episode5:夜の灯り

その夜、カインの部屋に向かう。

コンコンとノックすると、すぐにカインが顔を出した。お風呂上がりらしく、ホカホカしている。


「どうされました?」

「ちょっと話したいことがあって。」


そう言うと、中に入れてくれた。私は勝手にカインのベッドに座る。


「あ、そういえば、私が作ったアップルパイなくなってたけど食べてくれた?」


カインは夕方に帰ってきていたらしい。私は、ケベットとずっと図書館で話してたので、それに気付かなかった。


「ええ。ラミレス様が、ルウ様が俺のために作ってくれたと仰ったので美味しく頂きました。」

「そう、良かった。……それでね。」


私は今日ケベットと話したことをカインに伝える。


「王都の魔法学校ですか。」

「うん。約束したから頑張らないとって思って、ケベットに相談してみたの。カインも行くべきだよ。」

「そうですね……」


カインは難しい顔をして考え込んでいる。


「何悩んでるの?」

「いえ……アローニィ家の奥様たちから離れるのはいかがなものかと。俺は今ルウ様の従者ですけれど、学校に入学するとなると……」

「そうよね。そこ気にするわよね……。」


クラーク家は、仕えてくれているお礼としてアローニィ家に生活金を渡している。学校に入学するとしたら、主と従者という関係でいる訳にはいかない。生活費のことに困っているのだろう。


「それにですね。俺はずっとルウ様の従者として一緒にいたいんですよ。学校に行ったら一緒にいれないじゃないですか!」

「ん……?」 


熱く語られて私は一瞬ほけーっとしてしまう。けれど、切り替えて私はカインに告げた。


「あのねぇ、一生私の従者って訳にもいかないでしょ。私はカインに、奥さんも娶って家族も作って幸せに過ごしてもらいたいのよ。」


すると、カインは絶望したような顔をする。


「つまり、俺をクビにすると……。」

「なんですぐそうなるのよ……」


私は立ちっぱなしのカインを横に座らせる。


「私の従者だからっていう理由であなたの人生を縛り付けたくないだけ。もっと自由に生きて欲しいの。」

「……俺はもう必要ないですか。」

「そんな訳ないじゃない。きっと私は一生あなたを頼ることになるでしょうね。」

「なら……。」

「あのねぇ!」


私は埒が明かなくなって立ち上がった。


「あなた私を独り立ちさせない気?私の夢はまず立派なレディになることなのよ!」

「レディ……」


呟いたカインはぷっと、吹き出した。


「なによ失礼ねぇ!」

「すみません。ルウ様がレディに……フフ」


ちょっと、頭ポカッぐらいやってもいいんじゃないのこれ。


「……そうですね。ルウ様にそのような夢があるならば俺も協力しないといけませんね。」

「分かればよろしい。」


私はフゥと息をつくと、ベッドに座った。


「まだ時間はあるから、返事は急がなくても全然大丈夫よ。私がそのつもりだってことを言っておきたかったの。」

「ええ」

「ということでカインも考えておいてね。じゃあ、おやすみなさい。」


部屋を出ようとすると、カインに急に腕を引っ張られた。


「ちょっと、何?」


すると、カインはハッとしたように「すみません。」と腕を離す。


「おやすみなさい、ルウ様。」

「……おやすみ、カイン。」


切ない表情を浮かべるカインの顔から目を逸らし、私は自室に戻った。

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