第27話 死霊魔導師は憧れる。
ティウス公爵が盗賊に襲われたと聞かされたが、このまま寝ずに動くことは無理がある。
ものすごく眠いからだ。
「ふあっ」
セレスの小さな口が精一杯開いた。
あくびで吸い込んだ息を『はふぅ』と吐く。
ぐしぐしの目を擦り終わると、目はもうとろんと蕩けていた。
「くくっ。セレス、そんなに大きく口を開けあくびするなど淑女としてなってないぞ」
その通りだろうけど、可愛いから俺的には問題なしだ。
「むー、お昼寝の分はもう使いきったから眠いんですぅー」
寝溜めはできないって言うしな。
「そうだな、ヘルヴィは大丈夫なのか? 俺も結構眠いんだが」
結構どころか、ものすごく眠い。
思ったより魔力も使ってたみたいで、頭の芯が重く感じてる。
これが魔力欠乏の症状か。よく考えたらよく今までなってなかったな。
……いや、レベル上げとか楽しかったから症状が出てても気づいてなかっただけだな。
前世でやらかしたのに、転生してもまだやるとか、そう簡単には性格は変わらないってことだな。
よし、目標のレベル50以降は少しペースを落とすように努力しよう。
努力って考えてて思ったけど、努力は微妙に違う気がするけどな。
「そうだよヘルヴィ、早く寝ちゃお? 朝起きれなくなっちゃうし」
「問題ないぞ、我は執務で二日寝ないなどよくあるからな、今日もこのまま起きているつもりだ」
「寝ろよ! 徹夜とか絶対子供がやっちゃ駄目だろ!」
「そうだよヘルヴィ! 寝ないと大きくなれないんだからね!」
セレスの言う通りだ。十歳の子供が徹夜なんて成長の害にしかならない。
確かに領地持ちだから領のあれこれをやらなきゃ駄目だってことはわかるけど、そこは大人が補助するべきだろ。
「そう言うな、これでも管理監が我の判断を必要とするもの以外は処理してくれてるのだぞ」
「それでもだな……はぁ、そう考えると、今回の功績で
「ははっ、そう悩むなネクロウ。領主になるとしても小さなものになるだろうからな」
そうか、ヘルヴィのグラント領はシュテルネ王国でも有数の大きさを誇る領土だ。
まあ、ゴブリンの村を含む数千匹のスタンピードを止めたからと言ってそんなに大きな領土をもらえるわけないか。
「だが、二人がそこまで言うなら今日は寝るか」
「うんうん、そうしよヘルヴィ」
「それがいい。ティウス公爵の件はどうせ動けないしな」
「確かにな。ならば二人に部屋に案内しないとな。ほらこっちだ」
そもそも公爵が襲われた情報は、この拠点に入ってきてないからだ。
それなのに俺たちが騒いだところで、どうにもならないだろう。
それに、『ティウス、関所に戻った』とジムの報告で無事なことも確認できたってことも大きい。
盗賊襲撃の一報を拠点に届けるにしても、早朝、早馬で関所を出ても到着はゴブリン村への遠征出発の後になるだろう。
出発まで二時間ほど。仮眠にしかならないが、それでいい。
すでにデバンたちに頼み、討伐したゴブリンの魔石をすぐ出せるように用意も万端だ。
だから明日は証拠の魔石を見せ、討伐完了の報告をした後、ティウス公爵家の騎士団に事実確認に走ってもらうだけ。
時間がかかっても、明日の夕方には今回の遠征が完了してると確認できるだろうな。
ヘルヴィの部屋の隣に二組の寝台が用意されていた。
さっそく俺とセレスは装備を外し、そのまま寝台に潜り込んだ。
「おやすみネクロウ」
「うん、セレス、おやすみ」
返事をしてすぐにセレスの寝息が聞こえてきた。
セレスの寝付きは最強だな、自分でも『どこでもすぐ寝れるよ?』と言ってたしな。
規則正しい音色を耳に、俺は目を閉じ、ティウス公爵が襲われたことを考えてる。
ティウス公爵は直近の護衛騎士五十名と、関所から騎兵も追従してきた。その数三十騎。
いくら野営しているところを襲われたとしても、騎士団と騎兵が盗賊に遅れを取るか?
それもティウス公爵が怪我をするとなると、陣営の中央まで踏み込まれたことになる。
いくら練度が低いとはいえ総勢八十人を抜ける盗賊って何人いたんだよ。
盗賊の中に相当腕の立つ者がいたって方が可能性は高そうだな。
『主、時間ですぞ』
ちょっと前に寝たような気がしたけど、もう二時間ほど経っていたようだ。
「おはようデバン。寝てる間何かあった?」
上半身を起こし、軽く伸びをすると少しだけ頭がすっきりしてきた。
『関所からの早馬が先ほど到着したくらいですな』
「もう着いたんだ」
それだと俺たちが寝る頃に関所を出発したってことか。
夜道を早馬で駆け抜けるとか、ティウス公爵家の騎士団はブラックだな。
無事にたどり着いたのなら夜目の効かない馬の手綱を握った騎士の腕だろう。
『主の呼び出しにすぐ来るでしょうな』
「当然ヘルヴィもだよね。よし、セレス、は寝かせておいて、俺は着替えないとだな」
寝台から出て、掛け布団を抱き込み幸せそうに寝るセレスを覗き込む。
これは起こせないけど、ほとんど布団から出てるじゃないか……。
自分が掛けてた布団をセレスに掛け、デバンが出してくれた服に着替えた。
後は呼びに来るのを待つだけだ、けど、声をかけられるとセレスが起きるかもしれないな。
部屋の外で待つため装備も身につけておく。
『主、来たようですぞ』
いいタイミングだな。
そっと部屋を出ると、勢いよく角から走り出てくる騎士の姿があった。
さて、今日も頑張りますか。
俺とヘルヴィを迎えに来た騎士に案内され、昨日作戦会議を開いたテントにやって来た。
中にはすでに昨日顔を会わせた隊長以上の者が揃っている。
ヘルヴィが先を行き、一番奥の席に座り、隣は俺だ。
「皆、朝早くからご苦労。まだ時間には早いと思うが、来るよう頼まれた」
そう言うと、ヘルヴィはテント内のみんなに視線を送る。
俺も同じようにしてると、見覚えのない、少し疲れた顔をした騎士を見つけた。
「……何かあったようだな」
何があったのか、俺もヘルヴィも知っているがそう聞くしかない。
ヘルヴィの問いに、この拠点の責任者であるティウス公爵家の騎士団副団長が口を開いた。
「今朝早く関所より早馬で到着したものたちがいまして、その話によれば、当主様、が襲われ怪我を負い、その治療のため関所に戻られたと、連絡がありました」
「ティウスが襲われ、怪我をしたと……関所に戻るということは、回復魔法を使えるものがいなかったのか?」
「隊に三人いたのですが、魔物を使役する盗賊たちに三人ともに殺され、関所にやむなく引き返したとのことです」
魔物を使役する盗賊か。
テイマーって職業ってことだよな……少し羨ましい。
「ふむ。ならば今回のゴブリン討伐にティウスと追従してきた騎士たちの合流は無くなったと言うことか?」
副団長さんは、こくりと縦に首を振った。
要になる回復役を残さず殺したということは、ただの盗賊ではなさそうだ。
「ふむ。だが問題ない」
「ヘルトヴァイゼ殿下、その、問題ないとは?」
そう言う困惑する副団長と、この場にいる隊長たちにヘルヴィはここで言うようだ。
『デバン、用意お願いね』
『任されよ。殿下の部屋に出しておきましょう』
準備は終わった。
チラリと俺を見るヘルヴィに頷いて返す。
これからやる悪戯にピッタリの笑顔で口を開いた。
「討伐予定のゴブリンどもだがな……我とネクロウ。それにこの場にいないが昨日の顔見せにもいたセレスの三人で討伐してしまったからな」
普通の者には到底理解しがたい言葉を飲み込むまで少し時間がかかった。
「「「「「ええっ!?」」」」」
そうなるよね。
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