<ラブコメ作家>は<恋>しなきゃ!
宮本葵
第1話 小説家と小説家の出会い
塚ちゃんこと——俺、
授業は相変わらず<怠いもの>。進学校ともなれば、眠気と戦い頭がパンクしないように…と怠さが増すだけだ。
「宿題終わった人は提出しろ〜。今週末までだぞー」
宿題やるの明日でいいか……と思ったが、明日は原稿の締切が迫っている。つまり今日までに小説を書いて明日は宿題をするしかない。宿題の締切なんて、小説の締切に比べたらどうってことないしな。
パソコンを眺め、キーボードを打ちながら、俺はそう考えていた。
その瞬間、近づく気配に気づかず、開始十五分で五千字を超える原稿を書いていた俺は、先生に現行犯逮捕される。
「宮原周先生でしたっけ? また小説書いてるんですか? 締切迫っててやばいんですか?」
教室に笑いが広がる。いや、前言撤回。授業の方が締切よりも面倒だ。
「ラブコメ作家の周先生、現実世界で恋できるのかな〜?」
「そのままネタにしたら面白そうじゃね? 塚ちゃん書いてよ〜」
「書かねえよ!」
これが俺の日常だ。先生もクラスメイトも、俺が“宮原周”であることを知っている。恋愛経験ゼロのラブコメ作家として、イジられるのもお決まり。
「まぁ宮原先生、今学期百回目の没収ですね〜。二百回目は指導入りますよ」
「そこは見逃してほしいですけど……」
「冗談です。でも二百回目は無いですよ」
「流石にそこまで落ちてはいませんって!」
クラスから「いや、落ちてるだろ」という声が聞こえたような気がしたが、無視した。結局、パソコンを没収された俺は仕方なく――原稿用紙を取り出し、執筆を続けることになった。
◇ ◇ ◇
せっかくなので、小説が好きで好きでたまらない俺の<黒歴史>を少し語ろう。
十三歳、急にアニメオタクになってしまう。そして、厨二病になってしまう。そして、何年後かに発掘されて親に見られたら恥ずかしくてたまらないような小説をノートに書いていた。
そして、急に小説家志望になってくる。自分の作った小説を小説投稿サイト「小説家にならないか?」で「自宅警備社」と言うユーザー名で一旦公開するも、パクリだの、キモいだの言われて一旦退会する。
再度、小説を投稿したのは十四歳になる何週間か前のこと。「塚ちゃん」と言うユーザー名で、自分の所属している部活動をテーマにした青春SFを投稿した。こちらは逆にコメントも来ないし、フォロワーも増えない。
十四歳になってから、本格的に小説家としての道を歩もうとし、日々努力して、二作目となる現代ファンタジーっぽい作品を投稿したが、それでも増えない。
悔しくて別サイト「カクヨン」に逃げて投稿するも、結果は散々。それでも努力を続け、ついにラブコメ作家“宮原周”が誕生した。……まあ、色々あったから最後の方は気にするな。
そうして、今は昼ごはんを食べながら小説を執筆している。それにしてもなかなか増えない読者。ようやく百フォロワーいったかと思えば少なくなったし、いいねが一増えると読者は二人以上いなくなった。おまけに通知が来たかと思えば、ただの誤字報告だった。ということが良くある。
最近は王道系なラブコメを書いているが、それでもなかなか増えない読者。
「はぁ…、どうすりゃあいいんだぁ」
高校には特に友達もいなく、強いて言えば、知り合いの先輩、仲のいい後輩がいる高校二年生なので、一緒にご飯を食べる人なんて居ないに等しい。
だからこそ、食事中にスマホを使って小説を書くことができる。
出来れば、小説について語り合える人がいればいいんだが…。
「あ、蒼志!」
「ん?愛莉か」
知り合いがほぼ居ない俺の唯一の同学年の友達であり幼馴染的な関係である谷浜愛莉が俺に話しかけてきた。
「なんか用か?」
「なんか、ぼっち飯可哀想だから付き添い…とかかな?」
「別に気にするな。お前はどうせ主席合格したまだ身長の小さい美少女キャラだから他の華やか〜な人達のところへ行けばいいじゃん」
そう、この幼馴染は天才にして、天才である奴なのに、わざわざこの“ちょっとしょぼい学校”に入学してきた。主席合格と言ったら、県内で一番頭いい学校に言っても追いつけるくらいだろう。
「…、ほんと、そういうところがねぇ〜」
「なんだよ!?」
「ううん、なんでもない。それよりもご飯食べよ」
そう言いながらお弁当を開く愛莉、だったが――パカッ、ポロ。お弁当に入っていた卵焼きを華麗に落とした。と同時になる通知音。
「…。こういうおっちょこちょいなことは変わらんな」
「卵焼き落としただけだもん」
「いや、それをおっちょこちょいって言うんだろ」
結構ご立腹だったので、俺の弁当にあった卵焼きを一つあげたら、なんだか、満足そうにした。まさかこれが狙いか…?
それよりも先ほどの通知が気になっているので、開いてみる。すると、いつも小説にコメントしてくれる人からだった。
『我も小説家を目指しているが……貴様のようなラブコメは書けない。だが、我は屈しない!必ず貴様に勝ってやる!』
という謎のDMだった。男なのか女なのか、果たして何歳なのかもわからんこの読者は…、厨二病だった。だが、言っていることはいつも熱いと言うかなんと言うか。自分に自信がある人なんだろうなと言うことだけはわかる。
「なんで厨二病なのに、俺のラブコメ好きなんだろ、あの人は」
「周先生の小説最近見てないけど、普通に面白いからじゃない?」
「面白かったらPVも増えるはず」
「そりゃ、まあ…?」
幼馴染ですら、小説をいじって来るが、まだ周りの輩よりはマシだ。俺を認めてくれている。
「…!てか、今見てないところから小説見てたんだけど、コメント蘭大丈夫そ?この人って…」
「ん?あ〜、これか…。気にするな…」
画面に出されていたのは「
◇ ◇ ◇
謎のDMに『そうか、厨二病治るといいな』という返信を送った後、俺は教室へと戻っていく。
階段を登って行くと、誰もいないはずの屋上近くから声が聞こえてくる。
「我が力を最大発揮してもあの偉大なる〈先生〉に勝てないとは……。くっ、我にはまだ早かったのだろうか……って誰だそこで笑いを堪えている輩は!我を馬鹿にしているのか?!」
美少女が一人、誰もいない踊り場で中二病全開の独り言を叫んでいる。……可愛い。けど、中身は厨二病…か。
「ごめん、ごめん。別に覗くつもりじゃなかった。ただ、声が聞こえたから」
「くっ、見られては仕方がない。我の名は黒石漆音!小説界で名を馳せながら、日々執筆活動を続けている小説家!」
「…?俺は塚田蒼志だ。俺も小説書いてる。だけど、変な厨二病がいつもコメントして来るんだよな、お前みたいな奴が」
「我みたいに変な厨二病と言ったな、貴様。私は…、我は変ではない。戦う気か?」
「まあまあ、とにかく、お前に似た言動なんだよ。見せてやろう」
そう言って、スマホを取り出して、あのDMを見せると――
「ぎゃあああああああ!」
「どうした?大丈夫かよ」
「そ、それ……我だ! 我のアカウントだ!!そうすると、貴様、いや貴方はもしや…」
「宮原周ですが?」
「きゃあああああああ!」
一回目の悲鳴とはまた違う、別の叫び声が響き渡り、昼休みが終わる少し前の時間帯にもかかわらず、多くの生徒が悲鳴を聞き、何が起こったのかと、俺たちをじっと見つめている姿がたくさんあった。
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