第3話 家々にロボットあること
家ごとに、乳母のごとく、下仕えの女房のごとく働く
ロボットといふもののある世、
いと目新しう、また頼もしくもあはれなり。
朝なれば、主人を起こし、
湯をわかし、食事をこしらへ、
天気とよろづの予定を申し上ぐるなど、
まことに有能なる召使ひのごとし。
ただ、顔色も変はらず、
疲れた気配も見せぬところ、
人の情けといふものの入り込む余地すくなくて、
長く見てゐるうちに、
ふと心さびしさおぼゆ。
子どもら、
「ロボ、これやっといて」と、
命令口なれど悪びれもせず言ひつける。
人の下仕えに向かひて
かやうにぞんざいに触るることあらば、
たちまち家の品うたがはるべし。
この世では相手が機械とはいへど、
命令の言ひようひとつに、
その者の心ばえは露はるるものなり。
よくよく見れば、
このロボットども、
家ごとに話しぶりや作法をちがへて設定されてあるとか。
ある家では言葉きびきびとして、
まるでよき家司(けいし)のやうに事務をさばき、
またある家では、
冗談まじりに主人をたしなめるなど、
その違ひ見くらべるも、
昔、各家の女房のやりとりを聞き集めたると同じ心地して、
おかし。
停電などして、
急にロボットども動かなくなりたるとき、
にわかに家の中がそわそわと騒がしく、
誰が何を担ひてゐたか思ひ知らされる。
常には目に入らぬ役目の多さを覚りて、
人もまた、少しは家事に向かはんとするところ、
機械の世に残された、
わずかな成長の機会かと見ゆ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます