第30話 死霊魔導師は悪戯するそうです。

 追加されたお菓子に夢中のセレスを撫でながらヘルヴィに耳打ちする。


 ピクリと眉が動き、勢いよく、ぐりんっと俺の方を向くヘルヴィとの距離がほぼ0に。


 鼻が髪の毛一筋程も離れていないためか、甘い少女特有の香りが鼻腔をくすぐる。


 お互いの息が触れ合い視線が交差して離せない。


 この距離は目のまわりしか視界に映らず魔道具で肥大した効果は皆無だ。


 金色で整った眉と青く俺の眼を映す瞳に吸い込まれそうになる。


 お互いの吐く息が熱を絡ませ体温を上げていく。


 どれ程の時間が過ぎたのか、俺たちはお互いゆっくりと顔をゆっくりと離し、いつもの距離に戻った。


 少々……いや、かなり気まずい雰囲気を二人でかもし出しながらも体裁を整えるよう同時に咳払いをハモらせた。


「「……」」


 そして沈黙を破ったのはヘルヴィだった。


「……それは本当の事か?」


 赤みで染まる真剣な顔で聞いてきた言葉に、俺は首を小さく縦に振る。


 右手を顎に添え、思案顔になるヘルヴィ。


 偽物の盗賊が攻めてくると関所のティウス公爵に報せなければならない。


 だが、そのためには影転移を使うことになる。


 そうなれば、転移魔法という希少なスキルを持っていると知られてしまうことに繋がる。


 それが死霊魔導師の魔法でなければ問題はない。


 今、転移魔法を使える職業は時空魔導師だけだ。


 転移ができると分かれば必ず見せる場が設けられるだろう。


 仮に魔力の問題でとその場をしのいだとしても、遠からず見られることになるのは確実だ。


 実践して、それが時空魔法と異なる新たな転移と分かればどうなるか。


 それはもう火を見るより明らかだ。


 確実に職業を調べられることになるだろう。


 希少な鑑定魔法が使える者を呼び寄せてでも。


 最悪は拷問してでも調べようとする者が現れないとも限らない。


 何としてでも隠し通したいのが本音だが、このままなにもせず放置するのは避けなければ成らない。


 関所を攻め、それが王族派の者だとなれば最悪貴族派対王族派の内戦に発展する可能性もあるだろう。


 いや、貴族派の筆頭、ティウス公爵の領地の玄関口であり、防衛の砦である関所が攻められるのだ。


 高い確率で内戦になる。


 シュテルネ王国は現状隣国との小競り合いは続いているが、本格的な戦争には発展していない。


 輸出入で交流も少なからず行われてもいる。


 特に内陸の国であるシュテルネ王国の塩の輸入は依存率が高い。


 そんな中、内戦で治安が悪くなれば国をまたいで移動する商人たちの足が遠のくだろう。


 戦争となれば物価も上がるだろうし、輸入が滞って買いたい品物が不足すればさらに物価が上がり、住民の懐はますます絞られることになる。


 そうなればシュテルネ王国内で金銭の循環が鈍化して納税が減り、減れば国力低下にも繋がるだろう。


 最悪、隣国から攻められれば、辺境伯家の領地はシュテルネの砦だ。


 最前線での戦いになり、勝敗に関わらず多大な犠牲が出るのは明らかだ。


 そう考えると、自分の保身のために報せない選択肢は取れない。


「――ロウ、大丈夫か? おい、聞いているのか?」

「ネ――ウ、すっごく考えごとして聞こえてないみたい」


 体を揺すられ、思考の海から浮上したようにセレスとヘルヴィの声が届いた。


「え? あ、ごめん、ちょっと考え事してて聞いてなかったよ」


「まあよい。一度我の部屋に行くぞ、色々と確認したいこともあるからな」


「そう、だな」


「うん。ネクロウ、寝不足で疲れちゃったのかな? 次の報告が帰ってくるまで、まだまだ時間あるからそうしよ?」


 何か察したようなヘルヴィと、素直に心配しているセレスの提案に乗ろう。


 考えるにしても、相談するにしてもティウス公爵家の騎士団がいるところでできる相談じゃない。


「ああ、そうしよう」


 本拠地に行った隊が戻ったら呼びに来てもらうよう言付けておいた。






 ヘルヴィのテントに戻った俺たちは、ジェイミーの話を詳しく聞くことにした。


 そして分かったことがある。


 関所の襲撃は早くても明日以降になりそうだ、ということだった。


「それならまだ間に合う可能性が高いだろう、それならネクロウ、偽物盗賊たちの映像を見てからでも遅くないな」


「そうだな、奇襲するには街道を進めないし、大所帯だから移動速度も遅くなって当然か」


「でも一回逃げられてるのにまた? それに今度は関所だから守る人も多くなるんだよね?」


『それなんすけど、この森の近くにもいたんすよねー。ゴブリン討伐で弱ってるところに攻め入る作戦だったっすね』


「何? それではここも危なかったということか?」


『そうっすね、でもティウスが関所に戻ったっすからねー、今は関所に向けてこっちも移動中っす』


 その数、七百もの軍。


 騎士団長が言ってたように、少なくない犠牲が出ていて、疲弊した討伐軍の勝率はかなり低くなるだろう。


『あと、野営を襲ったのはたまたまだったみたいっすね、偽物盗賊たちは、この森近くに潜んでいた軍隊に合流予定だったと言ってたっす』


 本来は逆で、襲撃場所はこの拠点だったと。


「そうなるとジェイミーの悪戯が功を奏したわけだな」


 ヘルヴィの言った通りだ。


 俺たちだけでゴブリン討伐していた結果は一緒だが、ここで合流されて背後から攻められることは無くなったんだからな。


「そうだよ! ジェイミーさんお手柄だよ!」


「うん。今回の最大の功労者はジェイミーだな」


『そっすか! じゃあ今からまたティウスに悪戯してくるっす!』


「「「いやいやいやいや」」」


 三人で同時に声を上げたのを見て早速影に潜ろうとしていたジェイミーが止まってくれた。


『駄目っすか?』


 俺はゆっくりと頷き、笑顔で言う。


「ジェイミー。やるならさ、王族派たちに、だろ?」


 両隣でセレスとヘルヴィも大きく首を縦に振る。


「今度は人数も多いしさ、みんなで行く?」


『いいっすねー、薬の在庫も十分あるっすから、みんなでやるっすー』


「くははっ! 軍を相手に悪戯か!」


「悪い子たちにはお仕置きやっちゃうよー!」


『悪戯で合流と襲撃を妨害する作戦ですな。主よ、やりましょうぞ!』


『不殺、いい作戦』


「よしやろう!」


 俺たちの気持ちは一気にまとまった。



 ――――――――――――――――――――


   いつも読んでいただき感謝です。


      ついに30話到達!


 そんな私に皆様お時間を少しだけ私に下さい。


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