これが日常の会話です

 とある日曜日の昼下がり。


「つむぎ。座布団取って」

「座布団?」

「あんたの隣にあるでしょ」

「これ?」

「そう」

「クッション?」

「そう。座布団」

「……」


 今時の家庭で座布団を常備している家は少ないと思う。温泉旅館でもない限り目にする機会はないだろう。特に若い子は言葉さえ知らない可能性もある。

 現に娘は、複雑な表情でクッションを放り投げた。


「あーあ。疲れたわ」

「今日は何もしてないでしょ」

「ご飯食べたよ」

「ご飯食べて疲れるって……」

「ちょっと横になるわね」

「ご飯を食べた後、すぐ横になったら牛になるって言ってたよ」

「誰が?」

「……あんただよ」

「つむぎ。ちょっと肌寒いから肌掛け持って来て」

「肌掛け?」

「英語でタオルケット」

「英語はブランケットだよ」

「使い方はどっちも一緒」

「まあ……そうね」


 妙に納得した娘は、クローゼットからブランケットを持ち出し、スヤスヤ眠る母にかけてやった。逆の立場だったら座布団を放り投げ、押し入れから肌掛けを持ってくるのだろう。

 言葉は世代と共に移り変わっていく。そう思うと、二人の会話から深い何かを学んだ気がする。



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