どこかで見覚えのある表情だった。

どこで、だったかな…。


(…あ、それよか清水先輩、21時から配信するんだったよな。習い事丁度無いし、リアタイしよっかな)


運転手さんに邪魔にならないよう、携帯をつけ確認してみる。


…映画の同時視聴、か…。


…。


先輩、映画好きなのかな。…む、アニメ同時視聴のアーカイブも…最近はこういうのが多いのか。

FPSはさいごに配信してるのは1週間前…むむ?


ま、なんにせよ今回は見送るかな。


※※※


「てなわけでさー、神岡。今度の土曜日映画観に行かね?姉ちゃん車だすからさ」


教室。帰りのHR《ホームルーム》が終わったあと、坂本くんから遊びのお誘いを受けた。いや、坂本くんからというかこれはおそらく坂本くんと雨ちゃんの二人からだろう。


私は坂本くんの顔をじっとみてこう言った。


「…チキン?」

「ぬぬ!?」


…図星だったみたいだ。おそらく毎度のパターンを考えると、雨ちゃんをデートに誘ったのは坂本くんで、日にちが近づくにつれ二人きりが恥ずかしくなってきたので私に助けを求めた。となりの席の雨ちゃんがそわそわしているのがいい証拠だ。


「雨ちゃんもいくんだよね?」

「え、あ、まあな!」

「二人で行ったほうがよくない?」

「は、はあ?いや、二人とか…そんな」


坂本くんは実は最初、あかりが好きだった。けれど、星の転校が決まり想いを告げ玉砕。そこで雨ちゃんが寄り添ってあげているうちにくっついたというわけだ。ちなみに雨ちゃんのほうは前々から坂本くんが好きだったらしい。


「そもそも、姉ちゃんがいるんだからさ…二人とか…」

「あ、そーだ!いっそ電車で行ったらどうかな?いい思い出になると思うし!」

「電車で!?」

「二人で景色眺めながら、隣同士で手をつないでさー、なんまら良くない!?」


「は、はわわ」


隣の雨ちゃんの顔がいつのまにか真っ赤になってる。想像して照れてるのかな。

いつも冷静で落ち着いている雨ちゃんは恋愛に耐性がないみたいですぐにこうして動揺する。可愛い。


「…いや、そもそも…姉ちゃんも観たい映画なんだよ。だから変な気をつかうなよ。お前もまえに『爆弾娘編』観たいって言ってただろ?いこーぜ」


隣の雨ちゃんをみると「い、行こう!ね?」と私の肩を揺すってくる。


…星が言ってた。『できるだけ多く色んな経験をしたほうが良い』って。


VTuberデビューの作業はまだまだあるけど、ここは行っておくかな。星のおかげでお小遣いも殆ど減ってないし…。


(…坂本くんの言う通り観たい映画ではあるし…)


「うん、わかった。行く」

「「やった!」」


…きっとこう言うお誘いは、私のことを心配してって面もあるだろうし。

星が転校して居なくなった寂しさ、それを埋めてくれようとしているんだと思う。

そうはっきりと言われたことは無いけれど、二人は優しいから、きっとそうだと思う。


正直言ってとっても嬉しい。いい友達を持ったなって、心のそこから思う。前世の私が知ったら、涙を流すくらい喜ぶに違いない…てか、何回か泣いたし。


(…それもこれも星が私を照らしてくれたから)


じーっと私の顔をみる坂本くん。


「…ん?なに?」

「いや、お前ほんとに星に似てきたよな。明るくなったし、ずばずば物言うし」

「…」

「…」

「…」

「…?」

「…え…!」

「…ん…?」

「…え、えっ…。それって、もしかして?嘘、まさか…やばい、雨ちゃん!これ浮気だ、坂本くん!浮気だよこれ!!星に似た私みて気持ちが浮ついてる!!」

「は、はあああ!?」

「むっ!?…むううっ」※ガルルと唸る雨ちゃん。

「あ!?ちげえ、そーじゃなくて…まて、雨!なんだその膨れっ面…痛えええ!?」


がぶりと坂本くんの腕にかぶりつく雨ちゃん。ふざけ合って笑い合う毎日。あの頃からは想像もできなかった未来に私は今いる。


歩いてこれたのは、暗い道を照らしてくれたから――。


…似てきた、か。それはちょっと…嬉しい。


――帰り道。揺れるセーラーのスカートが風を切る。


「こんにちは、美夜さん!」

「おかえりなさい、美月さん。…お早いですね」


いつものように長戸家へお手伝いに。星のお母さんの計らいでもう4年も使って貰っている。

あくまでお手伝い。だけれど、ときどき来られた際はまるで自分の子供のように扱ってくれている。

それは、決して大袈裟ではなく、星のお下がりだと誤魔化し洋服をプレゼントしようとしたり、化粧品の試供品だと偽り渡そうとしてきたりと…色々な面で愛情を感じる。

美夜さんもプレゼントこそ比較的少ないけれど、言葉や行動に愛を感じる。


(ちゃんと受けた恩を返せるように、今日も頑張らなきゃ!)


制服を脱ぎ、折りたたむ。そしてクローゼットからメイド服を取り出し着る。これを身に纏うと気が引き締まる感じがして良い。あとなにより可愛い。…ちょっとコスプレっぽさがあるけど。


とっとこと指示を仰ぎに美夜さんの元へ。


「準備完了です」

「…」


じっと私の顔をみる美夜さん。手を伸ばし頭のカチューシャに触れた。


「少しズレてます」

「…あ、すみません!」


カチューシャを整えてもらっていると、あるモノがふと目に入った。


(…でかい)


ぽよんと山になっている目の前のそれに目が釘付けになる。惹き寄せられてしまうその圧倒的存在感。

なんどかお風呂一緒に入った時も思ったけど…ホントおっきいなぁ、胸。


カチューシャをなおしおわり、私は自分の胸へと目をやる。そしてまた美夜さんの胸へ視線をやり、三往復くらい見比べる。


「…?」


美夜さんは小首を傾げ不思議そうな顔をしていた。


…まあ、まだ中学生だからね。これからに期待期待。うんうん。


私はぺたぺたと胸を触り、うんうんと頷く。


美夜さんが「ふふ」と小さく笑い、私は我に返った。…しまった…は、恥ずかしい…。


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