第46話
つかさは誰とも結婚しなくてよい、大切な人をつくって失うくらいなら、一人で生きていきたいと思っている。
だが、その思いとは裏腹に、新琉への恋心がどんどん膨れ上がっていくのを自覚している。
自分が振った相手と二人で動物園を回るなどということはするべきではない、と思いながらも。
「……分かった。二人でまわろう。あ、飛鳥と新菜ちゃんを二人っきりにさせたいもんね!」
つかさは新琉の誘いに応えた。
本当は自分自身が新琉と一緒にいたい、ということは言えなかったが。
新琉はつかさの答えを聞いて、パッと口角を上げ無邪気に笑った。
「よっしゃ! ……あ、新菜ちゃんたちのためだもんね!」
と、慌てた様子で新琉は言った。
(指宿くんと二人で動物園……嬉しい……)
つかさの心の声は、もちろん新琉に聞こえており、新琉は自然に緩む口元に、必死に力を込めた。
──学校の最寄駅に着くまであと十分程度だ。
新琉とつかさの間に沈黙が訪れた。
つかさはバクバクと心臓を高鳴らせながらも。
つかさは新琉に対して不思議に思っていることがあり、それを切り出してみようかとタイミングを見計らっていた。
それは新琉ほど、観察力のある人をつかさは見たことがない、ということだ。
まるで、全てを分かっているかのような口振りで話すことがある。
それに、自分の心を読まれているかのように感じることもある。
意を決してつかさは口を開いた。
「……ねえ、指宿くんってどういう人生送ってきたの?」
突拍子のない質問だが、新琉は特に驚いた様子もなく、答えはじめる。
「ごく普通の人生だよ。──しいて言うなら2年前に交通事故に遭ってから脳の配線が変わったことくらいかな」
「……なにそれ?」
「それまでは凄く記憶力が良くてさ。大した努力をしなくても、常に成績はトップだった。──でも、中2の時に交通事故に遭って。頭を打っちゃったんだよね。──それからは、すごく努力しないと成績は維持できなくなっちゃった」
「……そうなんだ。大変だったね」
つかさは交通事故と聞いて、ゾクリと背筋に悪寒が走った。
一気に嫌な記憶が
つかさの父親は飲酒運転の車に追突され、命を失った。
全く予期せぬ出来事に、つかさやつかさの家族は嘆き悲しみ、疲弊した。
つかさは忌引きが明けても、しばらくの間、学校に行けない日々が続いた。
だが、そんな中でも、隣の家である
それにつかさの母親自身、悲しみに暮れたのはほんの僅かな期間だけで、それからは決して弱音は吐かず、シングルマザーとして仕事もしながらつかさに大きな愛情を注ぎ続けている。
(──私は、大切な人を作りたくない……失うのが怖い……)
つかさがそんなことを思いながら、曇った表情を浮かべている様子を、新琉がつかさ以上に辛く苦しげな表情で見ている。
だが、視線を落としているつかさがそれに気づくことはなかった。
「命が助かって、本当に良かった」
つかさが呟くように言った。
(……もし私のお父さんみたいに、命に関わる事故だったら、指宿くんに出会うことはなかったんだ……)
つかさは心の中で呟く。
そして、新琉と出会うことがなかった自分の姿を想像すると、今まで感じてきたどの恐怖よりゾクリと背中が冷えるのを感じた。
「──ありがとう」
新琉は穏やかな声音でそう応えた。
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