え、僕の子種が国宝??~世界を救った魔法使いの僕、100年のコールドスリープから目覚めたら子種が究極の秘宝に認定されていたんですけど~
定時に来たんだから定時で帰らせろks
プロローグ
「私を伴侶に選んでくれたら、毎日たーくさん甘やかしてあげますからね」
「あ、アタシがあんたのお嫁さんになったら……毎日欠かさずキスしてあげるわ」
超がつくほどの至近距離で耳元に囁かれる、可憐な乙女の甘い声。此方の情緒を乱し、理性を溶かす甘い誘惑。心拍数が上がり、無意識に生唾をゴクリと飲み込む。
──駄目だ、落ち着け。
──この誘惑に負けてはいけない。耳を傾けてはいけない。冷静になれ、欲望を鎮めろ。常にクールに、クールに……。
自分に言い聞かせ、理性を最大限に働かせ、僕は心を落ち着けるために深呼吸をする。
しかし、そんな僕には構わず──否、僕の理性を崩さんと、両隣の少女たちは甘い囁きを続けた。
「いいんですよ? 好きなだけ堕落してしまって。私がずーっとお世話してあげますから……身も心もトロトロにしてあげます」
「勿論、キスだけじゃないわよ。あんたが心から満足するまで付き合ってあげる……アタシの全部、あんたにあげるから」
「………ッ」
「堕ちちゃいましょう? 私の胸の中で」
「負けちゃいなさいよ。アタシに欲望を曝け出して」
「ぐ……っ!」
駄目だ。無理。意識しないとか絶対に無理!
眠るのを諦めた僕はアイマスクを外し、身体を横たえていたロッキングチェアから身体を起こす。
そして──両隣にいる、金髪と銀髪の美しい二人の少女に言った。
「……耳元で誘惑ボイスを炸裂させるのやめてもらえる? 眠れないんだけど」
「まぁ! それはもしや、今夜は寝かせないぞという意味ですか? 眠れないほどの激しい夜を……という!」
「エッチ! 変態! ……でも、別にアタシは構わないけど……」
「全然違うし、受け入れようとするなよ」
相も変わらず、この子たちは……。
ややお花畑な思考回路をお持ちの彼女たちに呆れの溜め息を吐き、僕は両手を持ち上げ──。
「えい」
「「痛──っ!!」」
彼女たちの額を指で強めに弾くと、二人は揃って声を上げ、身体を仰け反らせる。次いで、苦悶の表情を浮かべながら、痛みが走った部分を両手で押さえた。
「よし、お仕置き完了」
僕は睡眠を邪魔したことに対する罰を執行できたことに満足しながら言い、再びアイマスクで視界を闇に閉ざそうとする。今度こそ安眠しよう、と。
だがその前に、先に復活した金髪の少女が抗議の声を上げた。
「い、いきなりなにするのよ! すっごく痛いんだけど!」
「痛くなかったら罰にならないだろう」
「罰ってなに! 何の罪!」
「安眠妨害罪。重罪だよ。一度目は大目に見るけど、二度目は一時間のくすぐりの刑だから」
「……っ」
恐らく耐えることはできないであろう恐ろしい刑罰。
それを受けている自分を想像したらしい。金髪の少女は頬を紅色に染めて自分の身体を抱き締め
「……変態」
此方にジト目を向け、小さな声で言った。
失礼な。僕は変態じゃない。百年前からずっと紳士で、一途な男だ。
と、僕は胸を張って反論しようとしたのだが──。
「それは大変、魅力的な刑罰ですね……」
やや赤くなった額を擦りつつ、銀髪の少女が言った。
「賢者様に全身を隅々まで、余すことなく撫でられる。遠慮も容赦も慈悲もなく、思う存分愛でられる。私たちは抵抗することも許されず、人形のようにされるがまま……フフ、罰というよりも、ご褒美に近いですね」
「ご褒美なんて言うのは君くらいだよ」
「何を言いますか。どんな形であろうと、賢者様と触れ合うことができる。これは最上の喜びですよ」
「この無敵っ子め」
「はい。好きな人の前では、女の子は無敵なんですよ」
そんなことを言って恍惚とした笑みを浮かべた銀髪の少女は僕の手を取り、それを自分の頬へと押し当て、擦り付ける。子猫のように、心地よさそうに。
この顔をされると弱い。無条件に受け入れてしまう。
僕も大概甘いな。昔から、何も変わっていない。
過去と今の自分を比較し、僕は自分に呆れて笑った。
「ぐぬぬ……」
「ん? どうし──」
不満……否、ヤキモチを焼くように頬を膨らませていた金髪の少女。
僕が其方に顔を向けた瞬間、彼女は意を決したように一度頷き──ガブリ。勢いよく、空いていた僕の手に噛みついた。
「い──ったあぁ!!」
鋭い痛みが走り、僕は反射的に手を引っ込めようとする。
が、少女はガシッ! と僕の手首を力強く掴んでおり、離すことができない。強弱をつけて噛み、痕をつけ、唾液で手を濡らす。
な、何をやっているんだ、この子は……。
金髪の少女が起こした突然の行動に動揺する中、僕の手に頬ずりをしていた銀髪の少女がニヤニヤしながら言った。
「可愛いですね。嫉妬したんですか?」
「し、嫉妬なんかじゃないッ!」
からかわれたことが我慢できなかったらしい。
金髪の少女は僕の手から口を離し、銀髪の少女を睨んで反論した。
「あ、あんたとは敵だから、負けていられないだけ! リードなんてさせないんだから!」
「フフ、照れなくてもいいのに」
「照れてなんかないわよ!」
「そういうことにしておきますよ……でも、負けていられないので」
「あ、ちょ──」
僕の制止よりも早く、銀髪の少女は僕の指を口に咥えた。
しかし、金髪の少女とは違い、痛みはない。代わりに、彼女は丹念に咥えた指を舐め、まるで唾液を塗り込むように舌を絡ませ、這わせる。ちゅぱ、ちゅぱ、と淫靡な音を奏でて。
背徳感が全身を駆け抜ける。
見目麗しい乙女にイケナイことをさせているかのようで、少しだけゾクゾクする。
「……っ!」
銀髪の少女の行為に対抗心を燃やしたらしい。金髪の少女は再び僕の手に甘噛みする。
僕はすぐにやめるように言い聞かせるが、少女たちは『向こうが止めたらやめます』と言うばかりで、全くやめる気配がない。
それどころか、行為を続けたまま、バチバチと互いに視線を衝突させ──。
「賢者様の運命の相手は──私です」
「最後にこいつの隣に立つのは──アタシよ」
宣言──いや、宣戦布告をし、瞳の奥で闘志の炎を燃やす。
滾る二人の乙女を交互に見やり、僕は全身を襲う疲労感に肩を落とした。
嗚呼、どうしてこんなことになったんだっけ。
溜め息を吐いて自問し、僕は現在に至るまでの経緯──今から丁度、百年前の記憶を振り返った。
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