味付きの水

 とあるバイトの日、先輩の杏奈さんと休憩時間が被った。

 杏奈さんは僕より3つ年上のフリーターだ。いつも仏頂面で、仕事を淡々とこなし、時間が終わればすぐに帰る。コミュニケーションも取らないし、正直苦手意識があった。

 休憩中、杏奈さんが出したペットボトルに目がいった。『天然水 レモンの味!』、薄い味しかしない水には抵抗があった。

 僕は物事ははっきりしたい主義で、それは味も同じだった。

「それ、美味しいですか」

 自分でも意識しないうちに聞いていた。

「美味しい」

「味が薄くないですか」

「ほんのりと香る良さがあるのよ」

 きっぱりとした言い方で、それ以上会話は続かなかった。


「おい、これどうなってんの」

 休憩後、接客中にミスをしてしまった。レジ打ちのミスだった。焦って謝ることしかできず、動けなないでいた。

「すみません、こちらで訂正いたしますね」

 どうぞ、と杏奈さんが対応してくれた。

 満足した様子でお客さんは帰っていった。

「大変だったね」

 変わらずの仏頂面で労われた。

「すみません、何もできなくて」

「後輩の面倒見るのは先輩の仕事だから大丈夫よ」

 切り替えていこう、と言われて水をもらった。今度はピーチ味の。


 このうっすらとある甘さに気が付けるようになりたいと思った。

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