第8話 救世主
「ハイ!山崎!これ集めてたでしょ!」
神崎さんが休み時間にクラスに乗り込んで来て、暗記なんかで使う赤いプラ板のシートビッシリ貼られたパンのシールを差し出して来た。
「…よく集めたね…てか、良く知ってたね…」
「ギャルの情報網舐めんなよ!」
「うーん…舐めてる訳じゃないけど…」
「これでお皿貰える?」
「多分、俺の家族全員分賄えるな…母さん喜ぶよ…有難う…」
「わあ!やったあ!お義母さんに気に入られちゃう!」
「…後でこのシートは返すね…」
色々怖い…
あれから神崎さんは何かにつけてグイグイ俺の前にやって来た。
周りが揶揄ったり笑ったりしたらその内止めるだろうと思っていたけど、全然へこたれない。
次第に周りからは公認押しかけ女房みたいになっていた。
まあ、何かの遊びかゲームみたいな物に思われてて、ネタ扱いだった。
何たってあの見た目が派手な肉食ギャルだ。
野獣女と醜男の組み合わせを面白がられていた。
元々俺も弄られキャラだし、誰も本気には思っていなかった。
実は神崎さんは経験も無くてちょっとオッパイ弄ったら真っ赤になるなんて誰も信じないだろうなあ…
なんて、誰も知らない秘密を知っている優越感みたいな物も実は少しあった。
○○○○○○○○○○
「今日の対バンBambiかあ…」
このバンドはパンクバンドで、メンバーも若くてまあ、ちょっとイキってる感じを売りにしていた。
見た目もガラは良く無い。
俺も若いが、コッチのメンツは俺以外は大学生からフリーターなんで、比較的落ち着いている。
バンドの時は俺もカラコンしたり、見た目は変装すれば大学生位には見えていた。
じゃ無いと幾らライブハウスとは言え控え室でタバコなんて吸えない。
見つかって停学とかは困るので外では吸わない様にはしていた。
それもあって内輪の周りからは実年齢より年上に見られていた。
まあ、血の気の多そうな若者とも揉め事も無く、何とかライブも終わった。
今回は流石に打ち上げはパスしていた。
終わった後まで絡みたく無い。
因縁とかつけられそうで嫌だったし
俺は非力で平和主義だ。
会場の裏口から帰ろうとしていたら、何やら揉める声が聞こえて来た。
「これから遊びに行こーよ!」
「やだ!離して!」
うわー。
神崎さんがBambiの一人に腕を掴まれててる…
もしや出待ちしてたんか?俺を
どうしよう…
絶対俺、ボコボコにやられる自信しかない…
「どーせヤリまくってんだろ?いいじゃん!相手してよ!スゲー良くしたげるから」
その一言を聞いて俺は頭に血が昇って、前に出ていた。
「その子俺と約束してるから離してくれる?」
そう言って神崎さんを引き剥がして抱き寄せていた。
「なんだよ、エルの女かよ…つまんねー。」
そう言ってそのまま引き下がって…
は、くれなかった。
「じゃあおもしれーから無理矢理持ってっちゃおーかな。エルをボコしたら話題なるし。」
ぐはあ。
「俺らガキなんでゴメンねー!エルみたいに大人の話し合いとか無理だわー。先に手が出るんだわ」
うわー
やっぱしくったー。
慣れない事するんじゃ無かった…
と正気に戻り冷静になっていた。
あー、学校しばらく入院して行けなくなるかなあ…
命までは取らないでくれー
と諦めモードになっていた。
「あれ?栗林くん?何してるの?こんな時間に、こんな場所で」
「げっ!?イノセン!?」
「停学なるよ?今すぐ家に帰るなら今回は学校には黙っててあげるよ。未来ある生徒に傷はつけたく無いからね」
「ひっ」
そう言って栗林と言われた男は走って行った。
「教授!?」
そこに居たのはスーツを着てメガネを掛けていたLUSHの教授ことリーダーの井上だった。
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