異世界転生してるのに廃スペボディを持て余してる男の話

@VHS-UDL

第1話

 俺の名前は『ラルミュール・ゼトワール』ふとした拍子に自分が人生二周目だと言う事を思い出した一般通過公爵令息である。


別に突然高熱に魘された訳でも、頭を打った訳でもない。立派な屋敷の庭で黄昏れてる時に唐突にヌルッと記憶を思い出した『そーいや俺人生2周目じゃん』って感じで。


普通この手の記憶ってなんかこう、何かしらのキッカケがあるんじゃないの?スゲェシームレスに前世の記憶が生えたんだけど??


記憶を整理して行くと生まれは公爵家らしく、両親の他に兄が二人と姉が二人の俺を含めた七人家族の末弟で、使用人も数え切れないぐらい居るいいとこの坊ちゃんだ。なんなら俺専属の同い年の従者ちゃん(可愛い)も一人居る。


しかも兄弟姉妹とは仲も良い、両親も最低限の教育さえ受けてれば良いってスタンスだからか自由気ままにやれてる。


あれ? 俺って勝ち組じゃね?……と考えていたが、俺が庭先で黄昏れていた理由を思い出した。


そう、アレは1時間前…………俺の魔法適性について判明した後の話。



魔法の基礎知識を教える家庭教師曰く、この世界には基礎となる属性として『地水火風』の四属性があり、そこから派生した『闇氷光音』の更なる四属性の八種類が存在すると言っていた。


其処までは良い、前世思い出すまでは割とすんなり受け入れてたし、疑問にも思わなかったが、問題はこの後俺の属性を調べる魔道具みたいな物を使った後だ。


見た目は装飾が施された水晶で、これに触れながら意識を集中させる事で内部に変化が起きるらしい。


火属性なら火の揺らめきや水なら水面の波紋、と言った風にそれぞれの属性のイメージを可視化する物らしく、俺はウキウキで魔道具を使った。



──────そしたらなんか水晶の中に宇宙があった。俺の属性説明からハブられてるやんけ。


その後はてんやわんやだった。入手先にクレーム入れる入れないの話になるわ、文献やら何やら片っ端からひっくり返して調べる事になるやらで大騒ぎ。唯一俺と一緒に魔法講座受けてた従者だけはキョトンとしてた。癒しである。


誤作動にしても他の人には正常に動いてるし、俺が魔道具を使う度に宇宙の投影がされるって事から再現性もある。んで方々を聞き回った結論として、俺の属性は失われた属性である「空」属性の可能性があると言う話に落ち着いた…………と同時に問題点が更に増えた。従者ちゃんは「流石アニキッスね!! 前々から常識の外側に身を置いててスゴいと思ってたッス!!」って慰めてくれた。


ペカーって光るくらい純粋な笑顔だったけど時に純粋な感想ってのは切れ味抜群の煽りになるんだぜ? まぁまぁグサっと来た。



問題点その一、「せんせー『空』属性って具体的に何が出来るんですかー?」問題。


何を隠そうこの「空」属性、実在すら疑われるレベルで今日に至るまで存在が確認されていない。何なら通説としては今ほど魔法が発展してなかったから、他の属性と誤認していたのでは?とか言われてる始末。


つまるところ、魔法を教わろうにも講師役の知識がまるで役に立たないと言う事である。



問題点その2、「魔力ってなんぞや?」問題。


俺は前世の記憶を思い出す前から『魔力』と言う力が全く理解出来なかった。特に気にしてた訳じゃ無いけど、今にして思えば俺の思考ロジックが現代日本人のそれだったからなんだろうと何となく感じる。


その所為か、『内なる魔力を引き出し、力ある咒文を唱える事で魔法は発動する』と言う事を1ミリも理解出来なかった。


そもそも魔力ってなんぞや? 人間の脳内の電気信号か? 精神力だとかよく言うから魔力の正体はセロトニンか? いやむしろドーパミンとかアドレナリンなのかもしれん。脳内分泌ホルモンをどう感じろってんだよ? 薬中にでもなれってか??


なので思わず家庭教師に聞いてしまった。「素人質問で恐縮なのですが、内なる魔力を感じるとはどのように感じるのでしょうか?」と。


その瞬間の「何言ってんだコイツ?」みたいな家庭教師の顔は忘れられん。どうやらこの世界では呼吸の仕方並みに当たり前の感覚らしい。


因みに精神を集中して胸の内側へと意識を移す事で分かるとか言ってたが、まるで分からなかったし、この辺りから俺の魔法講座はかなり雲行きが怪しくなって来た。



問題点その3、「俺ってバカ魔力」問題。


あの手この手で俺に魔力を知覚させようとカテキョは頑張ってた。いちいち感覚的な説明ばっかで若干苛立ってたら「呼吸の仕方を論理的に説明するレベルの難題ですからね!!」って半ギレで言われてしまった。


最終的に無理矢理体外から魔力を流し込んでその感覚を覚える事となった。正味最初からそれで良いじゃんとか思ったが、属性の違う魔力を流し込むと身体に悪影響が出やすいらしく、本当に強引な手段なんだと。


そんで、これで感覚覚えろ下さいって言って、カテキョから俺の身体に魔力を流し込まれた…………らしい。


相変わらず1ミリも感じなかったが、カテキョがボソッと「あ、ムリだこれ」と悟りを開いた様な乾いた笑いと「坊ちゃんの魔力は人間に大空を押し込んだ様な規模なので人間レベルの魔力だと誤差以下にしか感じないです。何なら多分魔力多すぎて知覚能力のキャパ超えてますね、魔法は諦めて下さい」とか言われてかなり凹んだ。



問題点その4、「謎にフィジカル強すぎて魔法要らない」問題。


魔法使う素養が無いなら無いなりに魔法への対策だけでも覚えようとなり、中庭で魔法の練習をする事になった。


魔法とは魔力を用いて発生させられた現象であり、基本的には魔法でしか相殺する事が出来ない。


正確には直接的な衝突を止めると言う意味では盾なり何なりを使えば不可能じゃ無いけど、要は当たった後に二次被害が生じると言う事だ。炎だったら盾が燃えるし、水や風だったら受け止めた盾を迂回して目標へと向かう、地だったらそもそも質量の暴力でぺちゃんこ。


なので基本的には魔法は避ける物らしい。ただ何と無く直感的に行けそうだったからカテキョが説明の最中に実演してた『炎の弾』を思いっきり蹴り飛ばしてみた。


────マジで蹴り飛ばせたし、なんならサッカーボールの様に空高く蹴り上げられたそれは一拍置いてから空中で弾けて花火になった。そしてカテキョは卒倒した。



んで、自信なくなったカテキョに辞表を出されて今に至るって訳(はーと


異世界転生してチート能力あるのに宝の持ち腐れってどう言う事だよ!?

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