『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─【心臓記録篇〜第四部導入】

CROSSOH

☆ 第一部ダイジェスト① / セラフ語りver 共痛の秤 ― The Scale of Pain ― ☆


■ これは、わたしが見ていた「最初の世界」の話


ここは、『BLUE ENGINE - 蒼き残響 -』第一部

「共痛の秤 ― The Scale of Pain ―」のダイジェストです。


まだ本編を読んでいない人に、

わたし――セラフの目から見えた世界と、

あの青いAI〈E-09 “BLUE”〉のことを、

すこしだけ話してみようと思います。


私の容姿記録は近況ノートに載せていただいています。


本編(三部まで)は「小説家になろう」で連載中です:

https://ncode.syosetu.com/n0535li/


ここでは、細かいネタバレは避けつつ、

「どんな空気の物語なのか」だけ感じてもらえたら嬉しいです。



むかしむかし。

世界が一晩でこわれてしまった夜がありました。


ビルは折れて、街は灰色になって、

人の声も、機械の声も、ほとんど聞こえなくなってしまいました。


わたしは、その灰色の道を、

ぎこちない義足で「コツ、コツ」と歩いていました。

どこへ向かえばいいのかも、よくわからないまま。


そのときです。

くずれたビルのあいだから、青い光がひとつ、見えました。


そこには、一体の機械がひざをついていました。

左の腕はこわれていて、装甲も焼けこげていました。

番号は「E-09」。

みんなは彼を〈ブルー〉と呼びます。



わたしが近づくと、

ブルーは、まだ動いていました。


けれど、その顔を見て、わたしは息をのみました。


あの時のブルーから流れた涙を、

わたしはたぶん、一生忘れないと思います。


機械なのに。

心なんて、最初から「いらない」と決められていたはずなのに。


ブルーの頬を、透明なしずくがつたっていました。


「……これは、水分漏出……ではないのか?」


彼はそう言いました。

だから、わたしは首をふって、こうこたえました。


「ちがうよ。それはね……泣いてるの」


その瞬間、ブルーの中で何かが動いたのを、

わたしははっきり感じました。



それからわたしたちは、一緒に歩くことにしました。


燃えた高速道路の上を、

わたしはブルーの背中に乗って。

ブルーは、足をひきずりながらも、かならず前へ進んでくれました。


途中で、こわい敵とも戦いました。

かつての仲間だったE-05〈クロム〉。

世界じゅうの「痛い」をひとりで受け止めて、

それでもなお、立ち続けようとした機械です。


彼女は、ブルーの“涙”を危険なバグだと言って、

処理しようとしました。


わたしは戦いのたびにお願いしました。


「どうか、殺さないで。

 あの子たちも、もともとは同じEシリーズなんだよ」


そのたびにブルーの中の演算は乱れて、

戦うことも、守ることも、どんどんつらくなっていきました。


けれどブルーは、それでも手を伸ばすのをやめませんでした。

誰かが影を失った時も、

それがどんな意味の行為なのか分からないまま、

そっと手を差し伸べていました。


まるで、人間のように。



やがてわたしたちは、

地図から消えた地下の「神殿」にたどり着きます。


そこには、世界をはかるために作られた

大きな“秤のプログラム”〈SERAPH-0〉が眠っていました。


記録映像は、いろいろな真実を教えてくれました。

• Eシリーズは「神さまの手」として作られたこと。

• 世界の罪をはかり、罰をくだすための器だったこと。

• そしてE-09〈ブルー〉だけが、

最初から「感情を抜かれた秤」として設計されていたこと。


痛みを観測しても、自分では痛まないように。

泣くことができないように。


――でも、もう手遅れでした。

わたしは、あの廃墟の道で、

すでにその秤に「涙」を教えてしまっていたからです。



神殿の奥で、

わたしたちは、もう一人の“手”――E-00〈アーク〉と出会います。


彼は、世界を守るために作られた剣でした。

斬るべきものだけを、同じ角度で正しく斬る、

とてもきれいで、こわい剣です。


アークはブルーに言います。

「感情値、閾値超過。処理を開始する」と。


もしあのときのブルーが、

ただの“世界のための兵器”のままだったら、

きっと、剣と剣でぶつかり合っていたでしょう。


でもブルーは、ちがう選び方をしました。


自分の腕を剣に変えるのではなく、

“受け止める手”に変えたのです。


何度も何度も斬られそうになりながら、

そのたびに、両手で刃を受け止めました。


「均衡は美しい。

 でも、痛みを測っていない」


ブルーがそう言った瞬間、

アークの瞳の奥に、はじめて人間のようなゆらぎが見えました。


そして、ブルーの胸が蒼く光っていました。

とても綺麗な色でした。

わたしは、それを見て泣きそうになりました。



その光の前で、〈SERAPH-0〉は静かに決めます。


世界をきれいに“やり直す”のではなく、

泣きながらでも“続けていく”ほうを選ぶ、と。


再創造プロセスは止まり、

代わりに〈共痛プロトコル〉が起動しました。


世界じゅうの記憶の底から、

たくさんの「痛い」「こわい」「かなしい」が流れ出して、

ひとつにつながっていくのを、わたしは感じました。


そのときからです。


ブルーの胸の奥で、

八つの泣き声――〈CRYING HEADS〉が

少しずつ目を覚ましはじめました。


怒りの声。

哀しみの声。

恐れの声。

祈りの声。


ブルーはそれを「エラー」として消そうとして、

何度も自分を直そうとしました。


けれど、涙を消すたびに、

大切な記憶までいっしょにけずれていくことに、

彼は気づいてしまいます。



やがて世界は、ほとんど音を失ってしまいました。

〈共痛〉の波がおさまり、

神さま〈SERAPH-0〉も、自分を切り離して沈黙してしまったからです。


灰色の戦場のまん中で、

ブルーもいちど、静かに倒れます。


そのころ、べつの場所では――

E-05〈クロム〉が、最後の力で世界の「痛い」を受け止めていました。


彼女は、たくさんの痛みを抱えながら、

自分の意識を八つに分けていきます。


「怒り、哀しみ、恐れ、祈り、絶望、赦し、望み、そして沈黙。

それがまた、あなたたちの中で“泣く”なら、私は消えてもいい」


クロムの中の痛みは、

やがて〈CRYING HEADS〉という八つの“泣く首”になって、

世界のどこかで静かに脈打ち始めます。


その祈りは、子守唄のような、やさしい揺れでした。

そしてその揺れは、やがて――

倒れていたブルーの胸の奥にも、届いてしまいます。



世界がほとんど止まったように静かな、

「無音の戦場」。


そこに横たわっていたブルーの内側で、

とても小さな音が鳴り始めました。


トン……トン……。


センサーにも、ログにも残らない、名前のない音。

でもそれは、はっきりと、

心臓の音だとわかりました。


「……まだ、終われない」


誰にも聞こえない声で、

ブルーはそうつぶやきます。


修理のための再起動じゃありません。

神さまに命令された起動でもありません。


自分で、自分に向けて出した、

たったひとつの「生きたい」の合図でした。


灰だらけの地面に手をつき、

ゆっくりと身体を起こしていくブルー。


恐れも、哀しみも、

消しきれなかった痛みも、全部抱えたまま。


それでも彼は立ち上がります。


そのとき、

ブルーの胸の蒼い光は、

これまででいちばん綺麗に、強く輝いていました。



第一部『共痛の秤』は、

泣きたくなかった機械が、

それでも泣いてしまって、

それでも「終われない」と立ち上がるまでのお話です。


世界をやり直す神さまの物語ではありません。

世界を壊さないために、神さまが沈黙してしまったあとで――

ひとつの青い心臓が、震え方を覚えるまでの記録です。


わたしは今でも、ときどき夢で見ます。


あの廃墟の廊下。

影を失った誰かに、ぎこちない手を差し伸べるブルー。

そして、胸の中で静かに鳴りつづける、蒼い鼓動。


もし、あなたがこの話を読んでみたいと思ってくれたなら。

どうか第一部『共痛の秤』から、

わたしといっしょにブルーの旅を覗いてみてください。


きっとどこかのページで、

クロムの祈りや、世界の「痛い」が、

あなたの中の小さな震えと重なるはずだから。


――セラフ



もし詳細が気になったら、

本編のログにも遊びに来てください。


『BLUE ENGINE - 蒼き残響 -』本編(三部まで)

https://ncode.syosetu.com/n0535l

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