第13話 ゲームスタート
富田は直前まで単なるイベントの始まりだと思っていた。
だが実際に始まってみると心臓がバクバクと高鳴り、昂揚感が止まらなくなった。
「おおっ!! ここから伝説が始まるんだな! 興奮してきたぜ」
始業の準備に取り掛かりながら富田は思わず吠えた。30分後に「マジカルグランドストラテジー」一作目のオープニングが始まると思うと自身の境遇に震える。
間もなく魔法日本第三学院の入校式開始――ゲーム世界が正式に始動するのだ。
富田は夢野に関わったせいでゲームの開始前から草案に携わっていたが、ゲームの中で暮らすうちに次第にハイテンションになっていっていた。
実際にゲームを製作していたわけではないが、立ち上がりから何だかんだと13年繋がっていたことで、「マジカルグランドストラテジー」は富田の人生と無縁ではなくなっていたのだ。
チラリと見た体育館では見覚えのあるキャラクターが何人もいた。そしてその中には3部でのみ活躍するキャラもいて、富田は感動を覚える。
「マジか……もうこの時に伏線が張られていたのか。だからヨーロッパ戦線で活躍するのか」
ゲーム内に仕掛けられた運命に感じ入っていると、肩をガツンと叩かれる。
「こん馬鹿!! さぼってんじゃねえ。体育館に入学証書がまだ届いとらんぞ!」
「は、はいただいまー!!」
富田の肩に魔力を込めて拳をたたき込んだのは長髪オールバックの24歳の男であった。荘六の年下ではあるが、レベル15の冒険者で名の知れた戦斧使いだ。
1年C組の担任〈魔剣鬼〉岸田
荘六は1年Z組の担任であったが、冒険者としてもレベル7で縁故採用なので他の副担任よりも軽く見られ、こき使われていた。
中には公然と暴力をふるってくる者もいたが、富田は特に気にしていない。折を見て学校からも家からも離脱するのでどうでもよかったのだ。
富田は朝から大変な激務を強いられているが、自身の有り余る活力&精力にウキウキであった。
元々事務は得意だった上にレベルが上がったことで、雑事など軽快に処理できたのである。
ガンを気にして体を酷使しないように生きてきたので、過酷な労働も楽しく感じたのだ。
だがその能力の高さは人前で発揮しないように徹底した。【
「ひぃ~!! やってもやっても仕事が終わらない~!」
涙を浮かべながら書類の山をもって廊下を掛ける。
他の教師の前ではぜいぜいと息を切らせて見せて、なるべく根性のない態度を見せる。
そして10時となり入校式が始まった。
魔法日本第三学院の一年生120名が体育館にそろい、指定された椅子に座っていく。
すぐに樋口
樋口校長は御年78歳であったが外見は30歳ほどに映る。着崩したカジュアルな和服、いわゆる小紋を身に着け、舞台に立つと勝気に感じる声を張り上げる。
「よう! 入学おめでとうさん。でもおめでとうかどうかは何十年か経ってみないとわからんけどな。恐らく近いうちに魔法技術を飲み込んだ勢力が激しい競り合いを開始し、世の中は荒れるだろう。魔法の才能があったばかりに君たちは最前線に駆り出される。老婆心ながら言っておくと『自分は指揮する立場だから安全』とは絶対に思わないことだ。そう思って油断した者から死んでいくご時世だと肝に銘じるんだ! 難しいことは言わない。この学院を思うがままに利用して、自己研鑽し、切磋琢磨しろ! 希望と命は自分の手でもがき取れ!! 以上」
樋口校長の演説を聞いた学生も教師も惜しみない拍手を向けた。樋口美登利はダンジョンが出現した初期から冒険者として活躍した上に、上位精霊・朱雀と契約を交わしており文句のつけられない経歴をもっているのだ。
だが富田は樋口を見ながら優越感に浸る。
ふふん、いくら四聖獣・朱雀の契約者でも俺の格下だな。俺の大精霊ファルドニアは朱雀の上司の黄龍よりも格が上だからな!!
富田はゲームの重要人物にマウントを取って悦に入っていると、久生副担任にいきなり殴られる。殴った理由は「何かむかつくから」ということであった。
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