第5話 収益化の確信

ダンジョン管理棟の裏手にある、年季の入ったカキのアパートの自室。


カキは初期装備のナイフをテーブルに置き、古びたノートPCを開いた。彼の目的は、討伐報酬やアイテム収集による正規の収益ではない。彼の目的は、ただ一つ。


『未来の配信による収益化』だ。


彼は、自らが撮影していたRTAの動画ファイルを、世界最大の冒険者配信プラットフォーム『ADVENT CHANNEL(アドベン・チャンネル)』にアップロードした。タイトルはシンプルに『第一の洞窟 RTA 0分42秒』。


「よし、これで完了。あとは、未来の俺がこれを『配信』したことにするだけだ」


カキは目を閉じ、再び能力を起動した。


【未来RTA配信コメント閲覧】


脳内に映し出されたのは、アップロード直後の「現在」のコメント欄ではない。数年後の未来で、この動画が『バグ技RTAの伝説』として再発掘され、人気を博している時のコメント欄だ。


<RTA配信コメント(脳内表示)>


-RTA_Fanatic-: この頃はまだ、運営もバグ技RTAを規制しきれてないんだよな。


-収益ゲッター-: 0分42秒で10万ポイント(約10万円)の投げ銭確定してるの凄すぎる。


-Glitch_Master-: これが彼の伝説の始まり。この動画で、カキの配信チャンネルは一気に世界トップになったんだ。


カキの顔に、明確な満足感が浮かんだ。


(収益化、成功。初動の投げ銭は10万ポイントか。悪くない)


この能力の最大の利点は、未来の投げ銭や広告収益の額までもが、リアルタイムのコメントに紛れて示されることだ。彼は、自分の行動がどれだけの収益に繋がるのか、確信を持って動ける。


しかし、そのコメント欄の端に、冷たい警告のような一文が流れた。


-システムエラー-: この配信、『バグ』が起こる直前のアーカイブだよな。


カキは、そのコメントをあえて無視した。


「さあ、第一歩は踏み出した。次は、バグ技の応用。初期ダンジョンじゃなくて、第二階層のRTAに取り掛かるか……」


カキは、静かに次の目標を見据えた。彼のRTAは、始まったばかりだ。

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