第9話 新鮮なレバー串(炭火焼き)を食べれば、コカトリスの石化毒は治るらしい

《吾郎Side》


 ……ギャル配信者こと、アリシア・洗馬せばと遭遇した、俺。

 静かなるソロキャンのために、俺はダッシュして、彼女を巻いた。


 ……だが、彼女はなぜか俺の近くまでやってきていた。

 どんだけ俺に執着してるんだよ……。


 ほっとこうと思ったんだが、彼女はコカトリスの石化を食らって大ピンチ。

 ほっとけなくって、結局、助けてしまったのだった。


「ごめんなさいゴローさん……」


 両足が石化状態のアリシアが、申し訳なさそうに謝る。


「完全に今回はアタシの自業自得……ほんとごめん」


 ……まあ、彼女の言うとおりではある。

 が、それよりすることがある。


「おまえそれ、大丈夫なのか?」


 アリシアの両足は完全に石になってしまっていた。


「え、どうだろ……って、え?」


 さぁ……とアリシアの顔から、血の気が引く。


「え……うそ……そんな……まさか……」


「アリシア? どうした?」


 彼女は体を震わせながら、小さくつぶやく。


「……コカトリスの石化は、本体を倒せば止まる。けど、しばらくすると石化が再度進行して……死ぬ、って……」


 ……さすがAランク探索者とでもいうべきか。いろいろ知ってるな。

 俺はソロキャン以外に、興味ないから知らなかったが。


 ともあれ、アリシアはこのままだと死ぬらしい。


「ダンジョンの外に出れば、石化は解除されるんじゃあないか?」


 現代ダンジョンのルールに、ダンジョンの外に、なかの物を出せないというものがある。

 コカトリスの石化の毒? もまた、外に出せば消えるのではないか。


「……ううん。外に出ても……変わらないって……。むしろ、コカトリスの石化を解除できるスキル持ちが、外には絶対居ないから……」


 ……なるほど。探索者のスキルは、ダンジョン内部でしか使えない。外に出て行っても、治癒スキル使用者はいない、だから直せないと。


「コカトリスの石化を直すためには、超強力な治癒スキルか……どんな病気・状態異常でも直せる、世界樹のしずくがないと……だ、だめって……ひっ、ひぐっ、ぐす……」


 世界樹の雫ってのは知らんが、治癒スキル持ちが、運良くここを通りかかる可能性はだいぶ低いだろう。 

 都内にダンジョンがいくつもあるうえ、ここはダンジョン深部。

 都合良く、凄い治癒スキル持ちが現れるなんてことは、ない。


「…………」


 正直、俺はこの子に対してあまり良い思いを抱いていない。

 だが、さすがに目の前で死にかけてる奴はほっとけない。


「…………」


 石化の毒か。毒……ああ、なんだ。簡単じゃあないか。


「アリシア。ちょっと待ってろ」


「え……? なにするの?」


「お前の石化をどうにかしてやる」


「え、む、無茶だよ……うれしいけど……でも……」


 俺は無視して、コカトリスの元へ向かう。


「え、ちょ……ゴローさん? 何するの……?」


 俺はアリシアに答える。


「焼き鳥の準備だ」



《アリシアSide》



 ……ゴローさんが石化を解除してくれるという。

 アタシの自業自得なのに、この人は……また、アタシを助けてくれようとしてる。

 どうして、か全くわからない。でも……アタシは、彼に助けてもらえることが……嬉しかった。


 それにゴローさんならなんとかしてくれるって……期待しちゃう。


 ……でも。


「や、焼き鳥ぃ!? こんな状況でなんで!?」


「良いから黙ってろ」


「ええー……」


 凄いシリアスな場面から一転して、なんだかギャグっぽくなってきた……。

 ご、ゴローさんふざけてるのかな……?


《いきなり焼き鳥始めてて草》

《おかしいな、さっきまで超王道な展開だったのに》

《ヒロインを助ける主人公ってね》


 ……そう。アタシが、さっき驚いたのは……このことだ。

 ダンジョン配信が、スタートしていたのである。


 そういえば、DDダンジョン・ドローンって、入った瞬間起動&配信開始するよう、初期設定されてるんだった……。


《つか、アリシアたん激やばじゃね?》

《コカトリスの石化って、世界最高レベルの治癒師か、世界最高の治癒アイテムじゃあないと直せないんでしょ?》


《ソロキャンおじは一体どうやって直すっていうんだ?》

《わからん……本人は焼き鳥の準備始めるし……》


 ……正直、困惑のほうが強いおかげで、恐怖心が薄れてきた。

 ゴローさんのおかげ……かな。


《で、ソロキャンおじはなにやってるん?》

《コカトリスの毛をむしってるで》

《は? 無理やろ》


《なんでや?》

《コカトリスの羽毛は、竜と同じくらい固いんやで? んで、体組織に固くくっついてる。人の手で剥ぐことは不可能や。解体スキルや素材化スキルがなきゃ……しかも、上級以上の》


《おまえ詳しいな、博士か》

《ネットによくいるにわか博士やろw》


 ……ゴローさんはコカトリスの羽毛をわしづかみにする。

 べりっ!


《ちょ!? まじ!? 素手でコカトリスの羽毛を抜いてへんかw》

《うそやん? うそや……(呆気)》

《どんなパワーしとんねんw》


 ……ゴローさんは人の手では絶対に剥ぎ取れない、コカトリスの羽毛をはいでいく。

 ほどなくして、見事な鶏の肉が完成した。


《てか何してるんソロキャンおじは》

《焼き鳥だとかぬかしてたで》

《つまり焼き鳥につかうのって……》

《コカトリス食おうっていうのかこのおっさん!》


 ……多分、そう。ゴローさんはリュックから包丁を取り出す。


《なんやそれ?》

《包丁?》

《アホか、相手はS級の魔物の筋肉だぞ? ただの包丁で切れるわけないだろ》

《とおもうじゃん?》


 ゴローさんは包丁を、軽く振る。

 すぱんっ!


《ふぁ!? コカトリスの首が吹っ飛んだ!?》

《うそぉおお!?》

《伝説のソロキャンおじ初配信でもお披露目してたで》

《あんときは深淵竜のぶっとい首をふっとばしていたんだ。これくらいできて当然ですねぇ》

《コカトリスもS級なんですがそれは……》

《あの包丁まじなんなの……?》


 ……前にも見たことあったけど……やっぱりオカシイよ、ゴローさん……。

 ゴローさんはコカトリスの首を落とした後、胸に包丁を突き立てる。


 びーーーーーーーーーーっ、と縦に腹を割く。


《うわ、ぐろ……》

《ちょ、これ放送のせられるんけ……?》

《まあ、肉をただ解体してるだけやからな……》

《魔物と人が戦う姿が普通に配信できてるし、大丈夫っしょ》

《アリシアたんのアカウントがBANされたらワイ泣くで》


 ……コメント欄も、大盛況だ。

 すごい……同接数がぐんぐんと伸びて行ってる……。


 やっぱり、ゴローさんこと、ソロキャンおじさんの話題性があるからだ。凄い……。


 で、ゴローさんといえば、あっという間に、鶏をさばいてしまった。


《コカトリスが肉と、あと内臓に綺麗に切り分けられてるわ》

《肉はわかるけど、なんで内臓までこんな綺麗に解体してるんやろか》


《ばっかおまえ、ソロキャンおじの話しきいてなかったのかよ。焼き鳥するっていってたろ?》

《あ、なるほど……焼き鳥ってモツもいるもんな》

《そうそう、ハツとかレバーとか》


 すると、ゴローさんはリュックから鉄串を取り出す。

 そして、レバーを包丁でそいで、鉄串に刺していく。


「レバーの焼き鳥……ですか」


「そうだ。炭火の準備もできてる」


「え、いつの間に……」


《ほんま手際よくて草》

《あれは! ひとりで炭火焼きができる、焼き台じゃあないか》


《そんなもんあるの?》

《賽銭箱みたいな形しとる》

《あれだ、ゆるキ○ンでみた》


 たしかに、ちっこい賽銭箱みたいな、銀色の鉄の箱があった。

 中を見ると炭が敷いてあって、すでに火が焚いてある。


 ゴローさんはレバー串を、炭火の上にかける。


 ジュウウウウ……。


《う、うまそうや……》

《でもなんでレバー? いや、美味しいけどさ》


「あ、あの……ゴローさん……なんでレバーなんて焼いてるんですか……」


 てゆーか、アタシあんまレバー好きじゃあないんだけど……。

 あの生臭い感じが好きになれないんだ……。


「黙ってくえ」


「えー……」


《のんでる場合かぁ……!(キック)》

《それ二部な》

《飲むじゃあなくて食うだし》

《レバーなんて美味いわけないだろ……》

《お、フラグか?》


 ゴローさんはレバー串を作り終えて、紙皿の上にのっける。

 そして、アタシにレバー串を渡してきた……んだけど。


「あれ……」


 なんか、レバー特有の生臭さをあんまり感じない。

 こうばしい炭火の匂いがする。


 串を持って、レバーを間近で見やる。

 ……良く焼いてある。

 非常に、肉厚だ。


「…………」


 見てるだけで、よだれが出てきた。

 生死とか、レバーが苦手だとか、そういった細かいことを一瞬忘れて……レバー串に食らいついた。


 がぶっ……!


「んぅ……♡」


 すごい、肉厚……! 弾力が、ある。でも固いわけじゃあない。

 歯ごたえがあるけど、かっちかちって感じじゃあないのだ。


 かめば、かむほど、じゅわり……とうま味が口のなかに広がっていく。

 レバーの生臭さなんて一切、ない。


 味はさっぱりしている。脂身がないから当然だろうけど。

 でも、濃厚なうま味が広がっていくのだ。まるで、北海道のしぼりたて牛乳のようなうまみとコクが、広がっていく。


《コメント忘れて食べてて笑う》

《いやでも……これはうまそうやな……》

《飯食ってないわいは、肉が焼ける音だけで腹減ってくるで》

《領域展開! 昼飯の流儀!》


 一口、二口……でひときれ食べきる。

 それだけにとどまらない。アタシは、串に刺さってるレバー串を、全部ペロッと平らげてしまった。


 脂身がないぶん、モツのほうが食べやすい!


《ちょ! あ、アリシアたん!?》

《足見て、足ぃ……!》


 ……足?


「え、ええっっ!? あ、足が……足が治ってる! 石化が解除されてる……!?」


《何が起きてるんや!?》

《わけが分からんぞ……!》

《いつの間に治癒スキルつかったんおじは!?》


「よし、問題ないな」


「あ、あえ、えっと……あり、ありがとうございます……」


「気にするな。俺もレバーは食いたかったからな」


「は、はぁ……」


《ありえん事態にありしあたん困惑してて笑う》

《しかしなんでレバー食っただけで石化がなおったんや? 世界最高レベルの治癒がないとなおらんはずやろ……?》


 そ、そうだ。そこは聞いとこう。


「あ、あの……どうしてレバー食べて、なおったんでしょう?」


「ああ……知らなかったか? 肝臓はな……」


「はい……」


「解毒作用が、あるんだよ」


 ……。

 …………。

 ……えっと。


《いやまあ、肝臓にはアルコールや薬物とか、有害物質を無害な物質に変える働きがあるけどさw》

《だからってそれとこれとは別の問題やろw》


《肝臓の働きとしては無毒化はあるけど、だからって魔物の肝臓食って解毒は意味分からん笑》


 ほんとだよ……。


《でも、魔物喰いなんてだれもやったことあらへんやん? だから、隠された効果があってもおかしくない……おかしくないかなぁ?》

《いやおかしいやろ。聞いたことないわ。レバー食って解毒とか》


《ただのレバーじゃあなくて、コカトリスのレバーには解毒作用がある……とか?》

《もうわけわからんすぎて笑うw》

《いやそれにしてもソロキャンおじの配信は予想外のことばかり起きてるからおもろw》


《同接も当然のように数千万突破してるしな》

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