森
佳奈は膝を曲げて、踵の上の方と靴の間に指を入れた。「ねえ、とりあえずさ、行くだけ行かない?」
「どこに?」と凜。彼女は肩のぶつかった男子に「あっ、ごめん」と囁いた。
佳奈は昇降口を出ると「森」と短く答えた。「箱、見つかったらラッキーじゃん」
「ああ、川本くんと付き合えるからか」と優香、佳奈は「黙れ」とすぐに返した。
「だって噂が本当だったらさあ、私たちもう成績最強だよ。学年一位とかとれちゃうよ?」
「あー、うち、そういうの興味ないから」と優香、佳奈は「嘘おっしゃいよ」と笑った。「優香なんか教科によっちゃ私以下だろって」
「うるさいんだよ」と優香も笑った。
凜は指先で前髪をいじった。「ええ、じゃあ行く?……とりあえず私、今日はバイトないし」
「どこに行くの?」
一同は驚いて声のした方を振り返った。「びっくりした!……」と三人で声を重ねてから、佳奈が「木村さん」と声の主を呼んだ。
「いや、箱をさがしてみようかって話してたの。木村さん、内山と一緒に行ったんだよね?」
木村は佳奈らよりも高いところにある顔を一つ頷けると、小恥ずかしそうに微笑した。「私もそういう噂っていうか、都市伝説っていうか? 好きなの」
凜が「ええ!」と声をあげた。「意外! むしろ全然興味ないのかと思ってた!」
木村は目の横を搔きながら僅かに頬を赤らめた。「内山さんにも言われたよ。でも特に願いが叶うなんていうのにはね……」
「興味あるんだ!」と優香。「本当、意外だね」
「一緒に行ってもいい?」
「もちろん」と佳奈が大きく頷いた。「木村さんの願いごとについて根掘り葉掘り訊きながら行くよー!」
木村はますます恥ずかしそうにして「やめてよ」と笑った。
校門を出ると、佳奈が「木村さんの願いごとってなんなの?」といった。優香が佳奈に続きを言わせずに「佳奈の願いごとは川本くんと付き合うことなんだけどー」と笑ったから、佳奈は彼女のこめかみを小突いた。「ふざけんなってまじで」
「でもちょこちょこ一緒にいるでしょー?」
「幼稚園のころから一緒なんだっつうの。ここで初めて会ったような人よりずっと話しやすいやろがい」
「あんまりむきになると怪しいよー?」と凜が笑った。
「いいな、幼稚園のころから同じなんて」木村がいった。「私は一回、小学校のころに引っ越しちゃって、そんな人いないから」
優香の足が小石を蹴飛ばした。何歩か進んで、もう一度、もう一度。「そういえば木村さんって中学校どこだったの?」
「北中」
「へえ!」
「でも家はこの学校の方がずっと近いから、通学は今の方が楽。中学ではなんか、地区によって歩きと自転車通学って別れててね、私の地区は歩きだったの」
「ああ、そういうの嫌だよね。もうちょっとこっちに寄ってれば自転車使えたのに! みたいな。私は小学校のころだよ、あとちょっとでバスで行けたのに、歩きだった」
「優香、ずっといってたよね」と佳奈が笑った。「特に水曜日以降ね」と凜も笑う。
佳奈が優香の蹴っていた小石を横取りした。優香は佳奈のふくらはぎに靴の爪先をあてたが、佳奈はへらへら笑うだけだった。「でもそっか、木村さん、家近くなんだね」
「じゃなきゃ、こんなふうに箱をさがしたりしないよ。帰りが遅くなっちゃう」
凜がはははと笑った。「それ、私たちに早く帰った方がいいよっていってるの?」
木村はいたずらっぽく笑った。「そうかも? まあ、うちには放任主義のお父さんしかいないんだけどね」
凜が「あっ」と叫んだ。「お父さんと二人なんだ?」
木村は恥ずかしそうに微笑する。「ちょっといろいろあってね」
佳奈はちょっと大げさに伸びをした。「よーし、絶対箱見つけるよー? そこの莫迦二人はくだらないこといってるけど、こっちはテストで満点とりたくてしょうがないんだから! ぶっちゃけ成績さえよければ世の中どうにでもなるんだから」
優香が大仰に顎へ手をあてた。「なるほど、成績さえよければ彼氏ができるんだ!」
「ふざけんなよまじで。あいつとしか付き合えないなら恋人なんかいらないっつうの」
優香と凜が明るく笑うから、木村も一緒に笑った。
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