社内のリストラ候補が武芸無双でVRMMORPGを蹂躙する

逢須英治

第1話 リストラ候補

 北大路主水は社長・白子屋菊太郎に社長室に呼ばれる前から嫌な予感はしていた。

 少し前から閑職状態になり、上から疎まれていることがわかっていたからだ。

 さらに「社長室に来い」というのが不自然である。

 菊太郎は何事にもPCを通じてやり取りすることを好んでいるので、直接面会には何か意図があることはわかった。


「失礼します。白子屋菊太郎社長、お呼びでございましょうか?」


「おう、ひさしぶりだべ。最近はどうだべ。仕事がやりにくくて仕方ないんじゃないじゃないか?」


「……いいえ、今は担当から外れていますが特に困ったことはありません」


「うちはハーバードやオックスフォード、MITとかのエリートしか取らないから、おまえも部下と話が合わなくて困っていると思ったべ!」


 菊太郎はニヤニヤほほ笑んで言う。普段社内では「おまえ」という言葉を使わないが北大路には遠慮がない

 が北大路は飽くまで冷静に返す。


「いいえ、良い新社員ばかりで助かっております」


「謙遜はいいべ。ほら、おまえの大学なっていったっけ? このご時世に武道とかやっているFラン大学……私立八重洲大学じゃなくて」


「私立国際八丁堀大学です」


「そうそう! まあ毎日学歴コンプレックスに悩まされているおまえに朗報だべ。早速だが明日から新規プロジェクトの主任をやってもらうべ」


 菊太郎は20代後半の髪を金髪にした青年である。ピアスもしており、軽薄な印象を周囲に与えていた。


「新規プロジェクト……ですか? え~と、現在のロボット事業部と兼任でしょうか?」


「いいやロボット事業部からは異動してもらうべ。信頼できる部下がそろっているんだろう? 大丈夫だべ」


 北大路は7年前から人型ロボットを運用した重労働・介護・育児・警護の仕事を受注し、派遣するという業務に携わっていた。

 先任が事故で入院したために、ゲーム開発部にいた北大路が急遽配属となったが成果を十分に出してきていた。


「新規といっても10年前にやっていたプロジェクトの再稼働だけどな。『ミッドナイトリーグ』を攻略して、ランカーになって欲しいんだべ! おまえが敬服していた親父と同じ命令だから嬉しいべ?」


 菊太郎はニヤニヤしながら言った。

 それに北大路は血相を変える。


「ええ? 今の『ミッドナイトリーグ』にですか?」


「なんで慌てるんだ? おまえもランカーだったべ? ギリギリ4000位をウロチョロする底辺ランカーだったけどよ」


 菊太郎は軽薄そうな笑みを浮かべてそういった。

 北大路は思わず菊太郎をじっと見る。菊太郎も殺気のこもった眼で見返してくる。

 

 「ミッドナイトリーグ」それは10年前に一世を風靡したVRMMORPGである。

 月が出ている時だけ森の獣、家畜、そして人がモンスターに変身する世界が舞台のファンタジーアクションRPGである。

 モーションセンサーを搭載したヘッドマウントディスプレイを使い、リアルな戦いができると評判になり、世界中で大ヒットしたのだ。

 「ミッドナイトリーグ」は菊太郎の父が創設した会社「SHIRaISHI」が生み出したものであった。

 「SHIRaISHI」は入社したばかりであった北大路は、「ミッドナイトリーグ」の宣伝部に所属し、自らランカーとなり、ゲーム実況やイベントの企画・進行を務め、世間の注目を集めるように頑張ってきていた。

 だが今、「ミッドナイトリーグ」は「SHIRaISHI」のブランドではない。

 3年前に「SHIRaISHI」は「ミッドナイトリーグ」を手放す事態に陥っていたのだ。世界的巨大企業「ウィンドサウンド」に完全買収されたのである。

 「ウィンドサウンド」の手で生まれ変わった「ミッドナイトリーグ」はVRMMORPGからBCIMMORPGに大進化してしまう。

 BCIMMORPGとはブレイン・コンピュータ・インターフェイスを活用し、脳の神経とコンピュータを連動させて仮想空間で冒険を行うというものである。視覚などの五感と連動し、部屋にいながらファンタジー世界での冒険ができるのだ。

 BCIMMORPG版「ミッドナイトリーグ」は空前絶後の世界的大ヒットとなり、プレイ機材が高額にも関わらず、4カ月で3億人が参加する事態となっている。

 「SHIRaISHI」に所属する役員・社員にとって「ミッドナイトリーグ」は、現在巨大な過去の栄光として大きな呪いのような存在になっているのだ。開発元にも関らず完全に蚊帳の外である状況は、「SHIRaISHI」にはつらい環境を作っていた。

 北大路は大きく迷った素振りを見せる。それを菊太郎は楽しそうに見つめる。

 北大路は決断したような顔をしてから口を開く。


「わかりました。しかしわたしもすでに38歳、2か月後には39歳になります。ランカーになるのは難しいと理解されていると思いますが、いかがです?」


「おまえも<Gポイント>は知っているんだべ?」


「も、もちろんです。『ウィンドサウンド』等の最先端企業が独自に共有する通貨のようなものですよね?」


「わかってんなら話は早いべ。悪いが我が社は今<Gポイント>がどうしても必要なんだわ。<Gポイント>奪取は社運を賭けたプロジェクトなんで北大路には社員生命をかけてもらおうべ? 成果報酬で査定させてもらう。『半年以内にプロジェクトメンバー全員をランキング上位1%以内に入れること』が条件だべ。失敗したらプロジェクトは解散! 会社も辞めてもらうべ!」


「なんですって!!」


「成果報酬といったべ? 『ランカー1位以内になったら社長になれる』んだから、そう悪い条件でもないべ?」


 北大路はヘラヘラとした軽薄そうな顔でそう言い、一枚の紙を差し出してきた。それは雇用契約書と呼ばれる類の書面である。社印もしっかり押されていた。

 そこには確かにランカーの状態によっての成果が変わるということが克明に記されている。

 目が行くのは「プロジェクトメンバーの全員がランキング上位1%以内に入らなかった場合、雇用契約を全て解除するものとする。」という文面であった。


「全員ランカーですか?」


「選んだ社員が辞退した場合はランカーうんぬんはなしでいいべ。ただし辞退の申告は一週間以内だべ?」


「一週間のうちに参加の有無を確かめろということですか?」


「ああ、最終確認はおまえに任せるべ」


「……了解しました」


「ほらよ、このペンで雇用契約書にサインするべ!」


「……わかりました。しかし一つ聞かせてください。これはAIの指示によるものなんですか?」


 それに菊太郎は一瞬だけ怖い顔をする。そして深く頷く。


「ああ、その通りだ。俺は終始一貫した男だと知っておくだべ!」


 菊太郎は挑発するようにそういった直後に、北大路はサインを記入した。

 直後、北大路は社長に背中を見せると足早に社長室を去っていく。

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