一般パーティーが行く普通の異世界冒険譚

カザミタチカゼ

第1話

ある世界のとある森の中。

少し街道から離れた人があまり立ち寄らない場所。

普段は静かな場所だけれどその日は違った。

「アイラ、下がれ!」

「っ、了解!」

赤い髪をした少女はそれを聞いて青年の後ろへと隠れる。

その瞬間、彼女が元居た場所へと大量の石礫が投げ込まれる。

大半の石礫は何もない空間へと落ちていったがいくつかの小石が青年の方へと殺到する。

「【シールド】!!」

青年が叫ぶと彼が掲げた盾から巨大な盾のような幻影が現れる。その幻影が青年を小石から守る。

「アイラ、大丈夫?」

金髪の少女が赤髪の少女に声をかける。アイラと呼ばれた少女は「大丈夫です。」と返事をしたが膝を擦りむいていた。

「【ヒール】」

金髪の少女がその傷に杖をかざすと杖が桃色に輝きだす。すると、その傷はみるみる塞がっていった。

「次は無理しちゃだめだからね。」

「フィリアさん、ごめんなさい。」

金髪の少女が注意するとアイラは謝る。

「フィリア、そういうのは後にしろ。こっちを手伝ってくれ!」

二人のやり取りの間にも石礫は投げられ続けられている。

「はいはい、わかったわよ!」

そう言うとフィリアと呼ばれた少女は杖を掲げ

「【ウォール】!」

と、唱える。

すると青年の前に半透明の薄く発光した壁が現れる。その壁は盾の幻影の前に出現し石礫から青年たちを守る。

その光景を見た青年は盾を掲げるのをやめ鞘に納められた剣を抜く。

「そこか!」

青年が剣を突き出すとそこには小さな猿のような動物が突き刺さっていた。その手にはまだ小石が握られている。

「ミニ・モンキーね。」

黒い帽子をかぶった女性が木陰から姿を現しその猿の正体を述べる。

「ハナ姉!」

「ヨハンナさん!」

フィリアと青年が呼ぶとその女性はウィンクして

「待たせちゃったみたいね?」

と、悪戯っぽく微笑む。そして、ステッキを掲げると赤く輝く

「【フル・ファイア】!」

彼女が唱えると周囲に突如として赤く輝く球が出現する。そして周囲に飛散する。

そして木々の上にいたミニ・モンキーへと正確に命中していく。

「キーッッ!!?」

ミニ・モンキーたちは一斉に逃げ出そうとするも

「逃さないわよ。」

赤い球がそれを赦さない。

ミニ・モンキーたちは次々と射ち落されていき悲鳴を上げる。

やがて、それも聞こえなくなり森は元の静けさを取り戻した。

「これで終わりね。」

ヨハンナと呼ばれた女性はそう呟くと持っていたステッキをベルトに付いている収納場所へとしまう。

「お疲れ様です、ヨハンナさん。」

「ありがと、フィリアちゃん。」

フィリアが労うとヨハンナは素直に受け取る。

「ハナ姉、アレンはどうした?」

「置いてきたわ。」

青年の言葉にヨハンナはあっけらかんと答える。

「置いてきたって、おまえ...。」

「だって、空飛べないでしょ?あの子」

「それができるのはヨハンナさんだけ。」

アイラが呆れたようにつぶやく。

「ま、すぐ追いつくわよ。それよりも、さっさと亡骸を集めて記録しちゃいましょ。」

「ハナ姉はお金が楽しみなだけだろ?」

「ジェド、何度も言っているけどお金はこの世で一番重要なものなのよ?」

ヨハンナはジェドと呼ばれた青年に真剣な眼差しで諭すもジェドは「はぁ。」とため息をついてスルーする。そして、フィリアの隣にいたアイラへと向き直り厳しい目を向ける。

「アイラ、一人で突っ走るなと言ったよな。」

「...。」

「俺が間に合っていなかったら大怪我をする所だったじゃないか。」

「ちょっと、そんなに言わなくても。」

厳しい言葉に思わずフィリアは止めに入る。しかし、ジェドは

「黙っていてくれ、フィリア。」

強い言葉で遮る。

「俺らはパーティーだ。一人で突っ走ると全員に危害が及ぶこともある。それを理解してくれ。」

「...ごめんなさい。」

「謝らなくていい。だが、次からは気を付けてくれ。」

ジェドはそう言ってミニ・モンキーの亡骸へと向かう。

アイラはしばらくうつむいたまま黙っていたが

「ジェドはああ言ってるけどあなたのことを心配してるだけなのよ。だから、あまり気にしないでね。」

と、フィリアが声をかけると小さい声で

「うん。」

と、頷いた。

「さ、あたしたちも手伝おう。」

「わかった。」

そういって二人もミニ・モンキーの亡骸を集め始めた。


「大体、これで片付いたかしら?」

フィリアが指を指して数える。

ざっと数えて30匹。そこにはミニ・モンキーが並べられていた。

「うぐ、思ったより少ない。」

しかし、その数に満足できなかったのか彼女は残念がる。

「レベル5相当のクエストだしそんなものだろう。」

ジェドが荷物を整理しながら答える。

「でも、このままだと宿代だって払えないわよ?」

フィリアもポケットからメモ帳を取り出して答える。

「それなら私に任せて頂戴。」

ヨハンナは行っていた作業を中断し胸に手を当てながら話し始める。

「却下だ。どうせギャンブルだろ?」

「なんでよ~。私に任せてくれたらすぐに倍にしてあげられるのに。」

「ダメです!」

ヨハンナの提案にフィリアはきっちりと却下する。因みに現在の金欠は彼女が原因である。

「というか、アレンのやつ。いくら何でも遅くないか?」

ジェドは取り出した水晶を覗きながら話す。

「そうね、少し心配だわ。」

ヨハンナの発現にアイラとフィリアも同調する。

その時だった。

近くの茂みがごそごそと動く。

その瞬間ジェドは盾を構え、フィリアは地面に置いていた杖を手に取る。アイラとヨハンナもそれぞれダガーとステッキを取り出す。

それぞれが警戒しその茂みを注視する。

そして、

「おっと、俺だよ俺。」

顔を出したのは青い髪にバンダナを巻いた青年だった。

「なんだ、アレンじゃないか。」

アレンと呼ばれた青年はのそのそと茂みから出て頭を掻く。

「どこ行ってたのよ、心配したんだから。」

「いや、それはこっちのセリフなんだが。」

アレンは防具を着ているが所々に傷がつき頬には擦りむいた後もある。随分と焦って走ってきたようでバンダナは少し汗ににじんでいた。

「【ヒール】」

フィリアが杖をかざすと頬の擦りむいた後も消えていく。

「急にハナさんが空を飛んでどっかへ行っちゃうんだから。空を飛べない奴の事も考えてくれよ。」

「ごめんごめん。」

アレンは愚痴を垂らすもヨハンナは笑ってごまかす。

「ハナ姉もアイラと同じ話が必要みたいだな。」

ジェドは盾を下ろしながらヨハンナへと鋭い視線を向ける。しかし、ヨハンナは口笛を吹きながら明後日の方向を向く。

「てかさっきの傷はどうしたの?」

フィリアが聞くとアレンは「忘れてた!」と言って慌てて始める。

「「「「?」」」」

アレン以外の四人の頭に疑問符が表れる。

「みんな、武器を構えろ。来るぞ!」

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