第51話 死霊魔導師は王都に到着しました。
「あー、王都が見えたよー」
座っていた姿勢から、ぴょん、とセレスが跳び上がるように木箱に立ち上がる。
ミシリ、と木箱が軋んだが、壊れてはいないようだ。
少し、ヒビが入ってるが、中身は大丈夫だと思う。
「おいセレス、暴れるな、足元は大事な商品なんだぞ」
「あわわっ、ミシミシ音してるよー。で、でもね、ほら、前見て、王都到着だよ」
指差した先に大きな街、王都が見えた。
今日は何事もなく済みそうだ。
木箱と中身が危機一髪だったがな。
立っているのは危ないので、セレスの手を取り引き寄せて、隣に座らせる。
「ふう、セレスは元気がよすぎるぞ」
「えへへー、だって無事に到着だよ?」
「それはそうだが……しかしなぁ、問題はまだ解決しておらんのだぞ? なあネクロウ」
「うん。色々とね」
消えた黒づくめの行方はわかってない。
死霊使役したレイスで、盗賊の捕縛が終わってすぐに、デバンには一番可能性があったキンダフィッカ伯爵のところへ行ってもらったが、不発。
トリューガーに張り付いてもらっていたジェイミーだが、トリューガーはキンダフィッカ伯爵のところをすでに出た後だった。
向かったのはシュヴェールトから王都を挟んだ南で、行く先はまだわかっていない。
それに、キンダフィッカ伯爵だが、こちらも急ぎ王都を出る準備を始めていたとのこと。
あの御方がいるところだと、探す手間がないんだが、今は待つしかないようだ。
「なあネクロウ、それに一番の謎だが……我たちは誰を護衛してきたのかわかるか?」
「わたしもそれ、ずぅーーーっと気になってたー。本当に誰なんだろうね?」
「色々とあったせいで忘れ気味だったけど、ヘルヴィが知る顔もなかったんだろ?」
「ああ、不思議なことにな」
全てが荷馬車で、人が乗る馬車がないため、御者台か、積み荷の木箱に乗っている者だけだ。
だから目に見えてない者はいないにもかかわらず、護衛対象者が誰なのかすらわかってない。
「ちょっとだけ、どこかのお姫様でー、仲良くなってお友だちになれるかもー、って期待してたのになー」
「おいおい、我だけでは不服なのかセレス」
ぼやくセレスにジト目を向けるヘルヴィは、口を紡ぎ、ぷっくりと頬を膨らませている。
「そんなことないよー、でも友達はいっぱい欲しくない? ヘルヴィが友達になってくれるまで、ネクロウしか遊んでくれる人なんていなかったんだもん」
「お、おう、そ、そうだよな、我も似たようなものだが、ネクロウの兄たちは遊んでくれなかったのか?」
セレスの友達発言で頬を照れ臭そうに、ほんのり赤く染めるヘルヴィも王女だ。
あ、王子になってたけど、中々俺たちのような友達の関係にはなれるはずがない。
王族と貴族の子、という関係性からは中々抜け出せはしないだろう。
俺は……まあ、今となってはいい思い出だが、ヘルヴィのうっかりから婚約した関係だもんな。
もちろん、婚約者でもあるが、セレスと共にヘルヴィとは友達でもあると思っている。
「ネクロウのお兄様たちとは中々お話もできてなかったかも」
「上の兄様はもう次期当主の準備で勉強が忙しいし、下の兄様も補佐のために一緒だったからな」
「そうそう、会えても剣の修練の時だけだったしねー」
そんな話をしている間に、入門待ちの列に俺たちの車列も加わった。
二時間ほどで門にたどり着き、積み荷の検査が始まった。
そこへなぜか数人の騎士が近づいてくる。
やはり騎士が迎えにくるような人物がこの商隊の中にいたってことか……。
本当に誰なんだろう。
商隊のリーダーさんが乗る馬車で騎士たちが止まり、一言二言、言葉をかわすと、俺たちの方を見て、一緒に近づいてくる。
「もしや、あのギルドマスターめ、計ったか」
ヘルヴィが、ボソリと呟く。
どういうことだ……あ、そうか、護衛が必要な人物がここにもいるよ……。
そういえば、陛下が中々ヘルヴィが帰ってこないと、何度も手紙を送ってきていたな……。
陛下と父様、それとギルドマスターは旧知の仲。
しびれを切らせた陛下がやらかしたってことか。
その答えが俺たちの乗る馬車の横で歩みを止めた。
「お迎えに上がりました」
「やはり父上の仕業か!」
「だろうね」
「え? ヘルヴィのお父さんがどうしたの?」
セレスはまだわかってないようだけど、この護衛依頼はここで終わりのようだ。
ん……待てよ……。
陛下がヘルヴィを王都に来させようとギルドマスターに依頼したのだと仮定する。
なら護衛は厳選するのが当然だよな。
それなら、あのDランクパーティーを採用するのか?
くそ、こうなったら陛下に会って聞くしかないな。
そう心に決めて、頬を膨らませたヘルヴィと、まだわかっていないセレスと共に、馬車から降りた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
side キンダフィッカ
突然現れた、あの御方の伝令が、挨拶もそこそこに、らしくもない焦ったような早口でことの次第を話し始めた。
聞けば聞くほど信じられない話だ。
「なんだと! そんなはずがなかろう! 我が騎士団でも精鋭と遜色のない者たちだぞ!」
「本当のことでございます」
伝令の目が、言葉通り真実だと語っている。
信じられんが、資金集めに向かわせた我が騎士団が襲われたらしい。
「おそらく全員無事ではないでしょう。キンダフィッカ伯爵様も、急ぎ王都より離れた方が良いでしょう」
「くっ! また一から作らねばならんのか! やっと採算が合ってきたというのに! あの御方に伝令を任せられるお主がいたというのにか!」
そうだ、この者は冒険者で言うところのSランク相当の実力者だ。
「はい、気配すら感じさせず、手も足も出せぬまま、逃げるだけで精一杯でございました」
「なんと……、わかった、すぐに王都を出立し、先に出たトリューガーを追い、領地に向かうとお伝えしてくれ」
「はい。得体の知れぬ脅威、どうかお気をつけを」
「うむ、っ! 行きおったか……こうしちゃおれん! おい! 誰かいるか!」
あの御方の伝令が王都を離れた方が良いと言ったのなら、王都に残れば何かしら不具合が起こる可能性が高いと言うことだ。
一度領地に戻り、連絡を待つのが正解だ。
が……いったい誰がどうやって我が騎士団を……。
それも、狙いの商隊を襲う前にだ……。
なんのためにそんなことを……。
「旦那様、お呼びですか?」
「遅い! ぐずぐずするな! 領地に帰るぞ! 今すぐだ!」
考えてもわからんが……こんな損失を負わせたヤツを見つけ次第、この手で八つ裂きにしてやる!
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