第3話 Interview_01:目撃者証言(匿名掲示板ログ抽出)
画面に表示されたのは、保存されたHTMLファイルだった。
背景は灰色。古めかしいデザインの掲示板サイトだ。
スレッドのタイトルは『【凸】S県の山奥にある「立ち入り禁止の廃村」に潜入したったwww【閲覧注意】』。
日付は二〇二三年七月十五日。漆原たちが取材に向かう約一ヶ月前だ。
私はマウスのホイールを回し、スレッドの流れを追った。
冒頭は、投稿者(イッチ)による軽いノリの書き込みと、住人たちによる煽り合いが続いている。
◇
1 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/15(土) 22:14:05 ID:xX/AbCde0
暇だったから、地元で心霊スポットって噂されてるS県の旧白河村(仮)に行ってきた。
バリケード越えて中に入ったんだが、なんか様子がおかしい。
誰かいる?
2 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/15(土) 22:15:20 ID:________
特定した。通報しますた
3 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/15(土) 22:16:10 ID:________
あそこマジでヤバイとこだろ
洒落にならんぞ
4 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/15(土) 22:18:33 ID:xX/AbCde0
2
待て待て、通報は勘弁w
写真うpするから見てくれ。
これ、村の入り口にあった地蔵なんだけどさ。
(画像リンク:Image_001.jpg ※リンク切れ)
5 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/15(土) 22:20:05 ID:________
うわ
首ねじ切られてる?
6 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/15(土) 22:21:44 ID:xX/AbCde0
そう。六体ある地蔵の首が、全部真後ろ向いてるんだよ。
誰かのイタズラにしては手が込んでるというか、石が古いから最近やったもんじゃないっぽい。
苔のむし方が、首の断面と胴体で繋がってるんだよ。
つまり、数十年前にこうされたまま放置されてる。
◇
ここまでは、よくある心霊スポットの報告だ。
漆原が注目したのは、おそらくこの後だ。
スレッドの中盤、投稿者のテンションが徐々に変わり始める。
◇
42 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/15(土) 23:10:12 ID:xX/AbCde0
集落の中心部に来た。
おかしい。
廃墟じゃない。
いや、人はいないしボロボロなんだけど、生活感がエグい。
軒先に洗濯物が干したままになってる。色あせてボロボロだけど、子供服だ。
あと、家の中覗いたんだけど、茶碗にご飯(カビて石みたいになってる)が盛ったままだ。
夜逃げとかじゃなくて、飯食ってる最中に全員蒸発したみたいだ。
45 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/15(土) 23:12:30 ID:________
神隠し村かよ
48 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/15(土) 23:15:55 ID:xX/AbCde0
一番でかい建物に入った。多分、公民館か集会所。
ここが一番ヤバイ。
部屋中、ビデオテープだらけだ。
VHS。壁一面の棚にびっしり詰まってるし、床にも山積みになってる。
数千本はあると思う。
背表紙に何も書いてないやつばっかりだけど、一本だけ『忌録』って手書きシールが貼ってあるやつ見つけた。
50 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/15(土) 23:17:10 ID:________
持って帰ってうpしろ
52 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/15(土) 23:20:22 ID:xX/AbCde0
一本だけ持ってきた。
なんか気味が悪いからもう帰るわ。
視線感じるし。
◇
ここで投稿は一度途切れている。
日付が変わって、翌日の深夜。
再び同じIDが現れる。
◇
108 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/16(日) 02:44:11 ID:xX/AbCde0
ごめん、遅くなった。
帰ってきて、拾ったビデオをデッキに入れてみたんだ。
俺の実家、まだVHSデッキあるから。
映ってたのは、ただのノイズだった。
五分くらい、ずっと砂嵐。
釣りじゃなくてマジで。
109 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/16(日) 02:45:30 ID:________
解散
110 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/16(日) 02:46:55 ID:xX/AbCde0
いや、待ってくれ。
続きがある。
砂嵐の後、パッと映像が出たんだ。
ホームビデオみたいな映像。
知らない家だ。昭和っぽい古い日本家屋。
ちゃぶ台を囲んで、家族四人が食事してる。
父親、母親、女の子、男の子。
楽しそうに笑いながら、ご飯食べてるんだ。
でも、音が変なんだ。
笑ってるはずなのに、聞こえてくる声は「悲鳴」なんだよ。
「ギャアアアア」とか「やめてくれ」とか、そういう絶叫が、笑ってる口の動きと合わずに流れてる。
アフレコみたいに。
112 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/16(日) 02:48:10 ID:________
悪趣味な自主制作映画だろ
113 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/16(日) 02:50:33 ID:xX/AbCde0
違う。
俺、気づいたんだ。
映ってる男の子。
あれ、俺だ。
いや、俺の子供の頃にそっくりなんだ。
着てる服、俺が七五三の写真で着てたやつと同じだ。
でも、俺に姉妹はいない。一人っ子だ。
それに、両親の顔も俺の親父とお袋に似てるけど、どこか違う。
パーツが左右逆になってるみたいな違和感がある。
115 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/16(日) 02:52:00 ID:xX/AbCde0
カメラがズームした。
父親がこっちを見た。
目が合った。
ブラウン管越しに、目が合ったんだ。
そしたら、父親が言ったんだ。
声は聞こえない。口の動きだけだ。
「み つ け た」
116 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/16(日) 02:52:45 ID:xX/AbCde0
電源切った。
コンセント抜いた。
でも、デッキの中から音がする。
テープが回ってる音が止まらない。
誰か助けてくれ。
玄関のチャイムが鳴ってる。
モニター越しに見たら、誰もいない。
でも、ドアノブがガチャガチャ回ってる。
117 :名無しさん@オカルト板 :2023/07/16(日) 02:54:10 ID:xX/AbCde0
入ってくる
サグメ様がくる
見ちゃだめだ
嘘だ
全部嘘だ
俺は行ってない
ビデオなんて拾ってない
村なんてなかった
◇
書き込みはここで唐突に終わっていた。
その後のレスは、投稿者の安否を気遣うものと、創作だと断じるもので埋め尽くされ、やがてスレッドは過去ログ倉庫へと流れていったようだ。
私は画面から目を離し、大きく息を吐いた。
典型的なネット怪談だ。
「自分に似た人物」「終わらないビデオ」「訪問者」。
ホラーの定石を詰め込んだ、出来の悪い創作。
そう切り捨てるのは簡単だ。
だが、漆原はこのログの最後、ID:xX/AbCde0の最後の書き込み部分を、黄色いマーカーで強調表示させていた。
『サグメ様』
前のファイルにあった郷土史メモと一致する名前。
この投稿者は、ネットで検索してもほとんどヒットしないその土着神の名前を、錯乱状態の中で書き込んでいる。
偶然だろうか?
それとも、この投稿者もまた、漆原と同じように「何か」に触れてしまったのだろうか。
私は、ログの下部に漆原が書き添えたメモに気づいた。
Note:
ID:xX/AbCde0 のIPアドレスを解析。
プロバイダはS県内のCATV。
割り当てられた住所は、S県S市……失踪した私の実家の近くだ。
この書き込みがあった翌日、S市内で二十代男性の不審死体が見つかっている。
死因は、自分の舌を喉の奥まで詰め込んだことによる窒息死。
警察は自殺として処理した。
背筋が凍るような感覚。
漆原は、この書き込みを「ネタ」だとは思っていなかった。
彼は確信を持って、この村へ向かったのだ。
死への招待状を、自ら掴み取りに行くように。
私は震える手でマウスを握り、次の動画ファイルへとカーソルを移動させた。
いよいよ、映像だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます