「早速だが君のパンツを拝見させてもらうよ」
二階の来栖の部屋は異様だった。下着やコスプレのような衣装が壁一面にかけられ、壁の対角線に紐が通って同じような衣装がいくつも吊るされている。
鍵の付いた中型のガラスケースが置いてあり、古めかしい褪せた下着がいくつか飾ってある。
衣裳部屋のような内装だったが、机や棚も設置されていて生活スペースとして機能していた。
九品田は地雷でも避けるように、八畳の部屋を恐る恐る進む。
「こ、コスプレ部屋……ひっ」
トルソーの服かけが一つあり、長躯の来栖が着るには少々サイズの小さい特攻服が飾られている。
九品田はいそいそと距離を取り、鍵のかかったガラスケースに体をぶつけた。その中には下着が幾重にも吊るされており、手前にとあるフィギュアを発見して声を上げた。
「こここ、これ秋山先生の新作!?」
来栖はテーブルの上を片付けた後、はしゃぐ彼女へ忍び寄るように近づいた。
「その通り『怪物の右手』の作品だ。それと早速だが君のパンツを拝見させてもらうよ」
「え?」
スウェットのズボンを勢いよく下され、九品田のパンツが露になった。「ひぃい!?」と顔を真っ赤にしたと同時、来栖が胸元を手前に引っ張りブラジャーを覗く。
九品田は顔に集る蜂を振り払うようにバタバタと手を交差させ、来栖の拘束を解いた。
「なっ、な……なんなんですか!? 変態!?」
ズボンを上げてぺたんと座り込む九品田を、来栖は実験動物を眺めるように見下ろす。
「年頃にしては大変興味深い。これを身に着けられる心理を知りたい」
「こいつ、まるで下着に興味ないんすよ」
来栖の下着コレクションを一通り眺めた剛力が合流し、狼狽する九品田を無視して二人は下着について語り出した。下着を見せ合い、何かを評論し合っている。
(ヤ、ヤンキーって皆こうなの……!?)
九品田は猫耳を触る来栖の後ろ、飾られた秋山黒鐘のフィギュアを見て気を取り直した。
「こほん……それで、あの、何故私はここに拉致されたんですか?」
「おや、これは申し訳ない。ちょっと待ってくれ……さぁ、これをどうぞ」
来栖はかけてあったスーツから名刺を取り出して渡した。名刺には『株式会社ホワイトランドランジェリー 営業部課長 来栖玲子』と書かれている。
「君はスカーフェイスという名で活動している原型師らしいね。それなりに知名度もある」
「え、え~? それほどでも? あったりなかったり、うぇへ」
まんざらでもない様子で名刺に目を通していると、相手の会社がコンテストの開催企業の一つであることを思い出し、緩んでいた九品田の表情が引き締まった。
「注目を浴びるため、話題性のある人材の出場は欲しい。少々足踏みしている君の背中を押してほしい真広の訴求と、私の利害が一致したんだ」
「あ、足踏みというか、まぁ……」
来栖は品定めするように火傷痕をじっと眺め、財布から一万円札を取り出した。
「忙しくて何も用意できてないんだ。真広、その辺で何か買ってきてくれるかな」
「先輩のパシリ久しぶりっすね」
と、剛力は嬉しそうに金を受け取り、頭を下げて家を
出て行った。遠くなるバイクの音を確認した後、来栖は九品田へ向き直り指の骨を鳴らした。
「ではお話しよう。スカーフェイスがコンテストに出たくなる、興味深い下着の話を」
「き、拒否権はどうせないんですよね? あの、目が怖いんですけど……」
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