高校最後に余命1年の恋をする
桜演あくと
桜舞う季節
第1話 残り一年
「残り一年」何をするにしてもこの現実が付き纏う。
突然告げられた「それ」から私は逃げる事にした。どう頑張っても受け入れられない理不尽な事実から目を逸らして。そんな時私は恋をした。人の事を好きになるなんて、生まれて初めてだった。別に叶わなくても良い。
ただ私に残された僅かなこの時間を、少しでも幸せに生きれる様に。
「私、一年後高校卒業したらアメリカに行くの」
高校二年の春休み、来年から受験生なので幼馴染の
正直に言うと信じられなかった。
美月は小一の時にうちの隣に引っ越してきて、その時に親同士が趣味の読書の話で意気投合して、子供の僕らもよくお互いの家に行って遊んでいた。それから今までもう十年以上も近くに居る。
その美月が一年後にはアメリカに行くなんて、受けいられなかった。
「流石にびっくりした?」
「……どうしてそんな急に?」
「別に急じゃないよ、元々海外進学の選択肢があるからって理由で
美月は将来通訳の仕事を目指しているのは聞いていた。
だけど知らなかった。僕がこの
僕が唖然としていると、美月がこう言った。
「残りの一年よろしくね、春人」
その言葉を聞いた途端、一気に現実味を帯びてきた。
それからは予習なんて手がつかなくて、美月のことばかりを考えていた。
「じゃあ春人また始業式で」
「うん、またね」
そう言って僕は美月の家をでた。
僕はその足で高校への通学路を歩いていた。別に何か目的があった訳じゃない、ただあのまま家に帰る気にはならなかった。
学校に繋がるこの道は桜が満開に咲き誇っている。美月と毎日の様に通るこの道もあの話を聞いた後だと複雑な気持ちになる。この気持ちの正体は一体何なのだろう。
そんな事を考えていたら道路で車が止まっている事に気がついた。
近くに行くと分かった。道路の真ん中で果物や野菜が落ちていて、小学生位の男の子が膝から血を流しながら、それを急いで拾っている。きっと転んで落としてしまったのだろう。
すると
「おい!邪魔なんだよ!こっちも暇じゃ無いんだ!早く退けよ!」
車から身を乗り出して40歳位の男がそう言った。車の中には恐らく中学生でこの男の子供であろう女の子が乗っていた。
子供を持つ親なんだったら、そんな強い言い方しなくてもと思いながら、僕は車の前に行き拾うのを手伝った。昔からこういうのをほっておくのは気分が悪い。
「手伝うよ」
そう言って僕が拾い始めると一瞬男の子は戸惑った様な表情を見せた後、軽く会釈をしてまた拾い始めた。
全部拾い終わると、車はすぐに出発した。
車が行ってすぐに男の子は感謝の言葉を言ってくれた。怪我もしてるし、量も量だった為、「もし良かったら君のお家まで運ぼうか」と言った。しかし男の子は首を横に振った。
「僕ね今学校で好きな子がいて、その子が家の手伝いしてる子がかっこいいって言ってたから、頑張ってるんだ!」
小学生らしくて可愛いなと思いつつ、僕は内心「好きな人」という言葉に何処か引っ掛かっていた。
家に帰りベッドの上で僕は呟いた。
「美月のこと好きなんだな」
今まで気付かなかった。だけど今日美月がアメリカに行くと聞いてからの複雑な気持ち、そして男の子が言った「好きな人」という言葉を聞いて、僕は確信した。
そこに居るのが当たり前だから意識していなかったけど、今日やっと自分の気持ちに気づいた。僕は美月のことが好きなんだ。
後一年、ずっと一緒にいた時間よりびっくりする程に少ない残りの時間。どうなるかなんて分からない。だけど僕は美月に恋をした。
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