17話

瑠維と海聖の声が、

遠くの水面みたいに揺れながら近づいてきた。


「……おせぇよ」


喉が焼けるように痛い。

声も掠れてる。

でも文句だけは吐かずにいられなかった。


その横で──


腕を支えてる女。


こいつ……さっきからずっと震えてる。

手首も、指先も、肩も。


普通ならとっくに逃げてるだろ。

こんな血まみれの俺なんか支えながら

暴走族の抗争のど真ん中に立ってんだから。


……頭、おかしいんじゃねぇのか。


そう思ったはずなのに。


目の端に映る横顔に、

なぜか意識が引っ張られる。


顔ちっさ……

しかも、なんだこの色。


月の光で青く透けて見える瞳。

白すぎる肌。

息したら壊れそうなくらい細い身体。


……綺麗、って言葉じゃ足りねぇくらいだな。


自分で思って、舌打ちしたくなった。

こんな状況で何考えてんだ俺は。


「ユイ!!」


瑠維の叫び声で現実に引き戻される。

喧嘩の音が止んで、阿李猫の呻き声だけが響く。


終わったな。

あいつらが来たってことは、だいたい片付いたってことだ。


力が抜けて、膝が落ちかける。


すると絃がびくっとしながらも

俺の腕を必死に引き上げた。


「だ、大丈夫ですか……!」


恐怖で泣きそうなくせに、

それでも俺を離さない。


なんでだよ。

なんで逃げねぇんだよ。


「……行くぞ」


俺は遊具の陰から出るために、

絃の指に少し力を込めた。


女は息を飲んで、それでも従うように足を動かす。


暗闇から出る瞬間──

月明かりに照らされた絃の顔がよく見えた。


……綺麗だな。


だから、余計に。


ここに連れてきてんのが間違ってる気がした。

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