第2話

 

「まさか飛鳥あすかと同じクラスとはねー。ねね、昨日の新入生代表挨拶した子と同じクラスだね! 可愛かったなー。仲良くなれるかな?」

「……は、話し掛けてみれば? ついてってやるから」

「自分が話したいんでしょ! でも、乗った! 話し掛けよう!」


 教室に入ると新菜にいなは既に自席に着いている。

 そして、新菜にいなの前には一人の男子生徒が立っている。

 その男子生徒はパッと周りが華やぐような愛らしい笑顔を見せている。

 童顔ではあるが、アイドルのような整った顔立ちをしている。

「……彼氏かな?」

 つかさがポツリと呟いた。

 飛鳥あすかは少なからずショックを受けた。だが、最初で彼氏がいると分かれば受ける傷は浅くで済む。

 そう飛鳥あすかは自分に言い聞かせた結果、飛鳥あすか新菜にいなに話しかけることにした。

指宿いぶすきさん、おはよう」「オハヨー!」

 飛鳥あすかとつかさのほぼ同時の声かけに、新菜にいなは目を見開いた。

 飛鳥あすかとつかさの顔に交互に視線を向ける。そして、キョロキョロと周りを見回したあと、「私?」と呟いた。

 飛鳥あすかとつかさが頷くと新菜にいなは少し考えた後、「……おはよう」と答えた。

新菜にいなちゃん、友達?」

 新菜にいなと一緒にいた男子生徒も返事が聞く。

「友達になりたいなって思って! 私は霧島きりしまつかさ。こっちは弟子丸でしまる飛鳥あすか! よろしくね」

 すかさず、つかさが答える。

「そうなんだ。新菜にいなちゃん、良かったね。新菜にいなちゃん、あまり自分から話し掛けないから友達できるかなって不安だったんだ。仲良くしてあげて」

 新菜にいなのことは勝手知ったる関係らしい。

「……やめてよ」

 新菜にいなは眉間にしわを寄せ、少し口を尖らせる。

「あ、僕、指宿いぶすき新琉あたる新菜にいなちゃんの双子の兄なんだ」

 ──兄……。

 飛鳥あすかは胸を撫で下ろす。

「なんだ、彼氏かと思った……」

 呟いた飛鳥あすかに対し、三人が面食らった顔をした。

 新琉あたる新菜にいなの彼氏ではないことを知り、安堵あんどしている時点で、飛鳥あすか新菜にいなに恋心を抱いている、と自白しているようなものだ。

 つかさはニヤニヤと笑みを浮かべ、新琉あたるはそれが当たり前かのような誇らしげな表情を浮かべ、新菜にいなはなんとも言えない気まずさを伴った表情を浮かべている。

 しかし、飛鳥あすかがそれに気づくことはなかった。

「じゃあ、僕そろそろクラスに戻るね」

 人懐っこい笑顔に、飛鳥あすかは面食らう。

 一人残された新菜にいなはどうしたものか、といった様子で眉を下げ、そわそわと落ち着かない様子だ。

「あ! 昨日の新入生代表挨拶、良かったよ!」

「……良かった……? どのへんが……?」

 (──しまった。あれだけ噛みまくったことは本人も自覚してる様子だったのに……)

「いや! 噛みまくってる様子がハラハラして、みんな応援してたっていうか……無事にやり遂げて偉いなっていうか……」

 そこまで言った時、足首の辺りに衝撃を受けた。

 とっさに下を見るとつかさが足がサッと引っ込むのが見えた。

 普段なら喧嘩になるところだが、新菜にいなの哀しげな表情を見ると、力ずくでも止めてもらったつかさに、飛鳥あすかは感謝する。

「あ、あの……」

 新菜にいなは眉を下げながらも、唇はキュッと真一文字に結んでいる。

「ねえ、指宿いぶすきさん、今日のお昼ごはん、一緒に食べない? もちろん、このバカ抜きで!」

「うん!」

 つかさの提案に対し、新菜にいなは今までの表情を一転させ、華やかな笑顔を見せた。

(……完全に嫌われた……)

 その後すぐに予鈴がなり、担任教師が教室に入ってきたことで話は中断されることとなった。

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