第9話

 ──その後、入部届を提出し、飛鳥達四人は正式に写真部の部員となった。

 女子メンバーは初日からずいぶんと打ち解けたようで、ファーストフード店に寄り道するらしい。

 直太と風雅はマイペースにそれぞれのタイミングで部室を出て行った。

 結局、飛鳥は新琉と帰ることになった。

 校門を出て、駅までの道を歩いていると。

「ねえ、飛鳥くん、協力してくれない?」

 新琉が唐突に言った。

 無論、飛鳥は意味が理解できずに困惑する。

「……何に?」

「この前キミが指摘した通り、僕、霧島さんのことが好きなんだ」

「それで、俺に仲を取り持てと?」

「そういうことになるね」

「やだよ。この前、やらかしたばっかだろ。俺、思ったこと言っちゃったりするから、俺が協力したところでロクなことにならないよ」

「……僕が新菜ちゃんの双子の兄だって分かってるの? 協力したら飛鳥くんにもメリットあるよ。新菜ちゃんとの仲を取り持つとか」

「……まあ、確かに……って、なんで俺が指宿いぶすきさんのこと好きだって思うんだ!?」

「だって、大概は新菜ちゃんのこと好きになるし」

「お前、シスコンか?」

「だって事実だもん。それに、飛鳥くん、隠してるつもりなのかもしれないけど、全然隠れてないよ。新菜ちゃんにだけ、ちょっと優しいし。基本、顔赤いし、にやけてるし。新菜ちゃんのこと好きでしょ?」

 新琉は飛鳥が新菜のことを好きだと確信した様子で言った。

「まあ……」

 新琉はにっこりと口角を上げ、笑った。

「じゃあ、そういうことでよろしくね!」

「いや、ちょっと待て。そもそも、この前も言った通り、つかさの方も新琉に気がありそうだったぞ。告白したら、普通にうまくいくんじゃないのか?」

「まだ、だめだよ。きっとフラれて口も聞いてもらえなくなる」

「なに、それ。まだ出会って一週間だろ? なんでそんなことが分かるんだよ」

 言いながら、飛鳥はまさか、と思った。

「……聞いたのか? 父親のこと」

「まあね。本人の口からじゃないよ。新菜ちゃんからでもない。だから、僕が知ってること、霧島さんには言わないでね」

「……分かったよ」


 つかさの父親は二年前のクリスマスの朝、亡くなった。

 交差点の信号待ちの人混みに、飲酒運転の車が突っ込んだのだ。

 三人が重軽傷、一人死亡。

 その事故で亡くなったのが、つかさの父親だった。

 一限目の途中に教師に呼ばれ、その後、顔面蒼白で教室を出て行ったつかさの顔は今でも脳裏にこびりついている。

 それから、つかさはなにも変わっていないようで、すごく変わったのだ、と飛鳥は気付いていた。

 仲の良い両親に憧れ、中学生ながらも早くで結婚したいと目を輝かせながら言っていた。

 しかし、父親が亡くなってからはそれを一切、言わなくなったのだ。

「ねえ! とりあえずさ、今度の日曜、四人で出掛けない? 新菜ちゃんには僕から聞いてみるから、霧島さんには飛鳥くんから聞いといてよ」

「ああ、分かった」

「じゃあ、また明日!」

「ああ、また」

 新琉は一度、右手の道に入った直後、おもむろに振り向き、「ねえ」と飛鳥に声を掛ける。

「なに」

「──キミってやっぱり優しいよね」

 それだけ言うと、新琉はクルリときびすを返し、帰って行った。

「……なんだ、それ……」

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