魔法のはじまりに僕はいた
@jackbot
第1話 追われる者
靴底が土を裂く音さえ、やけに大きく響いた。
息が苦しい。足が震える。
それでも、止まるわけにはいかなかった。
「いたぞ! あいつだ!絶対逃がすな!」
「捕らえろ! この国から絶対出すな!」
背後から兵士たちの怒号が響く。
鎧のぶつかり合う硬い音、松明の灯りが森を赤く染める。
そのすべてが、もう“自分の日常じゃない”ことを告げていた。
僕、ヒイラギはただの人間だった。
魔法も一般人と同じくらいの平凡な能力。
そう信じて生きてきた。――昨日までは。
昨日。僕は祈祷所に立ち寄った。
十五歳になり、神官が行う〈鑑定の儀〉を受ければ、自分の魔力量や素質が分かる。
ただそれだけの、よくある祭礼の一つのはずだった。
手を翡翠色の水晶に触れた瞬間、光は暴れ出した。
渦のように、逆巻くように、あり得ない軌跡で。
神官の顔色が、青を通り越して白くなった。
水晶は粉々に砕け、祈祷所の空気は一瞬で凍りついた。
待っていた人々が前へ詰め寄り、ざわめきが広がる。
「……水晶に収まりきらない魔力量……? いや、違う」
「これは水晶が感知できる魔属性以外の魔力……そんなこと、ありえるのか」
「ただの魔力ではない。もっと……禁忌の。まさか、始祖様の……」
「始祖様と同じなら……もしや――時を跨ぐ?」
何を言っているのか、最初は分からなかった。
「時間跳躍……? いや、それだけじゃない」
「こいつは、まだ我々の知らない魔法を水晶に使った痕跡がある」
僕は、笑うことも、言葉を返すこともできず、ただ立ち尽くすしかなかった。
その数刻後、王宮から騎士団と神聖院の封印師が派遣された。
「確保しろ。
その能力は“世界の改変”に繋がる」
そして今、僕は生まれて初めて、本気で走っている。
何が僕を追っているのか。
なぜ僕は、そんなものを持っているのか。
何一つ分からないまま――
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