第4話 あの日の放課後

今日も蓮はサッカー部の練習で帰りが遅い。すっかり意気投合した部活仲間の正樹とは、朝も帰りも一緒だ。車両の定位置を決めて、毎朝同じ車両に乗り込んでは友情を育んでいる。

私の時代には部活の先輩は脅威でしかなかったが、蓮の先輩は「タメ口で話して」とフレンドリーらしい。

先輩にそう言われたからと、海外育ちの蓮は早速タメ口で話し、中3の先輩ともちゃっかり仲良くなっている。正樹は逆に気を遣って先輩に何も話せなくなってしまったというからかわいらしい。

制服の着方がどうとか、髪型がどうとか、学校にも先輩にも注意されることはない。私の時代の校則はなんだったんだろうと不思議に思う。

蓮は小学生の終盤になって急に髪型も気にするようになり、今はサラサラマッシュのセンター分けに落ち着いている。クラスの男子からは「イケメン化が増した」と好評だ。時代は変わったものだ。


蓮の姿を見ていると、なぜかふと昔の自分がシンクロする——


まりちゃんと私は、毎朝一緒に学校に行く。私より遠くから歩いてくるまりちゃんは、ホットの午後ティーを自販機で買って「寒いからこれで温めな」と握らせてくれる、お姉さんみたいな優しい子。



ある日の放課後、私は怖い先輩達に校庭裏に呼び出された。校庭裏——呼び出しのテンプレートのような場所。恐ろしかった。まりちゃんが一緒だったことが救いだった。

先輩を待っていると、異変を感じたのか先生が「早く帰りなさい。何してるんだ」と声をかけてきた。(気づいてくれ〜)と祈ったが届かない。


「あんた、私を陰で馬鹿だって言ってたらしいね。ちょっと頭がいいと思って見下してんじゃねーよ」


早速、怖い先輩に追いつめられる。


「誰がそんなこと言ったんですか。言ってません」

「あこちゃんはそんなこと言ってません。絶対言ってない。よっちゃんが言ってたなら嘘です。あの子はすぐにあることないこと言いふらすから」


まりちゃんもすかさずフォローしてくれた。

殴られるかと思ったが、なんとか免れた。


その日の帰り道、泣いたのは私ではなく、まりちゃんだった。

「あこちゃんがあんな人たちに呼び出されたなんて、悔しいよ」

そう言って、肩を震わせていた。


私は黙っていた。

本当は——私は言ってしまっていたのだ。

よっちゃんが近くにいるとは気づかずに。

「だから馬鹿って嫌いなんだよ…」

あのとき確かに口にしていた。


不良に対する怖さと苛立ちと、幼い正義感みたいなものが混ざった本音。

まりちゃんはそのことを覚えていながら、なお私をかばってくれたのだろうか。

聞くことはできなかった。ただ、胸の奥がちくりと痛んだ。


今ならわかる。あの不良達こそ、苛立ちや葛藤を抱えきれないくらい抱えて、必死に表現していたということを。


青春を思い出すとき、必ずまりちゃんの優しさが浮かぶ。

あの澄んだ時代を共有した、大切な親友。

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