私が好きになった彼には好きな人がいた。

山口甘利

一.好きなのかもしれない

 私─星野美月はもう高校生なのに“恋”について正直いまいち分かっていない。でも最近分かってきてる気がする。


 高校に入学して約4ヶ月が経ち、私たちは夏休みに入っていた。

 今日は中学3年生の時から仲が良い、鈴木麟夏と久しぶりに遊ぶ日だった。

 私たちは、行きたかった大阪市内のカフェに入った。

「ねえ、聞いて。最近ほんまに、蒼真君と全然会えてないねんけどー。」

 そう言って麟夏は肩を震わせる。蒼真君は白崎蒼真と言い、麟夏の好きな人。高校に入り、一目惚れしたらしい。麟夏はさらさらのストレートヘアだけど、顔まわりの触覚はしっかりと巻かれている髪の毛。ぱっちりした大きな瞳に長いまつげ、笑うとふわっと柔らかくなる口元。もちろん、男子にモテモテ。

「じゃあ連絡したら良いじゃん。」

「美月は簡単に言うけどね、そんなLINE送るの簡単じゃないから。」

 スマホを握ったまま、麟夏は少し口を膨らませる。

「そういう美月はさ好きな人いないの?いつも聞いてもらってるから私聞くよ。」

 麟夏は机の上に体を乗り出し、目をキラキラさせながらこっちを見た。

「実はさ…」

 うんうん、そう麟夏は大きく頷いた。

「好きなのか分かんないけど、なんか最近学校に行けてなくて会えなくて寂しい、って思う人がいるの。」

「えっ。嘘。」

 麟夏がまるで化け物を見るように驚いた。そんな驚くことないでしょ。

「それ、絶対恋だから。でっ、それ誰なの?」

「それは…陸斗君。」

 言ってしまった。好きな人の名前を言うのはこんなに恥ずかしいんだ。

「えっ、あの南雲陸斗君?だよね?」

「そう。」

 少し俯いていた顔を上げ、麟夏と目を合わせた。

「あの子イケメンだよねー。ねえちょっといっぱい恋バナ聞きたい。いついつ?」

「話長くなるけどいい?」

「あったりまえじゃん。何時間でも付き合うよ。」

 よし、と言い恥ずかしい心を胸にしまった。

「高校に入学した時、私と陸斗は出席番号順で席が隣だったの。確かに顔は整ってるけど、最初から一目惚れしたわけじゃなくて、この子優しいなって思い始めて、その後いつのまにか目で追ってたって感じ。」

「で、その優しいって思った出来事って?」

 麟夏がワクワクしながら聞いた。

「私さ、頭あんま良くないからさ、授業中当てられた時いつも止まっちゃうじゃん。その時にいつも助けてくれてたの。授業中分かんなくて困ってる時とかも、分かる?って聞いてきて教えてくれるの。まじ優しすぎない?」

「確かに、まあ高校生の男子ならそんなこと普通しないよね。」

 納得したような顔でうんうん、と頷いていた。

「なんか、アタックとかしないの?美月はさ顔も可愛いし、性格も良いんだから絶対行けると思うんだよね。」

「えーそうかな、ありがとう。でも今のところはいいや。もーいいよいいよ。麟夏の話聞きたい。でさ、蒼真君とは何か会う予定とかないの?」

 今迷ってるとこ〜、と照れ臭そうに麟夏はそう言う。

 確かに私も陸斗君に何か“アタック”するべきなのかな。

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