File 08:施主ブログ「工事中断のお知らせ」

ブログタイトル:あんずのほっこりリノベ日記

記事タイトル:【緊急】工事が中断しています。トオルの様子がちょっと変で……。

投稿者:あんず(是枝 杏奈)

投稿日時:202X年3月16日


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みなさん、こんにちは。あんずです。


実は、ちょっと大変なことになってしまい、リノベーション工事がストップしています。


先週、現場で作業をしていた工務店の監督さんが急に入院してしまったというのはお伝えしましたが、それに加えて、建物の「構造」にいくつか問題が見つかったそうです。


簡単に言うと、昔の増改築のせいで、設計図にはない**「変な穴」**が家の中を貫通していたり、壁の中に不要な煉瓦が埋め込まれていたりしたらしいんです。


工務店さんはすぐに外部の建築士さんに来てもらって、詳しく調べてもらいました。そのレポートが先日出たのですが、トオルと私、二人で読んですごくショックを受けました。


特にトオルは、建築図面とか、構造とか、そういうのが大好きで詳しかったので、その「変な穴」が、配管のためでも何のためでもなく、「新築時から意図的に作られたもの」だと知ってから、完全に様子が変わってしまいました。


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トオルは元々、何でも「面白い」って言ってポジティブに捉える人でした。

壁の中からお守りが出てきた時も、「お宝探しみたいだ」って笑っていましたし、夜中のスマートスピーカーの音声ログ(File 05)を聞いた時も、「古い家のノイズキャンセリングがうまく働かなかっただけだ」って、理詰めで納得しようとしていました。


でも、先週の土曜日、彼が現場から帰ってきてから、全く眠れなくなってしまったんです。


彼はあの「縦穴」(File 07で指摘されていた、1階から2階まで貫通する穴)の図面を何度も何度も眺めて、

「これは、家じゃない。これは、何かの儀式のための箱だ」

「構造を弱くしてまで、なぜこんなものを作る必要があったんだ?誰かを、閉じ込めるためか?」

って、ブツブツ独り言を言うようになってしまって。


私が「トオル、もうその穴は塞ぐんでしょ? 建築士さんもリスクはあるけど埋められるって言ってるんだから、大丈夫だよ」って言うと、彼は顔色を変えて、


「塞げない。塞いじゃいけない。あの穴の奥には、まだ『何か』がいる。もし塞いだら、家が怒る。俺たちが、この家で幸せに暮らすことができなくなる」


って、真剣に言うんです。


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昨日なんて、トオルは会社を休んで、一日中、図面と、現場の写真と、昔の不動産の書類を突き合わせていました。

そして、あの例の「ミナミ」と書かれたカセットテープ(File 04)を、イヤホンでずっと聞いていました。


トオル:「杏奈、この音、聞こえるか? これ、子供が何かを数えてるんだ。一、二、三……って。でも、途中から声が歪んで、数字じゃなくなってる。これは、柱にいる誰かと会話しようとしてるんだ。」


私:「やめてよ、トオル。それはカセットテープの劣化でしょ?」


トオル:「違う。あの穴は、音を通すために作られたんだ。あの甕(File 07で床下に発見された甕)は、音を反響させるための仕掛けだ。この家は、ずっと誰かの声を聞き続けているんだ。」


こんな風に、トオルは完全に「家に取り憑かれた」みたいになってしまいました。彼の目には、以前のような「リノベを楽しむキラキラした輝き」はもうなくて、ただの怯えと、異常なほどの探求心が入り混じっています。


工務店からは、「構造的な問題が解決するまで、安全のため作業を中断する」という連絡が来ました。

本当は、工期が遅れるのは困るのですが、今のトオルを見ていたら、工事を続けたら本当に何か取り返しのつかないことが起きる気がして怖いです。


私は、ただ普通の、明るい家に住みたかっただけなのに……。


トオルが、早くいつものトオルに戻ってくれますように。

また工事が再開したら報告しますね。


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(File 09へ続く)

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