TS転生した俺は魔法少女になれないらしい

環状線EX

プロローグ


 魔法少女。

 そんな言葉を聞けば、随分と平成臭のするものであると感じる。

 最近だって魔法少女を題材にした作品は数多くあるだろうが、やはりその分野が流行っていたのはずっと前だろう。

 それこそ、俺が小学生の時くらい。


 しかし、そんな魔法少女と言う単語を最近またよく聞くようになった。

 どうやらとあるゲームが発端らしい。

 ソシャゲで題材は魔法少女。

 キャラメイクの自由度が高いとかで話題になったらしい。


 SNSでは自分のオリジナルのキャラクターを作成してあげるのが流行っていると言う。

 やれ有名人似のアバターを作るだの、人気キャラの再現だのと。

 ただ、一番広く浸透しているのだと実感させるのは一般層、いわゆるアニメ、ゲームとは無縁に近い人種までも流行に乗っている事だろう。

 「休日の私の格好」とか「本気メイクした時の私」とか。

 そんなのを流し目で見る機会がここ最近多い。

 しかし、MBPIだのなんだのと騒いでいた時も手を出さなかった俺だ、当然態々ダウンロードしてやろうなどとは思わなかった。


 :お前もやってみろよ

 http://www.mahousyoujyomaker.jq/xxxxx/xxxxx


 大学に入って少し、特に新たな友人をつくることもなくそんな俺に連絡を取る者も少ない。

 とは言え、高校が一緒であった縁から学食を一緒に食べる程度の友人くらいはいて、そんなチャットが届いた。

 リンクをタップすれば件の「魔法少女メーカー」とか言うアプリだった。

 ゲームを謳っていても肝心の内容には触れられず、ただただ承認欲求のための初期キャラクリエイト画面だけが出回るそれ。


「着せ替え要素だけでハマるかよ」


 そんな言葉を呟きつつ、俺は少し試してみることにした。

 何にでも言えることだが、批判するなら一度ちゃんとやってみなれば筋は通らない。

 ただ、貶めるだけのための言葉は誹謗中傷そのものだ。

 とは言っても、UIは出回っているから見たことあるし、ハマるとは思え──


「おいおい、こんなにブティックに種類あるってのに学生服のバリエーションこれだけかよ」


 私服でもいいが、やはり魔法少女。

 学生であってなんぼだ。

 だが、学生服の選択肢が著しく少ない。

 大体、ブラウスとリボン、ブレザーのセットが色含め固定されているのはいかんともしがたい。

 いや、分かる。

 タイトル画面にいた女の子がこれと同じものを着ていたから設定的に色違いはないと言う事くらいは。

 しかし、セーラー服すらも種類に乏しく、カーディガンやセーターを学生服に合わせると言う事すらできない。

 何が自由度が高いだよ。


 いや、待てよ。


「ガハハ。ジャケットとネクタイのセットを着せて疑似JKにしてやるぜ!」


 別に本来の用途として設定された組み合わせをする必要はない。

 学生服でなくとも、そう見えればいい。


 髪はプラチナブロンドにしよう。

 正規の学生服を着用していない女が優等生じみた黒髪をしているわけがねぇ!

 グラデーションで毛先の色をアッシュでわずかに変えて深みを出す。

 そして、瞳はマリンブルー。

 せっかくアニメ調なんだ大人しい色にしてたまるかよ。

 派手過ぎない金髪から覗く紫がかった蒼い瞳、最高だぜ!


「コンセプトは彼氏が途切れたことのない美少女大学二年生、その高校生時代!可愛い系のメイクのせいでオタクたちに勘違いさせるが、しかし染めた髪によって治安の悪さも醸し出す!」


 やはり俺は天才だ。


「ガハハッ勝ったな風呂入ってくる」


 満足した俺はスマホをほっぽり出して浴室へと向かった。

 全裸になってすがすがしい気分になって足を踏み入れた時、不意に視界が傾いた。

 銭湯で石鹸を踏んだわけでもないのにいとも簡単に俺の右足は前へ前へと滑っていき、自分の頭と同じくらいの位置へと上がっていた。

 いや、正確には体勢を崩したせいで頭の位置が後方へと下がり、相対的に足の高さがそれを越え、端的に言えば風呂で滑って後頭部を打ち付けんとしていた。


「あ、やぶっ──」


 「やばい」なんて言葉も発することも出来ずに、俺は意識を飛ばすに至った。






 ◆


 頭を打っておかしくなったのだろうか。

 そう自問自答を繰り返すのも何度目か。


「今日で一週間か……」

 

 風呂で頭を打ってから一週間経った今でも自分に起きた事態に処理が追い付いていない。

 あの日、全裸で気を失った俺はしばらくして目を覚ました。

 もちろん全裸でだ。

 随分と情けない自分に嫌気がさしながら痛む頭を押さえた。

 そして風呂に備え付けられた鏡を見て言葉を失った。


 何故ならば、本来鏡に映るであろう俺の姿は無く、代わりにブロンド髪をたらした女が映っていたからだ。

 おかしい。確かに転ぶ前に見たのは自身の姿だったはずだ。

 転ぶまでの一瞬の猶予で息子とケツ毛を同時に視界に収めたはずだ。

 大概童顔だったから生えてないモノかと思ったが、男の子なんだねと俺の心のイマジナリーお姉さんが笑っていたはずだ。

 

 だが、状況の理解に苦しみながらもどうにも鏡の中の女が俺と同じ動きをノータイムで真似するのを見て直感した。

 性転換、俗にいうTSなるものをしていると言う事に。

 さらに言えば、その姿は紛れもなく「魔法少女メーカー」にて俺が作ったキャラだった。


 ただ、驚きはそこで潰えなかった。

 残念なことに、心を落ち着けて外の空気でも吸おうと考えた俺が見たのは現実ならざるものだった。

 魔法少女。

 実にタイムリーでありながら本来本物を見ることはないであろうそれがごく自然に生活に紛れ込んでいた。

 魔法少女なんていうのは、皆に秘密の存在ではないのか。

 そんな疑問を浮かべるのが精々で、やはりすぐに受け入れることは出来なかった。


 しかし、一週間がたち、嫌でもファンタジー現実と向き合った俺は概ね現状を受け入れるに至った。


「つーか、朝早いんだよ」


 悪態をつきつつ準備をする。

 TS転生した俺を待っていたのは学業だった。

 大学生であった身分は女子高生へと変わり、律儀に起きて学校に行く。


 少し前まで似たような生活を送っていたとは思えないほどに、早起きが難しかった。

 一時間目が終わった時間でも前世なら余裕で寝てたぞ。


 ああ、それと今通っている学校は制服があるのだが、それが転生前にやっていた「魔法少女メーカー」のタイトル画面で女の子が着ていたものと同じだった。

 それを加味すればここはゲームの世界である可能性もある。

 と言うか多分そうだろう。


 しかし、現在俺は可愛らしいそんな制服ではなくシックな黒いジャケットにネクタイを締めてプリーツスカートをはいていた。

 この服なーんだ?

 そう、俺がキャラメイク時に着せた服だ。

 そりゃあ、制服に見えるようにブレザーに見えるような形を選んではいる。

 しかし、指定された可愛らしい制服を着こんだ生徒たちに紛れるのは無理がある。

 とは言え、これには訳があった。

 端的に言えば防犯面の話だ。


「────!!」


 そう、例えば今みたいに登校途中に怪物に襲われたとする。

 そんな時、魔法少女ではなければ対抗手段を持たない。

 するとどうなるだろうか?

 

 答えは死ぬ。


 魔法少女への要請を行う機関が存在し、そこへ通報することはもちろんできる。

 だが、やはり彼女らが到着する前に死ぬ確率は高い。

 怪物にはデカい奴や小さい奴、知能がある奴に強い奴弱い奴、様々な種類がいる。

 そして一般人が襲われることが多いのが小さくて弱い奴だ。

 ただ、何の因果か、宝くじの4等くらいの確率で襲われる事態に七等くらいの頻度で襲われ、更に相手はデカくて強い奴がほとんどだ。

 俺もちいよわが良かったよ。


 ただ、それでもこの一週間を生きながらえたのもこの制服のおかげであった。

 と言うのも、この制服は服とは思えないほど頑丈だ。

 殺し屋の集うローマにあるホテルの地下でテーラーにオーダーしたのか疑うほどだ。多分銃弾も防げる。

 とは言え、生身なことには変わらない。

 攻撃を受ければダメージを受ける。


「うぐっ」


 いくら頑丈と言えど、怪物相手。

 マジカルでプリティな魔法少女相手に効く攻撃力には抗えない。

 とは言え、まだこの服には機能があった。

 それは、自己修復機能と着用者への回復機能だ。

 何とも便利である。

 とは言え、痛いものは痛い。

 通報した俺は泣きながらその場を凌ぐのだった。

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