《取材記録:中原純子さんの話》
本日の報告(2025/11/13 20:15)
昼頃、中原家の山奥の小さな家に到着した。
狭い六畳の部屋に、中原さんは小さく座っていた。聞いていた年齢よりも老けて見える。
三田氏が外から声をかける。
「三田です!お久しぶりです!」
中原さんは顔を上げ、軽く笑った。意外にも愛想はよく、私たちは狭い部屋に通された。
座るとすぐに話は事件のことに及ぶ。
30年前の林姓連続殺人事件について調べていると告げると、中原さんは息をのみ固まった。
三田氏が言う。
「この子はもうヤマサマまで行き着いてるんよ。この子清一さんの孫。」
すると中原さんの顔色がハッと変わった。そして、中原さんは顔を伏せ、静かに泣き始めた。
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■中原さんの懺悔
「20代だったあの日……怪異に悩まされ、父と母は同時に自死しました。なんでうちばっかりがって、腹が立って、家にあった資料をひっくり返していたら、曽祖父が書いた『呪い返し』を見つけたんです」
その内容はこうだった:
山の木の枝33本を折り、集めて焚く
紙を三枚入れる。「嘘」「真」「誓」
本来の契約は林家にあることを心の中で祈る
「見様見真似でやってみたら……次の日、林という名字の女が、目をくり抜かれて死んだんです」
林桃子だ。
「日を跨いでまた林という男が。」
林健二。
「で、最後は男も女も一人ずつ。」
林翔平と林日菜子。
最初の二人の目には性的なものが当てられていた。それは何故かと中原さんに問う。
「曽祖父の資料によると、神さまには性別がないので、要らないものを代わりに宛がったんやと思う」
怪異が人を殺した?
そんな現実離れした中原さんの供述に半信半疑ながらもでも何故か現実感がある。
あの紙もでは神様が?、私が聞くと中原さんは首を振った。
「最後の二人の時は私はヤマサマに同行したんよ。ヤマサマが男も女も操って、2人ともが殺されるのを私は空き地の裏に隠れて見てた。最後にあの紙を入れたのは私。ヤマサマにもうこんなことは終わりにしてって。」
あの紙「終わり」「完全」「恨み」「あやまち」は中原さんが入れた。
儀式を終わらせようとしての事だという。
では小林は?鑑識は何故あの空き地に戻ったのか。そして彼を殺したのもまたその神さまなのか…?
「彼は鑑識としてなにか神さまの触れちゃいけないところに触れた…。そしてそれを追求しようと思ったから…消された…。」
中原さんはずっと顔を抑えて涙を流している。
「私の軽率な行動で、関係ない人が酷い死に方した…私が殺したみたいなものなんです…ごめんなさい…」
中原さんが顔をあげた。
中原さんは笑っていた。
中原さんには目が無かった。
本来あるべきところにない、本来ないべき所にある深淵がこちらを見ている。
私は背筋が凍った。
静まり返った部屋に、微かな空気の揺れを感じた。
中原さんの声が、突然変化した。低く、ざらつき、男の声に似た不自然な響き。
「この契約はもう時期終わる…次の契約をまた結ぶ…」
目のない深淵が、私を捉える。顔は漆黒の闇となり、形の定まらない影が身体を覆う。指先は長く、節が曲がりくねり、空間そのものを歪めるように揺れた。
呼吸が重く、空気が肌に絡む感覚——まるで部屋全体が生き物になったようだ。
部屋の灯りが揺れ、影が壁を這う。黒い人影が、こちらをじっと見つめる気配。
怪異は、ここにいる——現実として。
そして、次の契約を求め、私を評価しているかのような視線を投げかけてくる。
私は震える手をさらに震える手で押さえ、目を離せなかった。
山の神と海の神の残滓。神性を失い、人知を超えた存在。
怪異は消えていない。「終わった」わけではない。
今も動き、待っている——次の契約を結ぶために。
「何ぼさっとしてんの!逃げるよ!」
三田氏の声ではっと我に変える。
震えて腰の抜けた鈴木氏を引っ張りながら山中の家を後にする。
ふと、後ろを見た。
目を失った中原さんは笑っていた。そしてその後ろにはそれ以上に笑っている炭のような色の目が沢山の怪異が立っていた。
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